北のりゆき

読書・ゲーム日記08

2005917

イスラムとアルカイダを読む

 大仏破壊 バーミアン遺跡はなぜ破壊されたか

 世界テロリズムマップ

 イスラム教の本

 仏教人物の事典―高僧・名僧と風狂の聖たち

 

 アルカイダは強いですね。イラク大統領のフセインはあっという間にやられてアメリカに捕まってしまったのに、アルカイダはいまだに戦闘を続けビンラディンも健在です。国際テロ組織とはいっても国家権力とは比較にならない集団に過ぎないアルカイダが、なぜこのように強力なのでしょうか。おそらく宗教心という人間の内面に根ざすものに立脚しているからなのでしょう。

 大仏破壊 バーミアン遺跡はなぜ破壊されたかは、NHKで放送された同名番組の書籍化です。アフガニスタンのタリバン政権によるバーミアンの大仏破壊事件を軸に、アフガニスタンで成長したアルカイダについて描かれています。

 バーミアンの大仏とは、アフガニスタンの高地にある55メートルと38メートルの二体の巨大な仏像です。55メートルというと、13階建てのビルに匹敵する高さなんだそうです。この巨大な大仏は、六世紀から八世紀にかけて数十年の時間をかけて造られ、古くは西遊記の三蔵法師のモデルになった玄奘三蔵の大唐西域記にも記録があります。日本に現存する最古の寺院建築である法隆寺が7世紀(607)の創建と伝えられるのだから、その古さがわかると思います。

 日本人にとってアフガニスタンの現代史は、1979年のソ連軍アフガニスタン侵攻からはじまるように思えます。当時は、西側諸国がモスクワオリンピックをボイコットするなど大変な騒ぎでした。実はアフガニスタンはもともと親ソ国で、イスラム反体制運動を鎮圧できない政権を見限ったソ連がクーデターを起こさせ、それを口実に侵攻したというものです。アメリカを中心に西側諸国はイスラムゲリラに軍事援助するなど介入を強め、1989年にソ連軍が撤退するまで実に10年以上も続く戦争になりました。このアフガニスタンのイスラムゲリラが、アルカイダの源流になります。

 バーミアンの大仏を、イスラム教の禁ずる偶像崇拝であるとして破壊したのが、当時アフガニスタンの政権を握っていたタリバンでした。20013月のことです。21世紀になってこのような暴挙がおこなわれたことに、世界は愕然としました。そしてこの『大仏破壊 バーミアン遺跡はなぜ破壊されたか』によると、この事件は、半年後のアメリカ同時多発テロの不吉な前ぶれだったといいます。

 ソ連軍撤退後のアフガニスタンは、社会主義政権が倒れ各地に軍閥が割拠する無政府状態におちいりました。軍閥といっても、暴力団か山賊のような連中で、民衆を苦しめたようです。たまりかねた民衆の世直し運動が『タリバン』でした。へき地のイスラム神学校の学生が始めた運動で、初期の段階からイスラム教の影響が極めて強い集団でした。

 民衆の支持と隣国パキスタンの支援を受けたタリバンは、2年程度でアフガニスタンの大部分を平定します。田舎の無教養な人たちの集団であったタリバンは、思わぬことにアフガニスタンの政権を握ることになったのです。この権力獲得のプロセスは、カンボジアのポル・ポト政権を連想させます。地域が大国にかこまれた小国である点、外国軍撤退後の無政府状態、強力な隣国の支援、へき地から発生した軍事集団、宗教的な原理主義(ポル・ポト派の共産主義はもはや宗教です)、国際的に孤立し外国軍の侵攻によって崩壊した点。いずれも驚くほどの共通性が見られます。

 国内を収容所だらけにして100万人以上を虐殺したとされるポル・ポト派ほど極端ではないにしても、タリバンも同様の統治をします。『勧善懲悪省』の設置です。イスラム教の宗教警察で、『男がヒゲをそることの禁止』や『路上で夫婦が会話することの禁止』などといった奇怪な法令を発し、宗教パトロールで違反者を発見すると暴行を加え逮捕するなどして市民に恐れられました。傑作なのは、ほとんど唯一の友好国であるパキスタンのサッカーチームが親善試合にきた際、『半ズボンをはいている』という罪で逮捕してしまいました。驚いたパキスタンが特使を派遣して釈放されたのですが、罰として選手たちは全員頭を丸坊主に刈られていたとか。

 大仏破壊は、この勧善懲悪省が主導しました。タリバンが全てこんなおかしな連中というわけではなく、穏健派や途中から参加した知識人もまじっていました。本書の軸のひとつが、この勧善懲悪省と穏健派の権力闘争にあります。そして、もうひとつの軸が、ビンラディンのアルカイダの介入です。ビンラディンが、サウジアラビアの富豪の息子であることはよく知られています。ソ連軍アフガニスタン侵攻に反発したビンラディンは、富豪の生活を捨てアフガンの戦場にかけつけます。前線にも出たようですが、それ以上に後方支援に貢献しました。世界中から集まってくるイスラム戦士志望者に宿泊所を提供し軍事教練をおこなってアフガンに送りこんだのです。結果、ビンラディンは、膨大なイスラム戦士のリストを手にします。これがアルカイダの基盤になりました。

 アラブ諸国は独裁的な国が多く、イスラム原理主義の影響を受けた若者は危険視されていました。政府がアフガン行きをけしかけ、反体制派の体のよい捨て場にしたともいわれています。戦争から帰った若者たちが、祖国のありように絶望したのは容易に想像できます。彼らはテロリズムに走ることになります。

