南風の便り

       

〜DINAGAT ISLANDへ行った〜


 今日こそはホントーにディナガットへ・・・

 だから言わないこっちゃ無い・・・ほら見ろ、腹がつっかえて出られやしない・・・バーカ、昨夜あれほど言ったのに・・・と言う事で、3時に起きて出港しようとすると、既に潮は引いて、船尾のスクリューをガードする為の高い部分が砂に当たっているのでありました。
しかも、夜に高波など来てマフラーが潮を被っては大変と、ビニール袋で栓をしていたのを忘れてエンジンをかけたものですから、マフラーがぶっ裂け、圧力が逆流してキャップが吹っ飛びオイルをぶちまけると言うヘマをキンキンが仕出かし、と・・・恐るべし素人集団の珍道中。
これだけ立続けにヘマとドジが続くと怒る気力も無くなる訳で、私は何となく暇そうにボケーっとしているボボに、飯はまだかぁー、と、八つ当たりであります。
結局五時過ぎ、オイルを注ぎ足し、木を削ってキャップを作り、全員が降りて船を持ち上げながら水深の在る所まで運び、何とか、かんとか出港したのでありました。
さて、出航はしてみたものの、俺らはどっちへ行けば良いの?と言う状態で、まあ、何となく東だな、と言う私の勘で、東を目指した訳であります。
まあ、これが当たらずとも遠からずであったのですが、結構な遠回りになりまして、燃料大丈夫か?でも、金無いしなぁ・・・嵐と向かい風は、今日は勘弁して欲しいなぁ、と、私は独り言を言いながら舵を握っていたのでありました。
ボホールの一番北側も既に過ぎ、カミギン島も霞んで後方に消え、前方に微かにパヤパヤと見えるのは正しくあれがレイテ島でありましょう、と言う事で、間違いは無いはずなのであります・・・がぁ?。
しかし、小さな島が沢山あって、それらが幾重にも重なっており、遠目からは連なった半島のようにも見える訳であります。
近寄ってみたら通り抜けが出来ない、大きく迂回しなければならないとなると、ただでさえ心許ない燃料が、余計に心配になってしまう訳であります。
大して視力は良く無い私ですが、長年の勘と経験から、島の色の違いと高さの違い、はたまた、島の上に浮かぶ雲の様子から、どれほどの大きさの島が、どれほどの距離に在るのかを推測し、よっしゃぁ、この先真っ直ぐが、唯一通り抜けられるリロアンの橋の下だ、と決めて直進したのであります・・・がぁ大きく不安でありました。
しかし、フィリピン全土の地図とは言え、確かに、コンパスの方位は分る訳で、まあ、これが無ければやはり困ったと言う事で、ノノイをバカにしたのも悪かったな、と・・・。
が、しかしですよ、自分が何処にいるのかがあまり定かでないと言う事は、精密な地図が有ったとしても、きちんとルートを取る事は出来ない訳で、我々にはノノイの地図がぴったり似合っているのかも・・・ハイ。
さて、内心不安のうちにも好天に恵まれ船は足を速めて、もはやこれは間違いなくレイテ島のどこかであろう、と思いつつ航行していると、遠くからダイビングフラッグを掲げたバンカーボートがやって来るでは在りませんか。
こりゃぁ聞くしか無いな、と言う事で「おい、ノノイ、Tシャツ振ってあのボートを呼べ」と、怒鳴る私でありました。
程なくして停まったダイビングボートに、ディナガットはどっち?と聞けば、私はてっきり真っ正面を指差すと思いきや、南、右手を指差すでは有りませんか・・・エエッ?なんでぇ?
詳しく聞くと、直進してリロアンから入っても良いのだが、南に向かってナンタラ島を交わしてすぐに東へ向かえばより近い、と言う事でありました。
が、しかし、私は事前の下調べで、リロアンの橋の下をくぐってレイテの表側に出る、とインプットして来たので「ああ、サンキュー3Q、ありがとさん」と言いつつ、しっかりと真東へ向かって行ったのでありました・・・それにしてもこの辺りはとても透明度が悪そうなのに、何処で潜るのかねぇ、と気になったのでありました。

