エルフの魔法使い

2004 7/05 UP

  エルフ・・・妖精族のなかでも人間に近い姿と考え方を持つ。

しかしながらその歴史は人間よりも圧倒的に古く、個々の寿命もまた長い。

エルフ千年、亀万年(うそ)。平均寿命は1500年と、とあるエルフ学専門学士は語っている。

 この時代の人類は3000年くらいを周期に崩壊を繰り返している。

文明、魔法学、科学はその周期に崩壊し、過去の遺物となる。そしてまた低いレベルから何度も這い上がってくる。

とあるエルフの長老がこんな事を言っている。

 「人間とはこっけいな生き物よ。忙しい奴らじゃ。昨日生まれたと思ったら、すぐさま成長し、そして大勢の軍勢を率いて仲間同士大量に殺しあう。」

どのエルフに聞いても共通点は、「せっかち」「とことんやりこむ」「太くて短い人生」「繁殖力がすごい」「せこい」「がめつい」などと、

どれをとってもいいことではないように見えるが、裏を返して言うならば、

エルフより「ぐうたらではなく」「究極を極めたがり」「だらけた人生ではなく」「自分の種を残そうとするDNAが強い」

「勝つためには手段を選ばない」である。

きっとエルフ族は絶滅の危機から逆転勝利を得て種族が繁栄することはないであろう。

 寿命が長い分、あせる事を知らず、今できることでもつい後に伸ばしてしまうものが多い種族で、

たとえ学問を学んだとしてもその結果は人間より多少優秀な程度である。

人間のペースでエルフが学問を学んだらそれはすごい事になる。ただ、皆が皆そうではない。

 ここに一人の魔法学を専行したエルフがいた。彼の意思は他のエルフより固く、なにより好奇心が強かった。

故里を出て5年が過ぎようとしている彼は人間の魔法学を手に入れようと人間の街に来ていたのだ。

エルフにとっては非常に危険な事である。ゴロツキにエルフだと知られただけで命を奪われるかもしれないからだ。

彼は自分がエルフだという特徴をことごとく隠した。長い耳を隠すために長髪にしてピンでとめ、

外見は人間のはやりの衣装をまとい人ごみに溶け込んだ。

幸いなのは彼の耳は平均値より小さめで、目はさほどつり上がってはいなかった。

一番の救いは顔つきが人間界で言う美形であったという事だった。


そのおかげで比較的、買い物や交渉がスムーズに行ったのだ。

ただ、少女に間違えられて男どもに声をかけられるのが一番の危険な状態であった。

そんなこんなで、そのエルフは少し離れた森に使われなくなった屋敷を見つけそこに研究の材料等を運び込み勉学に励んでいた。

 その出来事は、最近覚えたライトニングボルトのおかげで自信がついたのか

今日の商談もうまく話せ満足げに屋敷に帰る途中の事であった。

少し時間が押していたのか帰りは夕方になった。

この季節、この森には狼が出没するという話は最近住み着いたエルフには知る余地も無かった。
 
 「あおーーーーーー」狼の遠吠えがだんだん近くなるではないか。
 
「やばいな・・・」

狼どもの群れはすでにエルフをターゲットに捕らえていた。

 「6匹かな?・・・」

エルフは狼の確認が出来次第、得意のライトニングで追い払うつもりであった。

 「こんな事で使うのもマテコンのむだだな・・・」

マテコンとはマテリアルコンポーネントの略で、魔法をとなえる時必要な物質である。

 エルフが懐からクリスタルの付いた杖を取り出し魔法をとなえる準備したその時である。

背後から狼が食らえ付いてきたのだ。そしてそれが合図か?次々と狼が飛び掛ってきた。

エルフは押し倒され、まさに袋だたき状態であった。

 「何も出来ないのか!?」

こんな狼、ライトニングボルトさえ打ち込めば楽勝である。まとめて6匹くらい簡単に倒せたはずだが、

それは魔法の詠唱が完成し魔法が発動して初めて成功する事であった。

ライトニングボルトには呪文を唱え始めてから完成までに約18秒かかるのだ。

用意ドンで始めても狼にその詠唱を邪魔されて魔法は完成しないであろう。

普段、実験的にとなえる18秒と実戦の18秒ではとんでもない差があるという事をここへ来て始めてエルフは悟ったのだ。

 出血が激しくエルフは狼の牙にズタズタにされた。

勉学に励み魔法学に長け、強い意志と好奇心を持ち寄せたそのエルフは

残念ながら体を張って生き残るすべを得てはいなかったのだ。

 「くそ!せめてダガーでも扱えるようにしておけばよかった・・・」

その通りであった。

エルフの里を出るなら、まずはサバイバル技能を得てからでも遅くはなかったであろう。

どうやらこのエルフは早く魔法学を得たいがために一般的な技能を勉強することなくここまで来てしまっていたのだ。

狼達は「こういう間違えたエルフがいるから俺達は種族繁栄が出来るのさ」と言っているかのごとくほおばり始めた。

 こうしてエルフの魔法使いがまた一人消えていく・・・

その時、狼の一匹が蹴り上げられた。狼は鳴きながら横っ腹を押さえるようにして逃げ始めた。

残りの狼共は激怒した。エルフはその蹴り上げた男を確認した。背丈が2mはある大男であった。

「助けられたのか?」

2mの大男は狼を撃退し始めた。その姿を見てエルフは思った。

「私には相棒が必要だ・・・」

魔法使いには魔法が完成するまでガードしてくれる盾役が必要だったのだ。

彼は次に学ぶべき魔法を召還魔法に決めたのはこの時であった。

 エルフは体勢を立て直してライトニングボルトをとなえ始めた。魔法は完成するやいなや残りの狼共を一掃した。

狼共を撃退したことを確認すると大男は待たせていた仲間とともに馬に乗って森の奥へ消えていった。

これがバーバリアン「タイソン」とエルフの魔法使い「サイファ」の出会いであった。

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