園児の血

 

                      第五回

              *血闘*

 

カネダが俺を見ている。

コウジが遠くをにらむ。

「やるの」

「ああ、待ってな」

俺はカネダに言い捨てた。

 

「詳しい情報を聞かせろ」

「クラトはお遊戯ルームにいる」

「数は」

コウジは立ち止まる。

「数は」

俺はイラつき、コウジを振り返った。

「6だ」

「ろく、、、か」

「ああ、、、、、、。引き返してもいいんだぜ」

「、、笑わせるぜ」

俺は再び歩き出す。

砂ぼこりの園庭を抜け、下駄箱で上履きに履き替える。

くそ、頭が痛みやがる。

 

俺はオカッパを手櫛でくしけずり、オオマタで廊下を歩く。

「お遊戯ルームだったな、。先生は?」

「いねえ。、、、、タカシよ、、」

コウジが立ち止まる。

「、、、、俺は加勢できないぜ」

「ああ、わかってる」

お遊戯ルームの引き戸を思い切りひいた。

 

蛍光燈の白々しい明かりに照らされた四角い部屋。

大きく取られた窓からは園庭が一望できる。

面白そうなオモチャに囲まれたクラトが部下をはべらせていた。

お遊戯ルーム内の園児達が一斉に俺を見る。

ルームの端の方でママゴトに興じていた女共も箸を休めた。

ヤスヨ、、。

「タカシ君、、」

ヤスヨがただならぬ俺の姿を察してか、近寄ってきた。

「すまねえが出てってくれねえかい」

コウジが割り込む。

コウジは女共をルームの外に出した。

すまねえヤスヨ、お前には心配ばかりかけちまうなあ。

 

「きさんら、何しに来よった」

クラトがドスの効いた声を出す。

クラトの兵隊達はすでに臨戦態勢に入っていた。

「ふざけろ。胸に手を当てて考えてみな」

クラトは胸に手を当てて考えてから言った。

「何しに来たんじゃい」

「お前カネダコレクションに手え出したろう」

「何の事じゃい」

シラの切り方までどうにいってやがる。

「何の事かと、きいとんじゃい」

クラトはさらに声を荒げた。

「おいネタは確かなんだろうな」

俺は少し引き、コウジに耳打ちする。

「、、、ああ、、」

「おい」

「多分」

緊迫のお遊戯ルーム。

「お前、カネダのスプリングマン取っただろう」

「取ってないわい」

「なんで」

「取ってねえって」

「嘘つけ。な。」

俺はコウジに同意を求める。

「取ったぜ、見たぞ、お前がスプリングマン持ってるの」

「これは買って当たったんじゃい」

「嘘だね」

「ふざけんな、やれ」

クラトの兵隊共が俺に向かってくる。

俺はそいつらをかわし、お遊戯マットにアグラをかいたクラトに突っ込んでいった。

後ろでコウジの悲鳴が聞こえる。

コウジはクラトの兵隊達にくすぐられたり、ツネられたりしている。

すまんコウジ、引き付けておいてくれ。

クラトにぶち当たる。

不利な体勢にいたクラトはバランスを失いマットの上に崩れ落ちる。

「このガキい、、」

下に組み敷かれたクラトは手を伸ばし、俺の右のホッペタをツネってきた。

俺はその体勢を利用してクラトにツバをたらす。

クラトは首を振り俺のツバを避けるが、首を落とした時に後頭部にツバがついた。

「みたか」

俺は叫ぶ。

クラトは逆上し俺のオカッパに手を伸ばした。

避けきれない。

オカッパを引っ張られ俺は泣きそうになった。

泣いたら負ける。

オカッパをわしづかむクラトの腕を思い切りツネる。

クラトは微笑んだ。

「効かねえなあ」

くそ。

俺は両手で爪をたてクラトの腕をつねった。

クラトの顔が苦痛に歪む。

いける。その時、俺の下半身が宙に浮いた。

コウジは戦意を喪失し、クラトの兵隊達は俺を取り囲んでいた。

やられた。

「やめんかい。」

、、、、。

クラトの一喝で兵隊達が手をひく。

クラトは俺のオカッパを更に引っ張り、

痛さとクラトの態度に戦意を失いかけた俺を逆に組み伏せた。

クラトに両ホッペをツネられ、遠のいていく意識の中でコバヤシ先生の声が聞こえた。

ゲームは終わった。俺の完敗だ。

 

俺達は怒られた。

クラトと俺は特に怒られ、

俺は先に泣き嘘をついて先生内に、クラト悪しの評判を高め、

クラトはひくぐらい怒られていた。

クラトが先生達に囲まれて怒られている時、

俺は机につっぷして先生達が怒るに怒れないくらい大声で泣き、

窓から園庭を見ていた。

ヤスヨが全然関係ない園児達とナワトビをして遊んでいた。

なんだよ。

 

帰り際、カネダの園バックの底からスプリングマンが出てきた。

コウジは俺に対して不信感をつのらせていたが、

俺はカネダをひっぱたき、説教をし、とりあえずカネダが悪い事にした。

園内ではクラトがスプリングマンを盗んだ事になっていたので、

その辺はそのままにしておく。

世論はいつでも俺の味方だぜ。

 

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