南風のたよりNo15


    南の島の話し、誕生日はブタ焼き???? 


    誕生日は焼き豚????豚焼き????とにかく豚を喰うのであります。そして、長寿を祈ってスパゲッティーも喰うのであります。
    豚の丸焼きは、これをレチョンバボイと言います。レチョンとは炭焼きの事でしようか?地元民も良く分かっていませんでした。レチョンは豚ばかりで無く、レチョンマノックと言うのもあって、マノックはチキンのことであります。
    レチョンバボイは、セブなどの大都会では焼いて切り売りしている店もありますが、ドゥマゲッティーにはそう言う店はありません。レチョンバボイを喰おうと思ったら、パーティーをやっている家に押し掛けるか、自分で注文して焼いてもらうしか有りません。たいていのドゥマゲッティーの住人はパーティーでのおよばれに期待を寄せています。
    6月10日、我が家のお手伝いさんと、ダイビングの手伝いの兄ちゃんと、近所の世話になっている運転手のおじさんと、誰だったかの母親の誕生日がだいたいこのあたりに重なっていて、我が家のお手伝いが、一度でいいから自分の誕生日に、自分に捧げられたレチョンバボイなんかを喰ってみたい、と言ったのでした。
    ちなみにレチョンバボイは大きさによっても値段は違うのですが、だいたい3000ペソ、日本円で約8000円位する。お手伝いさんの給料は月に3000円程度なので自分で買うには大変な代物です。
    レチョンバボイ8000円とスパゲッティーとスプライトで1万円かと思うとたいして高くもないか、と私は思ったのでした。
    じゃあ、まあ、誰か彼かの誕生日と言う事で、レチョンバボイを準備して、パーティをしようと言う事に決定しました。
    まず市場に行って豚を注文します。朝注文して夕方もらっても焼けないので、翌日の朝に受け取ることになりました。値段は、小豚で2500ペソ(6800円)でした。次に焼いてくれる店に行って翌日の予約をします。そして翌日朝早く、豚をぶら下げて焼いてくれる店に行き、預けて来ます。待つ事半日、昼過ぎに豚は焼き上がり、バナナの葉っぱにくるんで我が家に到着です。焼きちん300ペソ。「豚の丸焼の写真」
    パーティーと言っても別になんと言う事も無く、ただ飯を喰うだけの事なのであります。ただ単に飯を喰うだけなのでは無くタダメシを喰うのがパーティーなのであります。タダメシを振る舞うと言うのは大切な事らしく、招く方が気を使って、精一杯喰ってもらうのが礼儀のようです。招かれた方は、一言ゴニョゴニョと祝いの言葉などを述べ、さっさとタダメシを喰って帰るのでありました。
    ここでフィリピンの食事の習慣について書いてみたいと思います。フィリピンと言っても、いろいろな地域があるので、私の知っているビサヤ地方の、それも田舎の話しとして読んで下さい。
    ビサヤ地方の一般の人々の食事の風景は質素です。私が見た限りでは、食事と言うよりも燃料補給と言う感覚です。
    主食は米です。炊いた御飯を大皿に盛ります。おかずは大抵一品か多くても2品です。野菜と豚肉を炒めたものが大皿に盛られていてそれだけとか、魚と野菜の塩味のスープが一品だけと言うのが普通です。野菜炒めと言っても別にスープが作られたりはしないので、汁沢山の野菜炒めです。
    食べ方は、大きな皿を一枚とフォークとスプーンを各自が持ちます。御飯を皿に取って、おかずも同じ皿に取ります。この時スープや野菜炒めの汁なども御飯にかけます。それをスプーンとフォークで食べるのですが、田舎の人は右手の五本指で食べます。
    田舎の方やドゥマゲッティーでも貧しい家には食卓は無く、床に皿を並べて食事をする為に、男性ばかりで無く、女性も右ひざを立てて座り、食事をします。自分で食べてみると、この姿勢では、スプーンやフォークを使うよりも手で食べる方が都合が良いのが分かります。
    こんな質素な食事ですから、腹一杯食べても大した時間がかかる訳も無く、食事はすぐに終わってしまいます。そして、狭い部屋で大人数が暮らしていますから、全員が車座になって食べる事などは物理的に無理なので、揃って食事をするなどと言う事もありません。
    食べる順番には暗黙の序列があって、家の主人と奥さんと小さな子供が食べます。次に小さな子供達が順に食べて行きます。その次がおばあさんやおじいさんと親戚や居候です。使用人などのいる家では、一番最後が使用人となります。
    さて、レチョンバボイを喰いに、知り合いだの親戚だの友人だの(私の知り合いや親戚では無いのでどんな縁とゆかりの人達かは知らない)が三々五々にやって来ては、タダメシを喰っていく。客が来る度に冷たいスプライトの1リットル瓶が出され、パスタが皿に盛られて出される。
    客は家の前に来ると、一気に家には入らない。「アョー・・・アョー」と声を掛ける。客は全員手ぶらである。日本語になおすと、「こんちわー」のようなものでしょう。そうやって声を掛けて様子を伺い、家の人が招き入れるまで門の外で待つ。そして家人が門を開けて庭に招き入れても、すぐに家の中には入ってこない。少し家人と外で立ち話をして、さあさあと催促されてから入ってくる。だがここでもまだすぐには席に着かない。入り口に近いテレビの見える椅子などに腰掛ける。そして、食卓のスプライトの氷が3分ほど解けた頃、さあさあ食べて下さいな、と促されて、やっと食べ始まる。ずいぶん遠慮深いものだと私が感心して友人に聞いた。そしたら、日本人の家で食事をしなければならないので、気後れしているのでは無いか、とのことだった。
    普段は、一度食べなさいと言われたら遠慮なく食べて直ぐ帰っていくと言うのだった。直ぐ帰る理由は、他にも呼ばれている人は沢山いるだろうから、いつまでも席を占領しておかないようにと言う配慮のようだった。
    レチョンバボイは私が一番最初に手を付けてからおよそ5〜6時間後の夕方には形が崩れて来ていた。表面の皮のパリパリがおいしいので、まっ先に皮が剥がされて無くなった。次に、脂身と肉が程よくくっついている辺りが攻められ、顔はいつまでも人を睨むように手付かずだった。
    何人の客が食事に来たのか、私はレチョンの皮をつまみにビールを飲み過ぎて寝てしまったので分からないが、スプライトの1リットル瓶が10本以上空いていた。
    誕生日や何かの記念日と言ってレチョンを振る舞うのは、金持ちの見栄っ張りなのかも知れない。それと同時に、金持ちが何かの機会に御馳走するための物なのかも知れない。私には分からないが、我が家はどうも金持ちの家と呼ばれているらしかった。
    まあ、1万円の豚の丸焼きで延べ30人以上が腹一杯になってくれたのだから、ものすごく価値の有る1万円だったと私は満足しています。
    けっして金持ちでは無いと自分は思っていても、笑いながらレチョンバボイを買える普通の日本人は、ここでは金持ちなのでした。
    レチョンバボイは美味しいのか?・・・これの皮はビールのつまみに最高です。肉は、まあ、それなりですが、焼けて直ぐの物で温かければかなりいけます。


    では、また。

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