北のりゆき

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2005820

水木しげる『コミック昭和史』を読む

 水木しげる翁といえば「ゲ、ゲ、ゲゲゲのゲ〜 朝は寝床でグ〜グ〜グ〜…」の『ゲゲゲの鬼太郎』を連想する人が多いと思います。妖怪マンガで有名ですが、ノンフィクションや伝記マンガの名手でもあります。ちなみに先の曲の作詞も水木しげるです。才能のある人は何でもできるんだなぁ。

 ノンフィクションマンガでは、戦地で重傷を負い片腕切断された体験をもとにした戦記もの。戦後の紙芝居作家から貸本漫画家にいたる極貧生活を描いた自伝もの。少年時代の思い出を描きNHKドラマにもなった『のんのんばあとオレ』など、多くの傑作があります。

 『コミック昭和史』は、それらの総集編のような作品です。関東大震災と金融恐慌から太平洋戦争をはさみ、バブル経済崩壊直前までを文庫本8冊で描いています。大作だけに原稿の再利用が多く、完全な描き下ろし作品とはいえないところがあります。調べたところ以下の原稿をリライトして使っているようです。『ボクの一生はゲゲゲの楽園だ』『落第王』『総員玉砕せよ!』『地獄と天国』『娘に語るお父さんの戦記』『突撃!悪魔くん』『ドブ川に死す』『残暑』。多くの原稿を切り張りして使っているため、ページによって絵柄がかなり変わります。でも、絶版などで手に入りにくい作品を1本の大作でまとめて読めるのだから、なかなかお得かもしれません。

 『コミック昭和史』では、『歴史』と『自分史』を交互に描き、これが効果をあげています。たとえば昭和7年では、5.15事件を描き、その後で社会史として坂田山心中事件を描き(坂田山心中事件 = 慶大生と資本家令嬢の心中事件。埋葬された令嬢死体が変質者に盗まれ処女だったことが判明。「二人の恋は清かった」として話題に。当時のエロ・グロ・ナンセンスの世相を象徴する)、自分史で「教師やおふくろが三原山の自殺のファンだった」なんて描いています。戦争に向かう重大な一歩であるクーデター事件を描いた後で、心中事件にわく気色悪い後ろ向きの世相を描き、そんな世相の影響を受けつつも案外ノホホンとした水木一家の様子を描いているわけです。上から見下ろしたような学者の本に比べると、この常民の視点からの手法が絶大な効果をあげています。

 起承転結のある『お話し』ではないので、興味のある巻から読んでも、興味のある巻だけを読んでも面白いと思います。でも、歴史には流れというものがありますので、できれば第1巻から読むことをおすすめします。

 第1巻から解説しましょう。『コミック昭和史』は、「事実上の昭和史は関東大震災から始まった」からはじまります。家屋倒壊など震災の物理的な被害だけではなく、関東大震災を契機とする信用の破綻が金融恐慌につながり、それが農村の荒廃を生み、右翼と軍部ファシズムの台頭、戦争への道を用意したと説きます。どういうことなのか簡単に説明しますと、大正末期、第一次世界大戦後の不況により企業に多大な不良債権が生じていました。最近のバブル不良債権の山と似ていますね。ちょうどそのころ関東大震災が発生したのです。そこで被害企業を救済するため、政府日銀が手形を割り引きました。これを震災手形といいます。要するに政府が被害企業の借金の肩代わりをしたわけです。ところがその中に震災とは関係ない不良債権が大量に紛れ込まされていました。その結果、政府は借金まみれで動きが取れなくなり、借金の帳消しなんて無茶なことをした金融システムは働かなくなり、ついに矛盾が爆発して銀行・企業の連鎖倒産という金融恐慌にいたります。

 これは、ちょっとくわしい昭和史の本ならば、たいてい書かれていることです。しかし、特に経済関係の本は、なにやらむずかしげで分かりにくい。しかし、この『コミック昭和史』では、解説のねずみ男や資本家キャラの活躍で分かりやすく、しかも面白く描かれているのです。これはたいしたものです。

