南風のたより・番外編

 

気軽なツーリング・・・レイク・パラナン


  とりあえず記念撮影の図

 暇さえ有れば行くのです・・・バイク乗りに行くのです。
この日は午後の飛行機で来るお客さんが一人。
空港で、当てにならない到着時間を確認すると今日も遅れて、おおむね5時頃との事、ああ、午後は暇だなぁと思って空港から帰って来た。
昼飯を食っているとラムズが来た。私「オー、ラムズ、カオンタ・・・」 ラムズ「ブソッグナ、コ」私「シギー、カオンナァ・・・」ラムズ・・・皿を取って、思いっきり飯を食い始めた。
そこで、食事をしながらラムズが聞いて来た。午後の予定は?と。私は5時頃空港にお客さんをピックアップに行くけど、それまでは別に何も予定が無いと言った。ラムズが湖を見に行こうと言い出した。往復で3時間あれば大丈夫だと言う。場所はレイク・パラナンと言うところで、道はそう悪くは無く、先日のツインレイクよりも随分楽だと言う。
私はフィリピン人の時間の感覚を信用していないのだが、ラムズは違う。ラムズは日本の貨物船で船員として働いていたので日本人の感覚を良く知っていて、大きくいい加減な時間は言わない。
そこへマッツがやって来て話に加わった。彼は既に行く気で、早く飯を食えと急かして来た。しかも、パッツに電話をして呼んだようだった。
じゃあ行くよ、と私が言うと珍しく黙って話を聞いていたジェフリーが、自分は留守番をしているから、時間を気にしないで行って来いと言った。ジェフリー曰く、5時のお客さんに間に合わなかったら大変だから、Bomが帰って来なかったら自分は4時半には空港へ行くからと言った。有り難いお言葉である。流石にMDSの番頭さん、J-POYさんである。バイクは故障やパンクや事故だって考えられる。どちらかが残っていれば問題ないだろう、と言う事だった。
が、それも本当だろうが、もう一つ理由は有ったはずだ。余りの炎天下で行きたく無かったのだ、と私は思う。



  またまた記念撮影の図(遠くに海が・・・見えませんか?)

 昼食を急かされて食べ終えた時にパッツがやって来た。軽いツーリングで遠出では無いと言うのにパッツは重装備だった。いつものようにパン修理道具一式も持っていた。
マングナオを出たのは12時頃だった。途中ダーウィンでガソリンを満タンにした。取り合えずの目的地はシアトンだった。ドゥマゲッティーからシアトンまでは何の変哲も無い一本道だ。単調な炎天下の道、焼けたコンクリートやアスファルトの道路を行くのは結構大変だった。水を持って来るのを忘れた事を後悔していた。
サンボンギーターを過ぎると町らしい町はシアトンまで無い。峠に入ってからは風が強くて走り難かったがその風が炎天下の灼熱をいくらか和らげてくれた。太陽は殆ど真上で雲一つない晴天だった。
シアトンの街まで一時間弱で来た。パッツがいつもバイクのチューブを買う店の前で停まった。今日もチューブを一本買った。私は軒先きにぶら下がっている指先が出るグローブが気になって値段を聞いた。50ぺソだった。やけに安い。まさか、右手が50ペソ、左手も50ペソで都合100だ、なんて事は有るまいな、と思いながら100ペソ札を渡した。ちゃんと50ペソのお釣をくれた。
水を買いたいと言ったらパッツがドラエモンバックからミネラルウォーターを取り出して投げてよこした。本当にドラエモン級の用心だ。



  レイク・パラナンの遠景(クリックすると大きくなります)

