![]() 園児の血 第二回 *本気で怒られる* 園児達の声が響く。 俺と鉄棒の間を、園児の群れが通り過ぎた。 ちっ。 怒気が萎えるぜ。 ゆっくりとクラトのいる鉄棒へ向かう俺、 クラトは手を放し、鉄棒から地面へ降りた。 でかい。 俺は歩みを止める。奴はでかい。 再び一歩を踏み出す俺の肩を、強くつかんだ、 振り向くとコウジが立っている。 「止めときな」 「、、、」 「戦う理由がねえ」 、とんだ腰抜けだぜ。 コウジに対する、朝の予感は吹き飛んだ。 「知らなかったな、 戦いに理由が要るなんてよ」 俺はコウジを振り切り、クラトの方へ、 奴は奴の兵隊と何やら話していた。 「あんた勝っても負けるぜ」 コウジが俺の背に投げかける。 「どういう意味だ」 俺とコウジはにらみ合う。 「あんた、そうとうの馬鹿だな」 「なに」 「だが、」 「あ」 「、嫌いじゃないぜ。、、、まあ来いよ」 コウジはきびすを返す。 わからねえ奴だ。俺はコウジの後を追った。 「あんた、世論を知ってるかい」 園庭の外れ、銀杏の木の下でコウジが口を開く。 俺達は樹にもたれ、園児達を見ている。 「しらねえなあ」 半ズボンのポッケに手を突っ込み、お互い別々の場所を見ている。 「あんたに必要なもんさ」 「俺にはそいつがねえとでも言うのかい」 「はははは」 「なにがおかしい」 「そう焦るな、大将」 コウジは俺に世論の話をした。 かいつまめばこんな話だ。 勝って、人気を得る喧嘩がある。 その逆もある。 勝って人気を得れない喧嘩は必要のない喧嘩だ。 「話は判った。お前何が目当てだ」 「あんたが気に入っただけさ」 コウジはオカッパをかきあげ、樹を背中で蹴ると歩き出した。 「おい、お前、俺の兵隊にならねえか」 「そうだな、、考えてやってもいい」 コウジは園の中へ入っていった。 給食の時間。 俺のサクラ組には、クラトとキミコがいる。 コウジはスミレ組だ。 ヤスヨは何組なのだろう。 俺は列の最後尾に並び、給食の配給を待っている。 なにかのスープと、なにかが混ぜられたご飯が、俺の皿に盛られる。 うまそうだぜ。 お盆を運ぶ、いくつかのテーブルをくっつけて、サクラ組に班が形成されていた。 俺は自分の班の自分の席に座る。 キミコが俺の前にいた。 「あんた、恐くなって逃げ出したの」 「気分が乗らなかったのさ」 「コウジと何話してたのよ」 「質問が多いぜ。ここは俺のファン倶楽部かい」 俺は笑ってキミコを見る。 キミコは頭頂部のおさげがワッサワッサなる勢いで、 ソッポを向いた。 コバヤシ先生の号令がかかる。 「いただきますを、します」 「いただきます」 俺は大声で答えた。組の園児達の声でかき消される。 園児達は猛然と食いはじめた。 しばらく食器の音が続く。 食い終わった奴等が騒ぎはじめると、コバヤシ先生がいらいらしだした。 しかし、俺は食うのが遅く、必死で食べつづける。 この園は、全員が食べ終わるまで、誰も外に遊びに行けないシステムらしい。 やがて、園児達は続々と食い終わり、残りは俺と女だけになった。 女より先に食い終わらねば。 俺は必死に食う。でも、口に入れたら30回噛まねばならない。 物凄い速さで噛む、が、あごに疲れの色が見え隠れする。 教室の端で歓声が上がった。 女が食い終わったのだ。 まずい。容赦のないプレッシャーが俺にのしかかる。 クラトは兵隊に囲まれて俺を笑っている。 くそう、くそう、くそう。食え、食え、食え。 「おい、いつまでかかってんじゃい。こんノロマが」 クラトが俺に罵声を浴びせる。 これは勝って人気を得る喧嘩か。 いや、売られた喧嘩は買うぜ。 俺は残り、17回を必死で噛み、口の中のものを飲み込むと叫んだ。 「うるせい、兵隊つれていい気になってんじゃねえ」 クラトが尻込みするのが判る。 俺が一気に畳み掛けようとした、その刹那、 向こうから物凄い速さでコバヤシ先生が走ってきた。 「兵隊とか言うんじゃありません!! サクラ組の御友達でしょう」 先生に本気で怒られた。 ついでにクラトも怒られていた。 俺は迎えに来たお母さんに、しがみついて先生の理不尽さを、 泣きながら訴えたが、相手にされなかった。 大人に頼っちゃいけねえって事よ。 第一話へ 第三話へ 第四話へ 第五話へ
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