よたよたと、山登り


    No.39 夏でも寒い不思議な場所

       

    前森風穴

      7月26日 朝日沢と夕日沢合流点(10:00)〜急な薮尾根〜前森風穴(13:00)〜薮の中〜急な薮尾根〜駐車地点(15:30)

     夏はやっぱし「風穴」でしょう・・・と、言うお誘いを頂いたので、生まれて始めて、風穴と言うモノを体験しに出掛けて参りました。
    船形山系にはいくつかの風穴が在るのだと、話しには聞いていたんでありますが、私は一つとして所在を知る物は在りません。
    で、今回誘ってもらった風穴は、知る人ぞ知る、が、知らない人の方が圧倒的に多く、しかも、仮に知っていたとしても、んじゃぁ迷わず其所に行けるのかと言うと、それはちょっと無理でしょう、と言う位に難しい場所なのであります。
    従って、今回、千歳一隅のチャンスを得まして、連れて行ってもらい、世にも貴重な体験をして参った訳であります。

     いつもお世話になっている「船形山のブナを守る会」の千葉さんから風穴観察山行のお誘いのメールを頂き、二つ返事でOKであります。
    この度の山行は、宮城県山岳連盟 自然保護指導委員会が主催する山行でありまして、学術的にかなり真面目な山行でありました。
    で、前森風穴の所在は、登山道などは未整備のとんでもない場所でありまして、この日の為に山岳連盟の関係者は何度も山に入り下見を行い、下草や笹なども刈って準備をしてくれていたようでありました。
    私は他人様の世話焼きには至って鈍感で感じないタイプでありますが、昨日の山行に当たっては、ほとんどが人跡未踏の薮を開いてルートを確保されている事に、踏み出す一歩ごとに感謝の念を禁じ得なかった次第であります。

     さて、手元には詳しいルート図など在りますので、ここに載せれば親切なんでありましょうが、寄って集ってドガチャカ人が行くのもナニかと思う貴重でデリケートな自然環境である事を鑑み、場所の特定される情報は載せない事にしました・・・勿体なくて教えらんないってかぁ。
    と、言う事で、歩いた距離にしてみれば総距離高々5キロメートル弱と言う事でナンと言う事も無いのでありますが、行程の全編、ほとんどが薮であり道無き道でありますので、私のようなシロートだけではとても辿り着ける場所では在りません。

    前の人との距離感で傾斜が掴めませんか?

     駐車した場所からすぐに尾根に取り付いた訳でありますが、距離の短さを除けば、飯豊連峰、梶川尾根の飯豊山荘近くにほぼ匹敵する急斜面を登って行く訳であります。
    しかも、そこは登山道では無く、草付きの薮でありまして、木の根っ子を引っ掴んでよじ登る感じであります・・・しかも、上に行く程にかなりな痩せ尾根で標高に似合わず登り応えはたっぷりであります。
    しかし、全行程での最高点が600メートルちょっとと言う事で、標高差は屁みたいなもんでして、まあ、薮以外は大した酷い事は無いのではありますが。
    で、痩せ尾根を登り切り、薮漕をぎ、鞍部を横切ると荒れた林道に出ての歩行となり、しばし息抜きであります。
    この林道歩きが中々楽しく、道沿いのそこかしこにヤマブドウの実が下がっていたりする訳です・・・まだ酸っぱいので食べごろは10月ごろですか?
    少し歩きますと、だいたい昭和の50年代にブナを皆伐してボーズになった山に杉など植え、その後手入をせずに放置された植林地帯の、とある場所に出て、前森山方向を目指して再度山に入る訳であります。