 シアトンの街を過ぎて最初の橋を右折して山道に入る。山道と言ってもひどいオフロードでは無く、湖まで車でも行ける程度のラフロードだった。道幅も広く、穴もあまり無く、鋪装されていないだけの普通の田舎道の様相だった。しかし、これがかえって曲者なのだ。道幅がそこそこ有って路面の状態もそこそこと言うと車が多くなり、そしてスピードもそこそこ出すのでバイクで追い付いてもかえって抜き難いし、カーブでは対向車に気を着けなければならなかった。そして、一番困ったのは土ぼこり、車の煙幕だった。抜くに抜けない状態で車の後ろに張り付くと物凄い土ぼこりで呼吸困難になる。さっきのバイク屋でパッツが口と鼻を覆うマスクを買っていた。理由はこれだったのだ。私もバイクを停めてバンダナでマスクをした。乾季のバイク乗りにはマスク・日焼け防止・ゴーグルなど、雨季とは違った装備が必要な事を知った。
 シアトンの橋から湖の駐車場までは20分程度と近かった。終点には広い駐車場が有り、レストハウスのような物が有った。駐車場には四駆のワゴンが数台と中型のマイクロバスが停まっていて、そこそこの人が訪れている様子が伺えた。標高が高い訳では無いのでそれほど涼しくは無かった。
 先月行ったツインレイクは深山幽谷の様相で、それこそ、山を越え谷を越え、川を越え野原を駆けて辿り着くような場所だったが、ここは手軽だった。この日はマニラからの団体も来ていた。
 湖の周りには遊歩道があって、良く整備されていた。湖の岸は所々崖になっていてその部分にはコンクリートの橋を掛けて遊歩道を繋いでいたがぐるりと一周できる様にはなっていなかった。湖を一周したり対岸に行くにはボートが必要だった。


  レイク・パラナンの遠景2(人力の渡し筏)

 整備された遊歩道は歩きやすかった。歩道は日陰になり涼しく、生き返った心地だった。歩道の周りには熱帯のシダや大木が生い茂り、自然のままの状態を保っていた。ここで見る限りでは、熱帯のジャングルと言うのは密林では無く、下の方は陽が当たらないので植物は茂っていなくて、日本の夏場の山よりさっぱりしている。
 湖水はうっすらと濁っいて、遊泳可能と言われたけれど私は泳ぐ気にはなれなかった。水深は結構深いらしので潜ってみたら面白いかも知れない。湖の周りには蝶やトンボも見られ、ドゥマゲッティーなどの街場では見られない鳥も沢山見られた。ラムズがここで釣りをした事があると言い、獲物は「ティラピァ」だと言った。ティラピアは放流した物らしく天然では無いとのことだった。岸辺の浅瀬には日本で見る「アブラハヤ」のような魚も見られた。私がラムズに大きな魚はいないのかと聞くと、魚はせいぜい30センチ程度のものまでだと言った。しかし、マッツが、でかいのなら「アナコンダ」がいるぞと言った。アナコンダとはニシキヘビの事で、体長10メートル以上のものがいるとの事だった。実際シアトンとサンボンギータの間の峠に小さな動物園があり、そこには10メートルクラスのニシキヘビがいる。
 ラムズが私に「Bom、キャンプ道具を持っているか?」と聞いた。私は「なんで?」と答えた。ラムズはここの対岸でキャンプをしてティラピァを釣り、鹿を捕まえて遊ぶと面白いのだと言った。テントと鍋さえ在れば後は何とでもなる奴らだから、今度日本からテントを持って来ようと思った。
 こんな事を書くとフィリピンなら鉄砲などで獣や鳥も撃ち放題だと思われるかも知れないが、狩猟はほとんど御法度だ。パッツの農園の私有地には鹿が沢山いるが捕るのは禁じられている。だから彼等は夕方、隠れてこっそり仕留める。余談だが密猟にもルールが在って、ある年令以上の雄しか捕らない。小さい角の鹿は絶対捕らないし、雌も捕らない。また密猟なのに捕る時期まで決めていて、不思議な事に密猟者は皆このルールを守っている。そして、この時期には取り締まられないと言う暗黙のルールまで在るらしいからフィリピンは素晴らしい。



  釣りをする人

 遊歩道を歩いて行くと釣りをしている女性がいた。竹ざおにテグスを」結び、小さな重りと釣り針が一本の簡単な仕掛けに、白い虫のようなものを付けていた。投げ込んだ糸をしばらく見つめていると、糸が微かに動いた。女性は竿を静かに上げた。針先にはタナゴのような幅の広い小さな魚が掛かっていた。あれがティラピアだとラムズが言った。女性は魚を、傍らにあったビニール袋に無造作に放り込んでまた針に餌を付けた。
ラムズに「あれ、喰うのか?」と訪ねた。結構美味いがあれは小さいので干し魚にするのだろうと言った。でかいテラピアはマムサに似た味でティノーラにして喰うと美味いと言うことだった。しかし、彼女が使っている釣り針の大きさから考えると、始めからあの大きさしか念頭にないような気がした。