   リロアンと言う地名はドゥマゲッティーの側にもあります・・・セブ島側ですが。
で、リロと言うのは、渦の事でありまして、此の名がつく所は例外無くもの凄い潮の流れが有るのであります・・・本当はそれを通ってみたかったのです。
近寄ってみれば、島と島の間は100メートルも無く、干潮に向かっては相当な流れだろうな、と用意に伺える有様で、上げ潮時でラッキーだったな、とホッとした次第であります。
さて、橋をくぐって表に出た訳で、正面には既にディナガット諸島が見えているはずであります。
ここでディナガットに電話を入れ、今橋の下を通過して表に出た事を伝えたのであります。
そして、これから向かう先の目印を聞くと・・・男が寝そべった形の島があって、男の印が立っているいる所を目指せとの指示であります。
おいおい、ロールプレイングゲームやってる訳じゃないんで、もうちょっとまともな教え方してちょうだいよ、とメールを送ったのであります。
が、それ以外にサインボードは無いし、誰が見てもそれは分るから、と言い張る始末で・・・ああ、もう良いよ、と。
それにしてもこの辺りは、大小の島が無数とも言える程に在って、それはパラオのロックアイランドよりも多いのではないか、と私は思いました。
しかも、どこもチャネルになっていて潮通しが良く透明度が抜群なのであります・・・ああ、ここで1本潜って行くべし、と私が言うと、ジェフリーが仕事が有るべ、と。
後で聞いた話しでありますが、アメリカ人が島を買ってダイビングサービスを始めたが、今は引き上げて、島は売りに出ていると・・・当然私に買わないかと言う誘いは、雨のように振って来たのは言うまでも有りません。
まあ、ダイビングのロケーションはとても良いのですが、真水とアクセスの問題で、良い商売は難しいな、と言うのが私の見立てでありましたが・・・。
この辺りは直ぐおもてが太平洋なので台風シーズンから冬にはとても波が上がる場所で、直ぐ近くのスリガオはサーフィンの国際大会が開かれる程であります。
全員が雁首揃えて目を皿のようにして、アレじゃ無いか?いやぁあっちだろう?と、男の印を探しているのでありますが、そうだと思えばそうも見えるな、と言うのがそこかしこに在って、どれがどれだか分らないままに、小さな島のチャネルに入り込んでは、オーイ、マバオ・マバオ(浅いぞ)と怒鳴りつつ、ウロウロする事既にに時間あまり。
電話では小さなバンカーボートが迎えに来る事になっていたのでありますが、なにやら、その船のガソリンが無いとかで、迎えも来ないと・・・どーなってんだ、こりゃぁ、であります。
これはまともな海図が有ったとしても、初めてでは何処が何処だか絶対に分らない自信が有ると断言出来ます。
どれもが同じ様な形の島で、それらが十重二十重に重なっているのでありますから、分れと言われても無理でありましょう。
暫くして、なんだか町っぽい、集落が見えて来て、これかぁ?とメールをすると、そこから黄色いダンプカーは見えるか?とまたもや謎掛けの様な返事であります。
ナニー?・・・黄色いダンプが沢山並んでいる所の湾内に入れば良いのだな、と問えば・・・その通り・・・と。
程なくして、大量の黄色いダンプがずらりと並ぶ姿を発見・・・これだぁーと、ダンプめがけて進んで行くと、それは目印に教えただけで、そちらではない、とのメールが。
ナニ?そちらからは船が見えているのか・・・? YES YES YESずーっと見えていたよと。
ガッビョーンでありますね、それならふざけてないで電話で誘導してくれれば良いじゃないか、と。・・・この時、脳裏に微かに嫌な予感が・・・。
2泊3日・・・遠い遠いディナガットのサンノゼにやっとの事で到着でありました・・・この時既に午後の3時、今朝の出航からでも10時間、全く休む事無く走り続けて来たのでありました・・・あぁーくたぴれた、帰りは俺だけフェリーにしようかな?