 大きな歴史を描いた後は、自分史になります。水木家では、父親が勤めていた銀行をクビになってしまいます。元大正デカダンボーイの父は、案外のんきで映画館をはじめたりします。しかし、何をやってもうまくいきません。しげる少年は、NHKのドラマにもなったのんのんばあに妖怪の話を聞いたりして、やっぱりのんきです。つぎに農村の荒廃と右翼テロが描かれ、自分史での子ども同士の集団大ゲンカに続き、満州事変で終わります。ラスト近くに描かれた子どもの集団大ゲンカにからめて「そのころはなんだか知らないが軍人賛美が日本中に充満していた。軍人は正義の味方だという奇妙な信仰が庶民の間にあったようだから、勇ましいことは人気があったネ」というねずみ男のセリフが、時代の雰囲気をよく伝えています。民衆を国家にだまされた一方的な被害者とえがく本が多い中で、民衆も存外好戦的であったと率直に描く本書の視点は貴重でありましょう。

 続いて2巻は、満州事変から日中全面戦争です。昭和8年の陸軍参謀本部秘密会議からはじまります。ここで対ソ戦を主張する皇道派と対中国戦を主張する統制派の論争を描き、統制派の勝利により日本は陸軍の対中国戦にひきずられることになります。そんなころ、しげる少年はのんのんばあの死に不吉な感をいだくものの、新聞の題字など妙なものを集めたりしてやっぱりのんきに暮らしています。

 この巻で特筆すべきは、万宝山事件など「一筋縄ではいかない歴史の複雑な顔」ともいえる朝鮮人と中国人の対立抗争にかなりのページを費やしている点です。日本の侵略によって中国人も朝鮮人も被害をうける。日本に追いやられた(日本に保護された? 尖兵にされた?)朝鮮人が中国に入植することで中国人はまた被害をうける。中国人が暴動を起こし朝鮮人を殺し、それを口実に日本が中国を攻撃する。反日組織をつくった朝鮮人は、今度は中国の国民党政府に弾圧される…。「加害と被害が入り乱れる中で民衆は"歴史の悪意"によってさいなまれ続けるとさえみえる」なんてすごいことを書いています。そして2.26事件、西安事件、ノモンハン事件…。まるで日本は坂道を転げ落ちるように戦争へ向かっていきます。しかし、しげる青年は就職先をクビになり、教師が校長ひとりという妙な美術学校に入るもほとんど出席せず、やっぱりのんきでした。

 3巻は、日中戦争から太平洋戦争の開始までです。しげる青年は鉱山の学校に入ったり新聞配達に就職したりしますが、どこもすぐクビになってしまいます。しかも、世の中だんだん軍事色が強くなり、学校でも軍事教練が増え、しげる青年によると「エライ世の中」になってきます。この人は、マイペースというかどうも少しズレたところがあり、まったく軍隊に向いていないのです。しかし、悪いことばかりではありません。父親が南方に生命保険の募集に行って、現在のカネで1億円以上かせいできます。戦争に負けた時点で全部紙切れになってしまうのだろうけれど、ここらへんにも南方進出の国策という流れが庶民の生活に影響を与えた例を見ることができます。

 歴史は日米交渉、真珠湾攻撃へと続き、太平洋戦争に突入します。このころには、すでに兄と弟は軍にとられています。そして、いよいよしげる青年にも召集令状がきます。軍隊の最下層の二等兵として招集です。軍隊で要領の悪いしげる青年がうまくやれるはずもありません。なにかといえばビンタで殴られ、大変な目にあいます。

 戦前の日本では、大学出はせいぜい5パーセント程度です。士官になれたのもその程度でしょう。残りは消耗品の兵隊として軍隊でひどい目にあっています。将校も陸軍士官学校出など前線ではほとんど見ることもなく、もともと民間人の予備士官が消耗品として使われたようです。戦争の記録を残しているのは、この予備士官出が多いんですね。二等兵出身の水木しげるの記録は貴重だと思います。『コミック昭和史』には、ところどころ現在の水木しげるの独白が差し込まれています。「ぼくは今でも初年兵の頃の夢をみます。これほど情けなく苦しいものは世界にまずないでしょう」という独白には、コブシを握りしめた絵とバックの「ギギギギ」という効果音とともに大変な実感がこもっています。

