南風のたよりNo81


    ドゥマゲッティー便り


       小さな、話題


     ヒットマン・・・?

     こんな事件はどう書けば良いのか、また、ダイビング屋のホームページにこんな事を書くべきかどうかも疑問なのですが、まあ、ほとんどMDSに馴染みの人しか見ていないし、限り無くドキュメンタリーに近いフィクションと言う事でお伝えする事にします。
     三月二十三日午後七時少し前ごろ。場所はセブシティーのコロンストリートからぺライズストリートに入り、西に登って行く道路の最初の交差点でした。
    ジェフリーのビザをもらいに日本領事館へ行くのでセブに来ていました。私達はいつものホテル・メルセデスにチェックインして、斜向へのペッツキッチンでビールを飲もうとペライズストリートを渡っていました。
    渡りきるかどうかと言うところでパーンと乾いた音が聞こえました。それは私が時々射撃場で撃っているベレッタの音などとは違って、まるで車のタイヤのパンクの音のようなものでしたから、私はそれを銃声だとは思いませんでした。
    音のした方を見ると、交差点に男が二人立っていました。誰かが何かを叫んで走り去るのが見えました。その場所までの距離は私から30メートル位で、男達の足元には倒れている人影のようなものが見えました。男は人影らしきものを見下ろしている形でした。
    私がその情景を認識するのと同時に、また、パーン・パーン・パッパッパーン・・・と連続してさっきと同じ音がしました。私はやっとこれが銃声なのだと気がつきました。そしてその音とほとんど同時に悲鳴のような声や怒号が聞こえました。伏せろ、危ないと怒鳴っていた事は、後でジェフリーから聞かされた話しです。私は、伏せなければ危険だと言う事は分かっていましたが、どう言う訳か立ちすくんでしまっていました。ジェフリーはぺッツに駆け込んでいたようでした。私は突っ立ったまま二人の男の行動を見ていました。
    連続する銃声と同時に、二人はそれぞれ手にしていた物を投げ捨てて走り出しました。一人は街のタバコ売りが首から下げている木の箱でした。もう一人はミネラルウォーターを入れる箱で、タバコ売りの箱と似たような物でした。二人はその箱を投げ出して走り出し、交差点の角の端に待機していた二台のバイクに乗って、それぞれ別の方向に走り去っていきました。一人はペライズストリートから西に上って行き、もう一人は交差する道路を、メルセデス方向から見て左のオスメニアストリートの方に向かって走り去りました。
    二人の男がいなくなると周りで隠れていた人たちが倒れている人影に走り寄りました。私もそこへ駆け寄りました。倒れていたのはフィリピン人の男性でした。しっかりした身なりは、この界隈では珍しいなと思わせるものでした。倒れていた人の身体の周りには血が流れていました。何発打ち込まれたのか分からないほど、穴だらけの状態でした。テレビの画面と違うのは頭部です。テレビのドラマで撃たれる人で頭を撃たれているのはあまり見かけませんが、この人は何発か頭部を撃たれて形が崩れて見えました。
    間もなく警察がやって来て野次馬は追い払われました。交差点で車の往来を妨げていたので警察官が無造作に死体を道路脇に移動させました。現場検証なども日本のように詳しく調べる様子は無く、周りの野次馬からの事情聴取も簡単なものでした。この時点で撃たれた人の身元は分かっていたようで、警察の態度、素振りは実にあっさりしたものでした。
    私とジェフリーは興奮したままぺッツの椅子に座り込みました。ぺッツの中でも今の騒ぎで持ち切りでした。流石に口コミ情報伝達の早いフィリピンです。真偽の程は分かりませんが事件のあらましは既に判明したようでした。
    撃たれたのは退役軍人で通称ジェネラルと呼ばれていた人だそうです。撃ったのはプロのヒットマンでここらへんの者では無い事。ジェネラルは金に絡んだ良く無い噂の絶えない人だったなどとウェイターが言っていました。しかし、この事件の話しはぺッツのウェイターも多分、今し方誰か他の人から聴いた話しで、彼が事の真相やジェネラルを知っているのでは無い事は間違い有りません。そして、この話は恐ろしい早さであちこちに伝搬するはずです。しかし、発信元のぺライズ界隈ではあっと言う間に話題性を失っていました。食事が終わって一杯飲んでぺッツを出ようとした頃には、もう誰もさっきの話しはしなくなり、テレビに映るバスケットの試合に熱中していました。
    そう言えばテレビ局や新聞社と言ったマスコミらしい者の姿も見かけませんでした。
    ジェフリーに、この犯人は捕まらないんだろうと聞くと、一言「YES」とだけ言いました。

