テッシンと言う名のバンパイア

2003 6/05 UP

 夜も深まり、二人の男は沈みかけた月を見上げながら明かりもともさず話をしている。かなり立派な屋敷で二階のバルコニーで中世の貴族のように優雅に話をしている。

「なあルーツォーよ、貴様はあの邪教を信頼できると思うのか?」
 
若い美男子の金髪が月夜に輝く。テッシンと言うバンパイアである。

「信用はしておりません。がしかし、利用はできるかと。」

頬骨の出た痩せ型のバンパイアは答えた。ルーツォーと言うバンパイアである。

「しかし、本当にオルカスがこの世界に降臨するのか?」

「ジャン・リケドにはロルスが付いておりますが故に、もしオルカスの力が借りられるとするならば・・」

ルーツォーはテッシンを説得していた。この時代、バンパイア同士の生き残りをかけた戦いが絶え間なく続いていたのだ。そしてただのバンパイアは生き残ることができなかった。ここに言うオルカスとはアンデッドの神であり、その力は計り知れない。また、ロルスと言うのはクモの姿をした邪悪な神でダークエルフどもが崇めている。ジャン・リケドはバンパイアにしてダークエルフなのである。

「しかし、しくじれば我々はどうなる?」

美男子の目は赤く光っている。充血している目はバンパイアの証である。

「オルカスは死霊の神です。最悪の場合、我々の魂は支配され奴隷のように使われるでしょう・・・。」

ルーツォーは険しい顔つきで語った。(明かりが無いのでお茶の間の皆さんのは見えないけどね。)

「ようは、あの宗教団体自体をうまく利用すれば良いと言う事だな。」

テッシンは横顔で月を眺めながらほくそ笑んだ。

 そこへ5人の黒い身なりをした奴らが馬で屋敷内に進入して来た。全員武装してはいるがその武器を抜いている者はいない。

「何事か?!」

ルーツォーは叫ぶと同時に駆け下りて行った。

「テッシンはおるか?」

オルカス教のアンチパラディン(邪悪な神に仕える聖戦士)ロベルトであった。

「ロベルト殿・・・」

テッシンは思いもしない来客に驚いた。いや、まさか自分の今の思惑を見透かされていたのかとさえ思った。

「貴様には貸しがあったな。私の頼みごとを聞いてはくれぬか?」

ロベルトは満足そうな笑みを浮かべながら言った。(ここで笑いながらフェードアウト)

 
 ミルガミネの街。その街は小さくとも立派に自給自足で営まれていた。人々はこの世界の中では比較的苦しみも少なく、災害もなかった。

「なあ、タイソン。これからどうする?」

モンゴル風の盗賊、イシュトが言った。二人は馬に乗り、ミルガミネの街の門番から入場許可を受け取っている。

「この剣だ。」

タイソンは背中の大きな剣を指差していった。それは雪の巨人”マフガモ”から奪い返した、とても常人が扱えるとは思えないトゥーハンドソードである。

「その剣がどうした?」

言葉の少ない、説明の足りないタイソンから目的を早く聞き出したかったイシュトはじれったく思いながら尋ねた。

「この剣は光を失っている。だから光を宿さねばな。もう一度。」

「また謎賭けか?今度は何処へ行く気なんだ?」

「この街にある古い宿へ行く気だ。まあ、ついて来い。」

そういうとタイソンはその古い宿へ案内した。

 そこは誰も泊まりそうにない様なボロイ宿だった。まず入り口の扉がない。続いて主人がいない。

「おいおい、空き家ここは?それとも盗賊のアジトか?」

「誰じゃ!」

物置かと思わせるような奥の部屋からドワーフが出てきた。しわだらけの顔に眼帯をしている片目のドワーフだ。

「おお!タイソンじゃないか。生きておったか?」

ドワーフはパイプを吹かしながら嬉しそうに近づいてきた。

「これを見ろ。」

タイソンは背中にかついでいた大きな剣を抜いて見せた。カウンターに乗せるのだが、端から端までドカッと置いたためにイシュトが自分の居場所を失って苦い顔をしている。

「おお、持ってきたか?その剣の秘密を知ったがためにオークから取り戻してきたと言うわけだな?」

いや違う。ジャイアントの手に渡っていて、そいつと一戦交えて奪い返してきたとは一言も言わずにタイソンはニッっと笑う。

「じゃあ預かっていたこれを渡すか。」

ドワーフは眼帯をめくり、その中に隠していた包みを出した。そしてその中から宝石を取り出した。それを見たイシュトが黙ってはいられなくなった。

「おいおいマジかお前ら。」

イーッ?!と言う顔をしながらイシュトは続けて言った。

「片目のドワーフは目の中に隠し、タイソン、おめーはケツの穴によく隠すよな?マジかよお前ら・・・」

シーフも気づかなければ御釈迦様でも気がつくめー。

「じゃがな、タイソン。これをはめ込んでも呪文がなければただの剣じゃ。」

「それは誰が知っているんだ?」

「おいおい、まさかこの剣に魔力を与えようってんじゃないだろうな?」

そんな剣で相手をする敵にいやな予感が走った。逃げ出したくなってきた。

「ベルガンの山にいる鍛冶屋のドワーフに聞け。これを渡せば力になってくれるはずじゃ。」

そお言うと片目のドワーフは巾着を渡してくれた。中に手紙も入っている。

タイソンは雪の巨人から奪ったヘラジカを片目のドワーフにプレゼントした。ドワーフは喜んで

「よし今夜は前祝じゃ!ヘラジカのステーキとラム酒で乾杯と行こう!!」

イシュトは先の不安を考えるよりこのヘラジカの料理と酒盛りに全力で集中する事にした。

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