 渡し筏に乗る人の図

 マニラからの観光客が大騒ぎしながら遊歩道を巡り、「人力渡し筏」に向かって行った。そして筏に辿り着くと手前の浮桟橋の上でさらなる大はしゃぎを始めた。浮桟橋は竹で編まれていてけっこう揺れる上に、桟橋も筏も定員が決まっていてそんなに大勢は乗れない。そこへ無視して皆で乗ったものだから、傾くは揺れるは、沈みそうになるはで騒いでいるのだった。やがて何組かに分かれて乗って対岸へ渡ったマニラ組だったが、帰りは遊覧船で戻って来た。遊覧船と言ってもMDSのダイビングボートと同じ位の大きさのバンカーボートを手漕ぎで走らせているものだった。
マニラ組がボートで帰って来たのには訳がある。人力渡し筏はとても疲れる代物なのだ。







  人力渡し筏に乗るドゥマゲッティー御一行様

 我々ドゥマゲッティー人は奥ゆかしいのでマニラ組が渡り終わるまで、結構な時間待っていた。
ようやく順番が来たので乗ろうとしたら、筏は向こう岸に置かれたままだった。当たり前なのだが、タイミング良く戻って来る人がいなければ筏は向こう岸に行ったままなのだった。本当は小さな子供が二人、先に順番を待っていたのだが彼等は私らに譲ってくれたのだった。私は単純に、なんて純朴で優しい子供達なのだろうと思って、バックに入っていたキャンディーをあげた。が、しかし、事実は多分そんなきれいな話しでは無かったろうと思う。この人力筏はロープを手繰って移動するのだが、これが結構重い。そして、遠くから眺めていた時にはたいした距離だとは思わなかったロープの長さも、これが結構長かったのだ。このガキども(感動の良い子から突然のガキ呼ばわり)は最初から計算尽くだったに違い無い。写真の隅っこに隠れる様にして乗っているオンゴイ(ビサヤ語で猿のこと)のような少年が見えるでしょうか?
しかし、ひどい書き方をしたが、実際問題子供の腕力で筏を動かすのは無理だろうと思う。だから遠慮して筏の端っこにしがみつく様に乗っていたのだろう。
初め筏はラムズが一人で引いていた。しかし、余りに遅いのとラムズが喘ぐので途中から私もロープを引いた。これは相当に重い。帰り道に遊覧船を選択したマニラ組の気持ちが良く分かった。
渡し筏で行った先に何か特別面白いものがあるのかと言うと、これが、何も無いのだ。これは観光客用というよりも、この先に続く山の住民が最寄りの道路に出る為に利用するのが主な目的だろうと思う。
こんな湖の湖畔に家を構えて家畜を飼って、のんびり本でも読んで暮らしてみたいなと独り言を行ったらパッツが「この辺りなら、お前の好きな所に小屋を建てても誰も文句は言わないよ」と言った。湖は水源として大切なのでほとんど国有地なのだそうだ。しかし、これも本当か冗談か、やってみないと分からないが。




 皆で並んで、シラミ取りの図

 湖は自然で素朴でとても和む所だった。
しかし、ゆったりとした自然以外には何も無い。
湖畔のレストハウスで簡単な食事ができ、飲み物も売っている。
日本でもお馴染みの足漕ぎ型のボートでの水遊びや、先に紹介した遊覧船もある。
しかし、ここまで来て人工物による楽しみや景観は無用だと思う。
百年後にここに来られるはずは無いが、もしもそんな事ができたとしたら、殆ど変わっていないのだろうなと思わせてくれる時間の流れが感じられれば、それが一番だと思う。
 レイク・パラナンはドゥマゲッティーから、車でも2時間は掛からないと思う。
ダイビングばかりでは無く山も観たいと思ったらここがお勧めです。とても良い所でした。

 写真は、山で出会った子供達です。
一番大きな女の子が、小さな子達の頭のシラミを取ってあげていました。





日帰り レイク・パラナンツーリング・・・終わり

本日の走行距離140キロ

写真はクリックすると拡大します。

ではまた。


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