安森敏隆■現代のロマン |
60年代初頭の学生時代、「広小路文学」同人の一人であった太田代志朗が刺客のごとき無頼漢として語り、飲み、マージャンをするのを傍らで見ていたことがある。あれから三十年ばかりたった今、氏が清かなる夜叉として姿をあらわしたのである。 ・刺客張る逸楽の巷遁れきてたたずむわれは清かなる夜叉 一巻を紐解いてみるとき、この巻頭一首目にでてくる「刺客」と「夜叉」がみごとなまでに交差し、氏の創造する主人公として形象化されていることがわかる。「刺客」はかつて逸楽の巷にあった氏自身のことかもしれない。そして、今、「清かなる夜叉」として蘇えったのである。愛嬢・明日香の不慮の死によって「闇を虚ろにさまよふ一匹の夜叉」となったのである。そして、もう一方の「刺客」は風狂の士として今もなお息を殺しつつ、一巻のモチーフを形成しているのである。 一巻は「清かなる夜叉」(88・3)から、「朱雀門」(90・3)までの418首からなり、福島泰樹の解説と交響しながら現代のロマンと鎮魂を見事に奏でている。 |
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(『関西文学』1995年7月号) |
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