    手入れされずにひねた杉の木の先に前森山が見えています。

     再び山道に入りますと、ここでも笹刈りがされておりまして、主催者の周到さに、重ね重ね頭が下がる次第であります。
    が、しかし、笹が刈られている所以外は、いたる所が原生林の様相でありまして、まず、普通の登山道の感覚とは掛け離れている訳です。
    何と申しましょうか・・・保水力の高い苔がびっしり生えていて、そして、シダ類なんかも目立つ訳です。
    そうですねぇ、見た事無いんですけど、原始時代のイメージとでも申しましょうか、恐竜なんかがとても似合う雰囲気で在りました。
    そんな訳で、次第に盛り上がる雰囲気に合わせるかのように、一歩踏み出した所を境にスーッと気温が下がったのであります。
    その瞬間はとても明確で、ウヒャァー涼しい、と誰もが声に出す程でありました。
    私は樹林帯に入った事と、苔類からの気化熱でひんやりしているんだろうと思った訳ですが、更に進むと理屈ではとても説明出来ない冷気を感じるようになって来るのであります。
    まあ、なんであれ、理由の云々は分りませんが、これを境に明確にぐんぐんと温度が下がって行く訳であります。
    で、高度計を見ると僅か580メートルの標高にダケカンバやシャクナゲが生えている訳で、辺りの植生は亜高山帯の雰囲気であります・・・ちょっと大袈裟か?

    ダケカンバとシャクナゲなんですが、写りは今イチでした。

     うーん、なんとも不思議な自然環境だな、低温がもたらす疑似高山帯と言う事でこんな植生なんだろうか、と歩いていると、この付近の最低点でちょっとした広場に成った鞍部に出まして、その辺り一帯が風穴の低温地帯でありました。
    シロートのちょっと見で言うのもナンでありますが、前森から崩れた岩石が堆積した場所で、中はスカスカで空気が流れるようになっているんだろうと思う訳であります。
    で、気化熱やら、対流やらと理由はいろいろ有るんでしょうけれども、ナンであれ、冷たい空気が石の隙間から吹き出している訳であります。
    同行した人が吹き出し口の冷気の温度を計測したんでありますが、5度であったと言う事でありました。

     さて、目的地に到着し、時間も丁度良い頃でありまして、お昼の休憩の合図が出されました。
    で、この度は「船形山のブナを守る会」の世話人であり、今回の山行を誘ってくれた千葉さんが、豪華なランチを準備してくれた訳でありまして、私は呑気に手ぶらで参加し、それを頂いた訳でありましす。
    で、千葉さんからは折りに触れ、山行のメールなど頂く訳でありますが、常に豪華なランチの写真が添付されているのでありまして、私はそれを羨ましいと涎など垂らして拝見していた訳であります。
    この日は団体行動の合間の昼食と言う事で時間が取れないだろうと読んだ千葉さんが、手早く出来るメニューでまとめて来たとの事でありましたが、ツナサラダやシチュー、野菜たっぷりのサンドイッチ、それに赤ワインまで付いている訳でありまして、いつも腰を下ろして昼飯を食べる事もしない山歩きをしている私には、驚愕の光景が眼前に展開された訳であります。
    ただ、惜しむらくは千葉さんの予想通り、昼の休息時間が30分にも満たなかった事で、忙しいランチタイムであった事であります。
    しかし、山岳連盟の方から、出発しますよの声がかかってから10分程は粘りまして、最後尾を担当された方からはチョット顰蹙ムードの電波が出ていたのはご愛嬌でありましょう。
    しかも、フルコースのランチにはコーヒーまで予定されていたのが時間の関係で省かれたそうでありますが、まず、30分であのランチは神業でありました・・・ごちそうさまでした。
    千葉さんの40リットルクラスのザックは、食料やポットのお湯やコンロ、コッヘルなどでまるで泊まりの山行の様にパンパンでありまして、それを背負って歩いていた訳で、重ね重ねご苦労様でした、と、この場でお礼を述べさせて頂きます。

