南風のたよりNo33


    南の島の話し・・・家を建てる-3 


      どこまでいっても段取りは狂う

     なんだかなぁーとつぶやいて、私は頭を抱え込んでいた。いつまでたっても進まない現場で、「来月には完成パーティーだぞ」そんな声を何度聞いた事か。11月22日現在、まだまだ住める状態には程遠いのだった。
    確かに、雨が多かった。雨天休業が多くて遅れたと言うのは認める。大工のエリックがバスケットボールの試合で怪我をして数日仕事が出来なかったのも認める。壁塗り専門のブッチョクのお父さんが交通事故で入院してしばらく仕事に出られなかったのも、これも致し方ないとする。だが、まだある。屋根やのなんとかが「どうしたこうした」と言うに至っては、ああそう、へぇーそうとしか言い様が無くなってしまった。だがここで怒ってはいけないのだ。私はある衝撃的な事実を数日前に知らされたばかりだったからだ。その、衝撃的事実とは、うちの現場の手間賃が安いために他に手間の高い現場があると、ここは放っておいてアルバイトに出かけているようなのである。もう何も言う気がしなくなってしまった私は、最後の望みを託した言葉として「クリスマスパーティーはここの家でやりたいよね」と控えめに、弱気に言うのが精一杯だった。ここで癇癪を起こしても工事が遅れるだけなのは明らかだったらだ。
     もう材料を買う事も無くなったと思って安心していた私の脳天をジェフリーの一言が直撃した。窓を作らないといけないが、鉄の格子と網戸で安く上げようか?と聞いて来たのである。私は、ここまで、あれ程材料にこだわってきたお前がこの後に及んでそんな事を言うのか?とショックと怒りを隠せなかった。場合によっては、いや、居間だけは完成と同時にエアコンを入れる予定であった。吹き抜けの鉄格子をはめた窓など許せるはずが無い。私は早速アルミ屋に行ってサッシ窓の見積もりを作ってもらうと言い切った。
     しかし、逆説的に出て私を追い込んで、その気にさせるためのジェフリーの策略に簡単に引っ掛かってしまったと私が気がつくまでに、さして時間は掛からなかったが、もう後の祭り。今さらどうしたって、この期に及んで私に退路は無いのであります。
     サッシ屋の若い者が建築現場に来て、まず寸法を計って店に帰る。それを元に電卓を叩いて店の主人が見積もりを作った。電卓を叩く合間におやじは私に何やかにやと話し掛けては機嫌を取っている様子なだが、聞き取れない早さのビサヤ語なので私は黙り込んでしまっていた。サッシ屋のおやじは20%引きである事を強調しているらしいのだが、もともと相場が分からないのだから、何割り引きと言われてもピンと来る訳が無いのだった。そして提示された値段は、6箇所の網戸付きの窓と、ドア3枚分の網戸の総額が57000ペソだった。
    またもや手痛い出費が待っていたのだ。しかし、狂う段取り、嵩む出費もヤマ場は超したと思う私なのだが、そろそろ総額が幾らになったのか、全体がぼやけて来てしまった。暑さのせいでぼーっとしている頭では、それを真剣に考えるのが重たい作業になってしまっている。嗚呼、恐るべし熱帯の風。脳みそとろける、みなみ風でありました。

    コンクリートだけの家では無かった。

     作業は細かい部分の仕上げと天井の造作に移っていて、ここに来て急に木材が使われだした。以前私は、フィリピンの家はコンクリートブロックでできていて、そして、大工も、どちらかと言えば左官屋の仕事のように見える、と書いた。しかし、屋根の造作に入った仕事を見ると、どうしてどうして、フィリピンの大工もなかなか芸が細かい事を見せつけられた。鉄骨で組まれた屋根の骨組みにジェミリーナの木を組んで、そこにベニヤ板を張って行くのだが、そのベニヤの合わせ目もノコギリで切った跡をカンナで削って綺麗に仕上げてから張り付ける。この時ピッタリはまるのは言う間でも無い事だが、削リ取られる分まで計算された寸法と言うのが私には驚きだった。大工仕事を知らない素人の私だから驚く事で、心得のある人にとっては何でも無い事なのかも知れないが、とにかく私は感激した。


    天井を作るエリック 1


     11月24日のフェスタも大きなお祭りだが、やはりメインはクリスマスと年越しだ。しかし、ブタの丸焼き、レチョンが喰えれば理由は何でも良いのだ。御馳走のたくさん有るパーティーに呼ばれて飲んで喰って踊って唄って、騒いで酔いつぶれればそれで良いのだ。本音はそれだから、はたしてクリスマスと一緒に新築祝いを済ませてしまいそうな時期に完成させるだろうか。皆、お祭りが一回減ってしまう事に気がつかない程間抜けでは無い。そして、華僑の習慣から出たものと思われる、日本のお年玉、ボーナスに当るような習慣も有るようだから、年越しまで仕事を引きずる気配は濃厚だ。

    では、また。

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