 水木二等兵は、兵隊としては使い道がないと思われたのかラッパ卒にされます。しかし、ラッパもヘタで罰として毎日炎天下にかけ足をさせられるはめになります。いやになってラッパをやめさせてほしいと申し出ると、かわりに南方の前線に送られることになってしまいます。悲惨です。

 4巻は太平洋戦争前半です。前半といっても太平洋戦争の転機となったミッドウェイ海戦からで、正確には中盤というべきでしょう。この4巻とつぎの5巻は、ほとんど戦記マンガです。それだけ水木しげるの人生には、太平洋戦争の印象が強かったようです。地獄を見ることになるのだから当然かもしれません。

 ガダルガナル島の激戦と撤退。山本五十六連合艦隊司令長官の戦死を描いたあと、自分史に移ります。水木二等兵は、日露戦争の生き残りのオンボロ船に乗せられ南方に運ばれます。潜水艦の魚雷攻撃を切り抜け、上陸地点に近づくと空襲です。もともと攻撃機だった一式陸攻が戦闘機の代りに援護の空中戦を行い撃墜されてゆく中、なんとか上陸します。「ここが世にもおそろしい地獄の島だということは夢にも想像できなかった…」。水木二等兵が乗った船が、ニューブリテン島にたどりついた最後の船だったのです。すでに島の3分の2は米軍に占領されていました。さらに悪いことに逆上陸と称して敵中に放り出されます。そこにはまだ200人程度の味方がいましたが、わずか10人で100キロ先の地点に前進させられることになります。なんとかたどり着いたものの、敵の襲撃にあいたちまち部隊は全滅。ただ一人脱出した水木二等兵は敵に挟まれてしまい、絶体絶命のピンチで5巻に続きます。これが実話なんだからすごい。

 5巻は太平洋戦争後半です。まず『抗命』で有名なインパール作戦を描いています。それから水木二等兵の絶体絶命のピンチの続きです。絶壁を宙ぶらりんになって敵をやり過ごし、しつこい追跡をかわし血まみれになりながらもなんとか原隊に帰還します。簡単に書きましたが、すさまじい体力、精神力、運の良さで、もしオレがこんな状態になったら100パーセント死んでいます。ところが、なんとか生きて戻ったのに、敗残兵扱いされぶん殴られるありさま。マラリアにかかって42度の熱をだしても陣地づくりにこきつかわれます。

 ここで個人史から離れ、戦史に移ります。中国戦線の大陸打通作戦、アウトレンジ戦法のあ号作戦、サイパン島の玉砕、神風特別攻撃隊が描かれます。戦争だけではなく、貧しい配給や集団疎開といった"銃後"の国民生活もしっかりと描かれています。ここまでくれば、日本は負けだと思うのですが、まだまだ戦争を続けます。一章まるまる使ってレイテ海戦を詳しく描いています。私事ですが、以前勤めていたところに予備士官としてレイテ海戦に参加したおじいさんがいました。有名な栗田艦隊のレイテ沖反転について聞いてみたら、「栗田はビビったんだ」と50年近くたっていたのにまだ怒っていました。

 水木二等兵の戦場は、さらにひどいことになっていました。目の前に20倍の敵が上陸。包囲されてしまいます。ちょっとヒステリックな大隊長が玉砕を決断。玉砕に反対する中隊長を置き去りに敵に切り込んで全滅してしまいます。水木二等兵は、たまたま玉砕に反対した中隊長の下にいたので命拾いしました。撤退も地獄で、動けなくなった中隊長は自決。ようやく後方部隊に合流すると、敵前逃亡扱いされ、玉砕してこいと再突入を命じられ、さらに犠牲を増やします。前線の野戦病院でマラリアで倒れていた水木二等兵は、爆撃で片腕を切断されてしまいます。戦史では、硫黄島戦、沖縄戦、風船爆弾などが描かれます。

 6巻は終戦から朝鮮戦争です。片腕を切断された水木二等兵は死にかかります。奇跡的に後送されラバウルの野戦病院に収容されるのですが、ろくな治療を受けることもできず、傷口にウジがわき、わけの分からない皮膚病にかかってもう一方の腕も動かなくなり、マラリアも再発します。しかし、最前線に比べるとラバウルはまだのんびりしていました。水木二等兵は野戦病院を抜けだし、現地人と友だちになってしまいます。ずいぶん軍隊なれしてきたようで、軍の備品を持ち出し現地人に配ったりしています。現地人とほとんど家族同様に親しくなったところで終戦です。悲しいどころではなく、水木二等兵はニコニコでした。