    これが噂の、あの豪華ランチの全貌だ

       さて、皆様ご一行がさっさと立ちたかった理由は、たぶん寒かったんだろうと思う訳であります。
    私達が食事をしていた場所の気温は8.9度でありましたから、羽織るものも薄手の合羽程度では冷えて堪らない訳であります。
    で、皆様ご一行が歩き始めているにも拘らず、まだ昼飯を食っている連中が居る・・・なんだこいつ等は、と言う事で「うちのグループでは有りませんよね」と・・・ありませんよね、の断定で問いかけられてしまった訳であります。
    いえいえ、しっかりとグループの一員であります、ただ今、ただ今ぁー・・・と、出発準備を急ぐんでありますが、食べる時に何の手伝いも出来なくて手を拱いて見ていた私は、後片付けでもやっぱり役に立たない訳であります。
    そんな訳で、いい加減呆れた光線を浴びながら先行する一段を追いかける事、僅か3分・・・なんだ、進んでないなぁ、と。
    冷気の溜まった風穴地帯から少し歩いて、気温が上がり始めた所で、ちょっとした窪地と言いますか空き地と言いますか、植物が生えていない場所が目に入った訳であります。
    で、同行のMさんと二人で、冷気を再び、と、その場所へ踏み込みますと、なんとぉー・・・そこは辺りよりも一段温度が高い訳であります。
    ああ、成る程、冷気が吹き出す風穴には温気を吐き出す排気の穴がある事が多いと言うのをネットの下情報で得ていた物が正しくこれだな、とぴーんと来た訳であります。
    これは、学術的にはどんなもんなんだろう?なんとなくだけれども、凍土や積雪などが関係ない低い標高の風穴としては、価値がありそうだぞ、と思ったのはシロートの勘違いでありましようか?

     さて、後は帰るだけ・・・薮漕ぎと急な尾根のくだりがちょっと心配だな、と言うだけで、距離も無いし、と、お気楽ムードであります。
    うーん、赤ワインが効いているのか、なんだかとっても足がふわふわっぽくて気持ち良いんであります。
    そんな時でありました、ちょっと遠くでバラバラバラバラと大粒の雨が落ちて来る音が走りまして、間もなくここも、と言う感じに成った訳であります。
    来たなぁ、と言う事で、合羽を着込んでいる最中にも大粒の雨が落ちて参りまして、雷雨襲来でありました。
    この時、同行のMさんから、ブナの葉っぱは雨粒を漏らさないように受けて、小枝から枝、そして幹と集めるんだ、と説明を聞いたのであります。
    で、ふうーん、と、実感も無く聴いていたんでありますが、傍らのブナの幹を見ると、水が筋になって、宛ら木の川と言える程の水流で流れ落ちているではありませんか。
    ブナの木の幹にちょっと指など添えて水の流れを止めると、ごくごくと飲める程の水量が流れ落ちているのであります・・・驚愕です。
    何でも舐めたりしゃぶったりする癖のある私はブナの木を流れ落ちる水を飲んでみました・・・甘露であります・・・まっ、ホントの事言うとただの雨水ですけど。
    へぇー、ブナ木が大切だと言われても他の木とナニが違うのか、やたらとブナの木を大切に崇める、言わばブナの木信仰にちょっとアレな感覚を覚えていた私でありましたが、この保水力を見せつけられれば、山にブナの木が必要な理由が一発で納得出来ると言うもんであります。
    もしもブナ林で大雨に有った時には是非、ブナの木を流れ落ちる水の勢いを観察して頂きたいもんだと、切に思った次第であります。

     さて、この後は合羽を着てゾロゾロと下って行く訳であります。
    で、時折点呼を採るんでありますが、平均年齢の高い一団と言う事で、番号を連呼する中に、世界のナベアツを演じる人などは出無い訳です。
    総勢35名、番号・・・イチ・ニィ・サン・・・サンジュウ・・・と、30番の声を上げる私は最後尾を歩いていた訳であります。
    前に30名も踏んでいるとなると薮漕ぎも楽なもんで、雨に濡れて見事な緑の森を散歩気分で行く訳であります。
    登りで気を使ったやせ尾根の急下降も難なく通過し、全員無事に駐車地点へ到着、でありました。
    その後漆沢ダムの駐車場に移動し、点呼を採り解散でありました。

     いつも単独登山が主で、団体行動と言えば「船形山のブナを守る会」に山行や行事に参加させてもらっているだけだったのでありますが、そこで知り合った人達からまた次の山行を誘って頂けるようになり、今回のような貴重な体験を出来た訳であります。
    独りで行く山は気楽で良いけど、皆で大勢で行く山は後々まで心に残る訳で、山は、大勢の方が絶対に楽しいなと、確信した今回の山歩きでありました。
    誘って頂いた「船形山のブナを守る会」の千葉さんや、同行させて頂いた皆さんに感謝であります。

        この話 完


    場所や時間はかなり適当ですので、ご注意下さい・・・


    ご意見ご感想は 承っておりませんが・・・


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