    重ねて、しつこく書きますがこれは・・・ドキュメンタリー風フィクションです。

     ホールドアップ

     おいおい、次は強盗かよなんて言われそうですが、こちらの事件こそ私にはとても重要なのであります。何故ならドゥマゲッティーでの事件だからです。
    場所はドゥマゲッティーの町のまん中です。スーパーリーの前の大通りの交差点を海岸通の方へ左折して直ぐの左側にある携帯電話屋です。この携帯屋に総勢10名の賊が押し入ったのだそうです。これは聞いた話しなので限り無くフィクションに近いドキュメンタリーだと思って読んで下さい。
    正確な日時はもう忘れてしまいました。3月某日・・・午後七時だそうです。この午後七時と言うのがこの事件のミソであります。午後七時と言うのは近所のでデパート、スーパーリーが閉店するので急速に人通りが減ります。歩いている人も通りを通行する車も減って逃走に都合の良い状態になるのであります。賊は計算尽くで午後七時を狙っているはずです。
    携帯屋には当然拳銃を持ったガードマンが居て、出入り口を守っています。
    賊はまず最初に、独りがガードマンに近付きすぐ脇から銃を突き付けて動きを押さえたそうです。そして二人の賊が店内に入り金を出せとやったようです。表では見張りの二人が他の客が入ってこない様にしていたのだそうです。
    ここでフィリピンを知っている人ならば、なんで携帯屋なんかを・・と思うのでありますが、この携帯屋は両替え屋と金貸もやっていて、ある程度現金が常備されていたのであります。賊はこれを知っていたと言う事で、地元の事情に詳しい者達の犯行だろう、などと私は思ったのでありますが、ジェフリー曰く、1〜2日市内を物色すれば誰だって分かるよ、と言う事で、賊はドゥマゲッティー以外の人間であると言う事です。
    さて、守備良く金を奪った賊は、待機させて有った5台のバイクに乗ってそれぞれてんでの方向に逃走したと言う事であります。
    こちらは携帯屋が現金を奪われただけで怪我人も無く、目出度しめでたしと言う感じなのでありますが、実は、私にはそうでも無いのありです。
    この賊もバイクを使っている事でも分かりますが、フィリピンの犯罪の逃走には必ずと言って良い程バイクが使われています。
    銃撃の後の逃走がバイクで、シャブのの密売人の逃走もバイク。強盗の逃走もバイクと言う事で、ドゥマゲッティー市内ではバイクの登録とナンバープレートの取締が急激に厳しくなっています。
    夜間には灯火類の取締もやっていますが、それは表向きで、実際は怪しい車両と巷に増えた改造暴走バイクの取り締まりが本当の目的なのです。
    と、言う事で、泥棒や事件が増える度に取締がきつくなって、何だか日本みたいになってしまうのが、私には嫌なのであります。

     セブの下町・裏通り ぱーと2

     セブで定宿にしているメルセデスのあるペライズストリートが少し様変わりして来た・・・と言う書き出しで始めたのはNo77だった。
    今回はそこで射殺事件が起きたのだが、それは一般人には関係が無い事で、事実犯人達は直ぐ近くで立ちすくんでいた私になんぞ見向きもしなかった。それにこんな事件は日本の地方都市でもたまに有るのだから、これでフィリピンが危険だなどと思われるととても困るのですが・・・だったら書くなって。
    コロンストリートはセブの下町でも屈指の繁華街だ。それも庶民派の繁華街だからその雰囲気はとてもフィリピンチックで、そこからちょっと路地へと言う感じで交差するぺライズストリートも、とてもとてもフィリピンチックである。
    理由はわからないがセブの下町では路上生活者が増えている。オスメニアの歩道橋などは夜になると恐くて渡れない程人が転がっている。ぺライズも歩道に屋根が有るのでそう言う人達が集まって来るのかも知れない。
    No77でこの界隈も警察の巡回が頻繁になり、そう言う人達が減ったと書いた。そして、ハンバーガー屋も閉めたし、トシーノのバーベキュー売りも居なくなったと書いた。それは2月の状況だった。しかし、3月末には前と同じどころか、それにも増して賑やかになっていた。
    ハンバーガー屋は24時間で営業しているし、トシーノの屋台は午後七時ともなればもうもうと煙りを上げて盛況だ。
    その辺りには擦り切れたTシャツを身に着けた母親が、裸の子供の手を引いて物乞いをしているし、ポン引きも客を狙ってたむろしている。
    いつもと変わらないぺライズストリートの姿に戻ったのは、雨の季節が終わったからなのだろうか?
    それとも、一時期厳しかった取締が煩くて避難していた者が戻って来たのだろうか?
    私はこの通りの雰囲気が好きでこの辺りをうろうろしているのですが、ここの猥雑度は危険度を差し引いて余り有る魅力を持っています。
    興味の有る方は是非、私と一緒にこの界隈を探検しませんか?・・・多分、命の危険にさらされるような事は無いと思います。



    ではまた。


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