 アメリカに追われるラディンを最初にかくまったのは、アフガンの軍閥でした。その軍閥がタリバンに降伏し、交渉力を発揮したラディンはそのままタリバンの客人に納まりました。アフガニスタン政府を構成するタリバンですが、その権力基盤は脆弱なものです。アフガン全土を平定したわけではなく一部で内戦が続いており、寄せ集めの軍事力と、軍閥よりはマシといった程度の大衆の支持によって政権を維持しているにすぎません。そのタリバン政府にビンラディンは食い込んでいきました。ここが本書の見所のひとつでしょう。巨大な財力で軍需品を提供し、アフガンにアルカイダ兵を呼び寄せ、ついには戦局を左右するまでになります。タリバン兵は山岳ゲリラ戦は得意でしたが平地の拠点戦闘となると弱く、戦意も狂信的なアルカイダ兵におよびませんでした。タリバン部隊が総くずれになり、敵部隊が首都に突入するのをアルカイダ部隊が支えるという局面もあったようです。

 ビンラディンの感化力には驚くべきものがあります。一種異常な天才でしょう。つな渡りのようにアフガンに居座り、ついにはタリバンの指導者オマルをとりこみ、思うように操るようになります。そしてアルカイダ化したタリバンの最初の暴挙が、バーミアンの大仏破壊だったのです。これはビンラディンが現場に直接乗り込んで指揮したといわれています。ナチスに著作を焚書された詩人のハイネはこんなことをいっています。「本を焼く者はやがて人を焼くようになる」。まさにそのとおりでした。世界的な文化財である大仏を破壊したわずか半年後に、アルカイダは貿易センタービルに飛行機を激突させ数千人を殺しました。著者がインタビューしたフランスの外交官は「大仏破壊は9.11テロのプレリュート(前奏曲)だったのです」と述べています。『大仏破壊 バーミアン遺跡はなぜ破壊されたか』は、政治小説のようにスリリングに読むことができました。

 

 現代のテロリズムについてより知りたい人には、時事通信社外信部の世界テロリズムマップがよくまとまっています。この種の本には、変な陰謀論や適当にでっち上げられたいいかげんなものが多いのですが、さすが報道機関がまとめただけあって良心的です。世界のテロ組織の歴史と指導者の履歴を取り上げ、簡潔に紹介しています。アルカイダのウサマ・ビンラディンを筆頭に、副官のアイマン・ザワヒリ。アルカイダ軍事委員長といわれるハリド・シェイク・ムハンマドなど、テロリストは16人。テロ組織は、重複がありますが15ほど紹介されています。

 極左テロ組織で紹介されているのは日本赤軍とカルロス、それにペルーの『センデロ・ルミノソ』の3つだけです。実に全体の3分の2が、イスラム原理主義組織によって占められています。テロの世界でも時代が変わったと感じられました。アルカイダ以外にも、『カシミール過激派』、『ハマス』、アルジェリアの『イスラム救国戦線』、『チェチェン武装勢力』、インドネシアの『ジェマ・イスラミア』、『クルド労働者党』など、なかなか資料が見当たらない組織が紹介されています。

 

 どうもイスラム教が嫌いになってしまいそうだったので、イスラム教の本を読んでみました。学研が発行している宗教シリーズの一冊です。紀伊國屋書店の宗教コーナーをのぞいて一番まとまっていそうな本を選びました。内容は、イスラム教の教義や歴史、習俗などの解説です。巻末付録にコーランの要約が収録されています。基本的に「イスラム教は良い宗教だ」というスタンスに立っている本なのですが、女性差別や、あまりにも時代錯誤なコーランの内容など、ちょっと辟易させられます。イスラム教は、宗教であると同時に生活規範でもあります。その生活規範が1400年も昔のものなので、そのまま現代に当てはめるのには無理があります。それどころか社会の発展を阻害している面も多々あるようです。マルクス主義っぽいいいかたをすると、下部構造(生産力・生産関係)が上部構造(政治体制や宗教など)を規定したのが、逆に強固な上部構造により下部構造の発展が阻害されているといったところでしょうか。利子の禁止などを唱えているイスラム教が改革されないと、イスラム教国の発展はないんじゃないだろうかと思います。彼らにとっては、経済発展なんかよりイスラム教の方が大切なんだろうが…。イスラム教の教えによると、殉教したイスラム教徒は、悪酔いしない酒のある天国で72人の処女妻に囲まれて暮らせるんだそうです。日本人は、「悟り」だとか「仏になる」とか、宗教を脱俗的にとらえがちです。教義的な面でもイスラム教は、日本人のイメージする宗教とは、根本的に異なるものではないかと感じました。

 イスラム教のつぎは仏教だと、同じく学研が発行している宗教シリーズの仏教人物の事典―高僧・名僧と風狂の聖たちを読んでみました。仏教伝来から昭和初期までの日本の高僧の伝記百数十人分を、それぞれ見開き二ページ程度にまとめたものです。現代では学者や医者になるような人物は、近代以前の日本では多くが僧侶になったようです。庶民にもそれなりに門戸が開かれた唯一の学究的職業ですからね。その日本の知識階級であった僧侶たちの伝記が、百人分以上もまとめて読めるのだからかなりお得です。これを読むと改めて自分が仏教文化の下で人格が形成された人間であることを確認させられます。やっぱりイスラム教より仏教の方がいいですねぇ。とりわけ徹底した自力本願である禅系と、徹底した他力本願である浄土系に強くひかれました。

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