 水木二等兵が本土に復員したのは昭和22年のことでした。それまで現地の人と仲良く暮らし、本気で現地に永住することを考えたようです。日本に帰ってからは、恐るべき貧乏暮らしが待っていました。でも、たしかにものすごい貧乏なんだけど、戦前や戦時中のような暗さは感じられません。権力によって歯車のように強制された悲惨さに比べると、戦後の貧乏には曲がりなりにも自律的な意志決定なんてものを感じられるからでしょう。

 戦後編になると大きな『歴史』的事件というのは、あまり見られなくなります。水木氏の個人史がメインで、あい間に事件史や社会史を並べた感じです。それだけ戦後が、大事件が少ない平和な時代だったということなのでしょう。

 社会史では、占領軍を迎えるため政府が大急ぎで作った国営売春組織『特殊慰安施設協会』について、しっかり描かれています。解説のネズミ男のセリフです。「"パンパン"……なつかしい言葉ですねぇ。この言葉にはこの時代の独特な虚無的で退廃的なふんいきが感ぜられますね」。時代の空気をとてもよく表しているように思えます。

 復員した水木氏は、闇屋をやったり武蔵野美術学校に通ったりしますが、けっきょく紙芝居画家に納まります。このころに鬼太郎や河童の三平の原型ができたようです。

 7巻は講和から復興です。水木氏は社会運動にも強い関心を持っているようで、昭和27年ごろの共産党についてネズミ男にこのように語らせています。「徳田球一などという名物男がいて みなに面白がられていたが そのうち暴力をふるうようになってきらわれた」。これ以上的確にこの時期の共産党を描くことは、ちょっとできない気がします。60年安保闘争では、日本に派遣された米大統領秘書が全学連に乗用車を包囲されヘリコプターに救出されるというハガチー事件について、こんなふうに描いています。「学生たちにかこまれて困惑するハガチーをテレビなどでみた日本国民は これを嘲笑しているような気分を味わった。全学連主流派が、安保反対はナショナリズムの運動ではない 世界中の民衆と連帯するための運動だといくら叫んでも 日本の民衆はナショナリズムの心情を刺激されて学生たちに声援をおくったのである」このように教科書的な歴史書には載り得ない、時代を共有した者にしか描けない時代の気分のようなものが実によく描けています。他に7巻では、全共闘運動や三里塚闘争についても描かれています。

 さて、斜陽の紙芝居は壊滅し、水木氏は貸本漫画家に転進します。ここら辺の貧乏話は、長いんだけどどこか一本抜けていて面白く読むことができました。講談社に描いたことがきっかけで、突然売れてくるとアシスタントを雇います。このメンバーがすごい。つげ義春を筆頭に、矢口高雄、池上遼一、呉智英、それに講談師の田辺一鶴など、多士済々です。この巻では、当時の漫画家やアシスタントの生活がかなり詳しく描かれています。「マンガなんてこんな苦しい仕事は世の中にないですヨ」という知り合いの貸本漫画家のセリフが、実態を端的にあらわしているようです。死ぬほど貧乏か、死ぬほど忙しいかのどちらかなんだから…。水木氏も仕事のしすぎで倒れてしまいます。

 最終巻の8巻です。このころからオレの記憶にある事件が現れます。最初は万博。それから連合赤軍事件、ロッキード事件、グリコ森永事件、大韓航空機爆破事件、最後に昭和天皇の死とリクルート事件で終わります。

 やはり水木先生には、戦争が強く影を落としているようです。この『昭和史』の最後は「もう戦争はしてはいけない」という言葉で終わっています。

 水木しげるは、決してエリートではありません。学校を落第したあげく二等兵として兵隊にとられて南方に送られ、古参兵に散々ビンタされて、しまいには片腕切断の大けがをして文字通り死線をさまよって復員してきた人です。戦争について論ずる人は、せいぜい予備士官として兵隊に命令する立場だった人が多く、水木しげるのように軍隊の最下層で最前線に送られ地獄のような目にあった人は少ないのです。戦争体験の深みが違うといえばよいでしょうか。