 とにかく、数々のアクシデントと悪天候をものともせず・・・と、一応は言わせて下され・・・堂々とディナガットの港に舫を取ったMDSは、明日から7日間、ここをベースに海洋調査などするわけであります。
従って、我々も腰を据えると言う事で、私は早速日用品や簡単な食料などを買える店は有るのかと、滞在中の面倒見役だと言う原住民のマイクに訪ねた。
で、私は早速ビールなど買うべく、マイクと一緒に我々の船着き場の反対側のなんとなく村に見える所へ、彼の小さなボートで向かったのでありました。
まあ、理由と現実を知れば納得いくのでありますが、ドゥマゲッティーで48ペソのビールが65ペソで、45ペソのラム酒が60ペソもするのであります。
早い話しが、ここはとても辺鄙な所で、大きな街まで、陸路でも海路でも、どっちにしてもガソリンを使わないと何も運んで来られないので、運賃が加算されている訳です。
そして、この界隈で一番大きな街の物資は、ミンダナオのスリガオシティーから、フェリーで運んで来るのでありまして、既に、街の価格にも運賃が上乗せされている訳であります。
日本でも離島価格はやはり高いのでありまして、これは致し方ない事であると・・・まあ、飲みたいんだから、高くても買うし・・・。
離島価格で一番驚いたのは燃料でありました・・・軽油やガソリンを運ぶのに船の燃料を使う訳なので、一割りちょっと高くなっているのであります。
まあ、ガソリンの値段と言うのは、製油所から遠く成る程高くなる訳でありまして、これも致し方ない事、と。




 この界隈ではかなり大きな街です

 さて、翌日から環境調査と村人へのダイビングの講習が始まった訳でありますが、その事についてはあまり触れたく無いのであります。
サンクチュアリーを設定する為の環境調査と言う事で請け負ったのですが、それは、無間違いではないのですが、本当の目的はとても政治的な事でありまして、私は体よく利用されたと言う事でした。
この地は、地下に天然ガスが眠っているらしく、それの利権争いを、現大統領派と違う勢力が争っていると言う事で、我々は環境調査をして、現地村人にダイビングを教え、自然保護の意識を啓蒙し、ディナガット州がマリンサンクチュアリーを設定して採掘の為に手続きをストップさせる、と言う段取りだったのであります。
私が、儲からないと分っていてもこれを引き受けたのは、下話の打ち合わせの時に、純粋に海を守る為だと思ったからでありまして、政治がらみのゴタゴタなどが有れば首は突っ込まなかったのに、と後悔していたのでありました。
そして、ドゥマゲッティーで打ち合わせをした時に、微かに感じた依頼人のベンの胡散臭さは、やはり、この手の仕事をやっている人間特有の臭いで有りました。
満面の笑顔に隠された、黒い陰謀とでも言いましょうか、まあ、政治がらみの活動をしている人で成功する人は押し並べて笑顔が得意でありますから、と。
と、言う事で、環境調査の話しは無しでありますが、一度だけ、とても面白い所へ行ったので、これぞディナガットと言う所だけ、紹介したいと思います。




   ディナガットの船着き場は静かでした

 ディナガットと言う所は雨が良く振ります、毎日降るのです。晴れていても絶対に降って来るのであります。朝は晴れていても、日中は分らないのであります。
大体日中の雨は通り雨で、ザーッと振って10分も有れば止み、長くても30分も続く事は稀であります。
しかし、夕方から夜に掛けては雷と突風を伴って激しく降る事が多く、毎晩嵐に襲われている様なものでありました。
とても蚊の多い場所だと言われて来たのでありますが、これだけ雨が多ければ、然も在りなん、と言う所でしょう。
しかも、この辺りもご他聞に漏れず森林伐採が進み、地面は剥き出しの所も多く見受けられました。
写真などで遠景を見ると見事に緑に見えるのでありますが、それは雑草であったり、背の低い成長の早い雑木なのであります。
従って、地面がしっかりしていないので、毎日降る雨に土砂が流され、海は傷んで行くのでありました。
なので、海を守りたければ山に大きくなる木を植、そしてじっと成長を待つ事から始めなければならないのですが、この地では、植林はマングローブをメインに行っていました。
確かにマングローブは植えやすく簡単に根付くので結果が見えて面白いので人気があります。
しかし、マングローブが育った海岸線は泥化して行くのであります・・・砂地には絶対に根付きませんから・・・。
こうして元々内湾性で潮の入れ替えが弱いこの辺りの海は、流れ込む土砂で死滅したのでしょう・・・と、私は思ったのでありますが。
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  では、また・・・。           




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