◆割れた陶器を復元◆


▲約1カ月で仕上がる

 湯のみやちゃわんなど大事にしている陶器も、食器などとして日常的に使うなら、割れてしまうリスクから逃れることはできない。ちょっとした不注意で壊してしまった愛着たっぷりの器を前に、後悔の念を味わったことのある向きも少なくないだろう。形見の品など取り換えのきかないものであればなおさら、断腸の思いで捨ててしまうか、とりあえず押し入れにでもしまい込むか、つらい選択を迫られることになる。
 ところが日本には、こうした陶器を修理して使い続けてきた風土が生きている。骨とう品を取り扱う六屋(東京・文京)では、漆などを使って割れた陶器をはり合わ
せる「金つぎ]と呼ばれる手法で、持ち込まれた食器などを修理するサービスを手掛けている。

 小麦や米の粉に水と漆を混ぜた天然の接着剤で破片をつなぎ合わせ、つぎ目の上からさらに漆を塗って段差を埋める。仕上げに金粉でまき絵を施して完成だ。丁寧に扱えば一年半ぐらいは実用に耐える強度があるという。
作業料金は三千円から。低価格の真新しい陶器が簡単に入手できることを考えれぱ、決して安くはないが、つぎ目のまき絵が独特の風合いを与え、修理前より立派にみえるという声もあるほど。「『愛着があるから』と安いコーヒーカップを修理に出す若者もおり、なかなか捨てたもんじゃない」と井上清店主は目を細める。
 ものを大切にする心は、損得勘定だけで割り切れない。そんな思いを持ち統ける人が増えれば、ヒビの入った地球環境にも修復の道は見えてくるはずだ。


(グローカルネイバーフッド代表 後藤浩成)
2003/10/4(土)日本経済新聞(夕刊)「グリーン通信」掲載
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