 『昭和史』は傑作ですが、欠点がないわけではありません。最大の欠点は、文庫サイズであることです。マンガは、白い紙に黒インクで描くペン画ですから、立体感を出すのがむずかしいのです。漫画家はスクリーントーンを使用するなど、さまざまな方法で立体感を出そうと苦心してきました。その中でも水木しげるは、点描を多用するという、もっとも良心的で手間のかかる困難な技法を使ってきました。それが文庫サイズに縮小すると、せっかくの点描がつぶれてしまい、台無しなんですよね。その点が特に残念に感じられました。

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 いい機会なので、オレの昭和や戦争に関する考えを書いてみたいと思います。字の色を変えておきますので、そういうのに興味がない人はとばしてください。

 『昭和時代』は、20年までは戦争の時代。それ以降を経済の時代に分けることができるでしょう。

 最近では、今までの『戦前』のとらえ方を「自虐史観」だとする声が大きくなっているようです。南京大虐殺で日本軍は民間人を20万人以上殺したとか、いや、便衣(スパイ)を数百人程度殺したにすぎないとか、珍妙な論争がくり広げられています。南京で死んだ正確な数が分からないから虐殺がなかったとするのは無理があると思いますが、実は殺した人数など問題ではないのです。民間人を殺した人数なら、アメリカなど日本の民間人を50万人近く焼き殺しています。アメリカは堂々とそれを認め、「本当は1000人ぐらいしか殺してなかった」などとショボイことはいわず、もちろん謝罪なんぞしません。彼らの論理は「個人は罪がないにしても、アメリカと戦争するという悪のシステムに加わっているのだから、日本人は死ななければならなかった」といったところでしょう。日本が正義だったと確信しているならば、日本軍が南京で何十万人殺したとしても「日本に逆らうという悪に加わっているのだから、南京の中国人がどれだけ死んだとしても、それは正しかった」と言えるはずです。ところが決してそうは言わないし、言えないのが南京大虐殺否定派の情けないところです。

 なぜアメリカに言えることが日本の新保守主義者に言えないかというと、アメリカは勝ち日本は負けたからです。勝者は正義を獲得し、敗者は断罪されたのです。実際、日本がやってきたことは、時代遅れの帝国主義で、ナチスなんかと組んで勝ち目のない戦争に突っ込み、コテンパンにやられて無条件降伏し、この前まで敵だったアメリカから食い物を恵んでもらい命をながらえたというものです。愚者の歴史そのものです。それが今になって「日本がワルかったというのは自虐史観だ」とか、日本の誇りがどうとか言われてもいかがわしいのです。『新自由史観』と称しているけれど、いいところせいぜい『負け惜しみ史観』でありましょう。オレは日本のみがワルかったとは必ずしも考えていないのだけど、愚劣だったとは言えると思っています。『負け惜しみ』の人たちの論は、対外的に強硬で、土下座外交にうんざりした人たちは胸がすくような気分になるのかもしれませんが、よく見てみるとその矢先は自分たちの背中に向いているような気がしてなりません。自虐史観批判に事寄せて、愚劣歴史を美化しようとしているように感じられ、なにかクサイ感じがします。

 鹿児島の知覧特攻平和会館というところに飛行服の少年兵5人が犬を抱いている記念写真があるそうです。彼らは当時17歳だったそうで、写真を撮った翌日に特攻に出撃して全滅しました。日本という国は、17歳の子どもたちを特攻機に乗せて自爆させるということをやってきたわけです。それが戦争に負けると一転して一億総懺悔でしょ。今頃になって、日本の伝統だとか誇りだとか言われても、とても信用できません。もちろん日本ほど極端ではないにしても、どの国や組織も同じようなことをしてきたんだろうと思います。オレは、国家や会社などの組織や共同体は、幻想の産物だと思っています。死んだ人を馬鹿にするつもりはないのですが、幻想の国家やら民族のために死んでしまうのは愚かしいことです。死んでしまったら肉体が消失してこの世とのつながりが絶たれるのだから、国家や民族や共同体は死人にとって無意味でありましょう。『新自由史観』を唱える人たちは、共同体のために自己を犠牲にする人をつくりたいのではないかと感じられてなりません。でも、煽られてその気になっている人に「それは損だよ」と忠告したい。戦争に負けて自殺した権力者はいても、自分の子どもを特攻にさしだした権力者がどれだけいただろうか。

