◆55年前から環境スリッパ◆


▲乾燥させた皮を適度な幅に裂いて編む

 夏の味覚の一つ、トウモロコシ。黄色い実をガブッとやれば、夏バテ解消に効果絶大だが、気になるのは、調理の前にはぎ取った度の方。ごみにしないうまい手はないかと、つい考えてしまう。
 何と五十五年前に、すでに妙案にたどり着いていたのが、青森県十和田市の主婦たち。家畜用トウモロコシの皮を乾燥させてつくった「きみがらスリッパ」だ。「きみ」は、この地方の言葉でトウモロコシの意。乾燥させたきみの皮を一枚一枚、わらじを作る要領で丹念に編み込み、スリッパに仕立て上げたのだ。
 かつて軍馬の一大産地として知られたこの地では、飼料用のトウモロコシがあちこちでつくられていたという。この皮を有効に利用し、農閑期の副業にもなればとの思いから、 一九四七年、主婦の知恵を結集して生み出された。今も三十八人が技術を受け継ぎ、年間五百足を生産している。
 きみ十六個分の皮で一足になるが、熟練した人でも、 一日に二足編むのがやっとというほど手間がかかる。その分、軽くて足にもなじみやすく、夏は涼しく冬は暖かい。毎日はいても一年以上使えるなど、耐久性も十分。価格は千八百―二千三百円。
 最近のスリッパは、低コストで加工しやすい塩化ビニール製が幅を利かせている。しかし、ごみ処理の観点からすると、燃やせば有害物質が発生したり、埋め立てればそのまま残ったりと、解決すべき課題もある。地域の特長を生かした伝統の技には、大量生産・大量消費型社会を見直す手本になる点が多い。

(グローカルネイバーフッド代表 後藤浩成)
2002/8/10(土)日本経済新聞(夕刊)「グリーン通信」掲載
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