 そりゃオレだってガキじゃあないんだから、社会を円滑に動かすには最小限の『権力』が必要だということは認めます。いわゆる『権力者』といわれる人だって、別段悪人というわけではなく、ちょっと頭がいい普通のおっさんや兄ちゃんだということも分かっています。でも、たとえばジャイアンの権力の源泉である腕力が、のび太にありジャイアンになかったとしたら、のび太がジャイアン化してジャイアンがのび太と化していたはずです。権力や暴力の腐敗作用が問題なのです。

 攻め込まれた中国人や、植民地にされた韓国人が、日本が大嫌いなのは当たり前に思えます。そのことは、日本が中国に攻め込まれたり、日本が韓国の植民地になったと、立場を逆に想像すれば容易に理解できるでしょう。そして、60年あやまり続けてもゆるしてくれないんだから、100年あやまってもゆるしてくれないんだろうとも思います。謝罪とは許してもらえるかもしれないと思うから意味をなすのであって、相手に許す気がまったくないのに謝罪し続けることに意味があるのだろうかとも思わずにはいられません。それに、中国や韓国の本心は「貢ぎ物をもってこい」というところにあるような気がしてなりません。しかもその貢物は、道路や港に化けるか権力者の懐にすべりこんでいくばかりで、本当に被害を受けた人たちには届いていない気がします。これからも永遠に日本人は税金の一部を貢ぎ物にして、そんな中国や韓国に差し出し続けるのかと思うと、いい加減うんざりもしてくるわけで、負け惜しみの新自由史観が、そういった気分に乗って結構な支持を得ているのも理解できます。

 こんな話を聞いたことがあります。名作アニメ『アルプスの少女ハイジ』が韓国で放送された際、日本製のアニメだといっても韓国人は信用しなかったそうです。なぜなら「日本人に少女の優しい気持ちを描けるはずがない」という理由だそうです。日本人だって鬼や蛇じゃないんだから、優しい気持くらい持っています。でも、その韓国人は、日本人は鬼や蛇みたいな生き物だと思っているみたいですね。最近の中国の反日デモにも、同様に日本人に対する差別意識が感じられます。だいたい昔から中韓の日本人に対するイメージは「東方島夷の国」といったものです。古代の日本人は全身にイレズミして海に潜り魚を生で食ってる原始人、中世の日本人は若いころの織田信長みたいな茶筅髷で毛脛をむきだしに腰に一本差しをぶち込んだ野蛮人といったところでしょう。 

 恨まれるとともに、このような抜きがたい差別意識をもたれているのだから、これからも日本は東アジアの嫌われ者。真の意味での日中友好やら日韓友好などは、おそらく無理でしょう。ここでなにやら被害者意識を持つ人が多いようですが、これは歴史的に日本人がみずから招きよせた事態です。それに、日本列島を抱えてどこかへ引っ越すわけにはいきません。彼らも経済発展してさらに豊かになってくれば、貢物の要求も減ってくると思いますし。どこまで彼らのおねだりに応じるかは、情緒に流されず冷徹に利害得失を計って判断する以外ないでしょう。程度問題だと思います。今後も商売に差しさわりがないように、せいぜいこれ以上恨みや憎しみを買わないように気をつけたほうがよいとは思いますけどね。

 『自虐史観』の人も『負け惜しみ史観』の人も、歴史を語るうえで共通しているのは、上から見下ろしているという点です。オレの見たところ『負け惜しみ史観』の人たちは、支配者層≒金持ちの意を受けた保守エリートの集団です。その主張は要するに「伝統を尊重しろ。権威に従え」といったところでしょう。これを翻訳すると「今まで正しかった。これからも従え」と聞こえてくるわけです。ところが、今まで正しかったというのはウソ臭いし、これからも従えというのは態度のでかい不快極まりないシロモノです。とりわけ連中についていって不利益を被りそうな人たちが、『負け惜しみ史観』に引き寄せられているのは奇妙ですね。

 一方『自虐史観』は、戦争反対でくるんだ柔らかい祖国敗北主義に階級史観の彩りと良識の装いをこらしたモノです。ガッコの先生を先頭に公務員に支持者が多いようです。昔から保守マスコミに叩かれて旗色が悪く見えるんだけど、意外にしぶとく存在しています。『自虐史観』は、とりわけネットでは人気がなく、方々で悪口を書かれています。オレも、日本だけが全て悪くて中国と韓国に土下座しましょうという例のアレには批判的なんだけど、時流に乗って『自虐史観』叩きをするのもいやらしく感じます。

 戦争に負け、国中が焼け野原になって、それまでの「八紘一宇」だとか「万世一系の〜」とかいう言葉のインチキ性が明らかになってしまいました。人間は、社会的に認知されたある種の行動原理がないとうまく生きていけないようです。そのため新たな理念として「民主主義」やら「平等」やら「平和主義」やらの言葉に代表される戦後民主主義にすがりました。そして、アメリカの庇護のもと、外交や軍事はほどほどに、ひたすら経済活動を行ってきたのです。戦争に負けたうえに商品を買ってもらうのだから、外国には頭を下げる。国内では、経済発展を阻害する封建遺制をつぶしてゆく。そういった外的条件が背景としてあるので『自虐史観』が一定の支持を得てきました。要するに、少しはものを考えている良識派や左派の人たちが、経済活動にまい進するのに必要で、かつ都合の良い論理であったわけです。どちらかといえば『自虐史観』の方に同情的なオレではありますが、バブルをはさんで経済的にも社会的にも成熟しつつある現在の日本においては、『自虐史観』がいささか時代遅れになってきたことは認めるべきだと思っています。

 単純化して言うならば、『負け惜しみ』の新自由史観は、外向きのようでいて実は内側を向いた支配搾取の正当化。『自虐』の良識主義は、インテリの自己満足に思えます。土下座外交で税金を無駄づかいされるのは腹が立つにせよ、朝日新聞的インテリが自己満足にふけったところで、まあ、オレにはたいして損もありません。でも、権力者が搾取にかかってくると、税金の無駄づかいどころではなく血税=血の税金=徴兵制など、なにかとんでもないことをされる恐れがあります。その意味で『負け惜しみ』の方が、オレに(というか大勢の人に)とって不利益になるのではないかと思います。

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 コミック昭和史 (1) 関東大震災~満州事変

 コミック昭和史 (2) 満州事変~日中全面戦争

 コミック昭和史〈第3巻〉日中全面戦争~太平洋戦争開始

 コミック昭和史〈第4巻〉太平洋戦争前半

 コミック昭和史〈第5巻〉太平洋戦争後半

 コミック昭和史〈第6巻〉―終戦から朝鮮戦争

 コミック 昭和史〈第7巻〉講和から復興

 コミック昭和史〈第8巻〉―高度成長以降

 

 劇画ヒットラー

 世紀の独裁者ヒトラーを描いた伝記マンガの傑作。狂人ではなく変人として描かれたヒトラーにはユーモアすらただよう。

 

 神秘家列伝〈其ノ壱〉

 妖怪雑誌『怪』に発表された水木しげるの描き下ろし。スウェーデンボルグ、チベット密教のミラレパ、ヴードゥー教のマカンダル、夢記を残した明恵上人の4人を収録。

 神秘家列伝 (其ノ2)

 安倍晴明、明治の女性霊能力者長南年恵、コナン・ドイル、宮武外骨。

 神秘家列伝 (其ノ3)

 大本教の出口王仁三郎、役小角、東洋大学を建てた井上円了、幕末の国学者平田篤胤。

 

 猫楠―南方熊楠の生涯

 天才博物学者南方熊楠の伝記。柳田国男をして"日本人の可能性の極限"と評させた。エコロジー運動の先駆者でもある。

 

 水木しげるの妖怪事典

 水木しげるの妖怪イラストを楽しみたい人には、この本がおすすめ。良書を多くそろえているので有名な神保町の東京堂より出版。

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