バンパイアと吸血鬼
2003 3/22 UP
バッカス王国の城下町のはずれにスラム街が有る。そこは無秩序な場所であるとともに自由な場所でもある。悪人にとってはまさに天国である。
先日、城下町に着いたばかりで浮き足立っているダグ・スパンチョと言う男は田舎者で、3GPほどを握り締めて都会で一旗上げるつもりやって来た。
ところが、入り口を間違えたのかスラムから入ってしまったのだ(ばか)。しかし彼は運が良かった方で入り口のチンピラはすでに鴨を捕らえて「オラもっと持ってんだろ!?」「ジャンプせんかジャンプ!」
こちらには気がついていなかったのだ。
夕方になりますます危険になってきた。と、一人の暗い女が近付いて来た。
ダグは「ああ、美しいおなごだ。」
すっかり魅了されていた。
「あんた都会のもんじゃないね?」
上目使いで女は言う。
「ああ、金なら有るど。3GPも、、。」
「ここにはね、田舎では味わえないものが三つあるわよ。」
「3っつもあんのけ?で、なんだべ?」
鼻をたらしながらダグは食い入る様に聞いた。
「一つは舌がとろけるような高級料理。」
「あう、もろこしばかり食ってるだで、いっぺん都会の料理さ食うて見たかとー。」
食い気に走るか?ダグスパンチョ!
「二つめは美酒。一度口にしたらとりこになるわよ。」
「あー美味い酒たらふく飲みて。いつもサル酒ばかりでな。あれはあんまり美味しくないんだ。」
「三つめは、、うふふふ、、」
「あーまかせろ。3GPある。さあ!言わずと知れた所へいくべー。」
勢い付いたダグは女の肩を抱える様にして、左手に3GPの入った小袋を持って、いざ出陣!と言う感じであった。
女が案内したのは警備隊(今で言う警察)も見つける事が困難な下水道を潜り抜け、密かに営む地下室の酒場であった。
入り口に髪の毛を三つ編みにした、目の鋭い、背のひょろっとした男が見張り番をしていてた。
「客か?ティナ。」
用心深い男の様だ。
「そうよガル。今日着いた田舎者よ。大丈夫。」
耳元でささやいた。
「ちっ。ま、せいぜい楽しみな。」
と通してくれた。
中に入ると何やら霧が立ち込めていて(ドライアイスのような)、ひんやりしている。
そして音楽が聞こえてくる。異様な雰囲気だ。
ダグは腰を抜かしそうになった。(今で言うディスコのような感じである。)
そこで若い男女が絡み合いながら踊っているのだ。何ともエロチズムである。
「こ、これは、、聞いた事があるべ。エルフの妖精の宴だべや。」(ちがうだろ!)
「ああ、、まさにエルフは踊りが好きで、年に一度の祭りで踊るんべさ。いや良い日に来たべ。」
(そんなん有るかあほ!!)
半分白目むいて喜ぶダグに女が絡み付いて来る。もうろうとした意識の中でとなりのカップルがまさに昇天を迎えようとしている。
「ああすごいべ。」
男が力いっぱい女を抱いている(獣プレイのごとく)。
実際意識がしっかりしていれば分かった事だった。しかしダグには冷静な判断は出来なくなっていたのだ。
霧のせいだろうか?感覚が鋭くとがったような感じで、何を見ても、何に振れても鋭く敏感に反応する様になっている。
「ああ、、すごいべ。すごすぎる。」
となりの女は狂いそうになっている。
その時、ダグは目がしみるのを感じた。
「あういたい!」
手でぬぐったが痛みは治まらない。敏感になっているせいでむちゃくちゃ痛いのだ。
ぬぐった手を見ると色のついた液体が顔にかかった様である。汗だろうか?
部屋は色々なイルミネイションで実際に何色なのか判断できなかった。
「まいいや」
と言って快楽に走ろうとして女を見ると形相が変である。泥酔した表情で、絡んだ下半身だけがしっかり動き、良い仕事をしているのだ
「これがプロだべ」(ちがうって!)
「ヤギとは違うべなーも!」(死ね)。
辺りで絡み合っていた男女達がとうとう昇天を向かえはじめてあちらこちらで悲鳴を上げる。
一瞬、正気に戻るのに成功したダグは、辺りがはっきり見えたのだ
「え”ーーー!!あうやめろー!!」。
血しぶきだった。
さっきから飛んでくる液体は血だったのだ。
これは地獄絵図だと解ってしまったのがまさに地獄だった。
気付かないであの世に行きそびれたダグは快楽の笑みをこらえ切れない口と、
この場から何としてでも逃げて生き延びたいと神に乞い願う目とが同時に形相に現れ、(絵にしてくれー!)
ただエクスタシーを待つのみとなっていた。
「こ、こいつら吸血鬼だべ。うぎゃ〜!!」(最後にして正解)。
吸血鬼どもは狂った様に踊りながら死体の血を浴び興奮している。
雌馬が雄の尿に興奮するがごとくであるのだろう。何かむかつく踊りをしている吸血鬼もいる。興奮しすぎて馬鹿丸出しである。
その時お立ち台に大柄の男が現れた
「みなの者よく聞け。今日は村長の娘が手に入った。」。
白いブラウスのまぶしい、汚れを知らない、、、っと言う感じの15歳くらいの少女だった。霧のせいで目はトロンとしていて、
「かわいいーー!!食べちゃいたいぜ!」
と一人の吸血鬼が叫んだ。
「どうだ!これを手に入れるのは誰だ!!」
「おれだ!!」
「いやおれだ!!」
どうやらいつもこうなのだろう。獲物をさらって来ては楽しむ。強い者が手に入れると言う儀式なのだろう。
吸血鬼同士の激しい戦いが始まって宴もたけなわである。
暗闇なのに灯り一つ点けずにその地下室に向かう者がいた。
背が高く色白で美男子。
芸術的装飾が施された、長くそり返った剣を背負っている。
マントを羽織っているせいで暗闇に溶け込んでいる。
地下室に近づいた時、入り口で三つ網の目の鋭い男”ガル”が気が付いた。
「ちょっと待て。誰だいあんた?」
美男子は装飾の長剣をすっと抜いた。問答無用なのか?
一方、吸血鬼の方はどうやらつわものが決まったらしく村長の娘に手をかけていた。
短めのスカートを捲くり上げ下着を拝んだ。
「あー・・たまんねーぜ。」
娘の目は行ってしまった感じで虚ろである。しかし体のほうは興奮状態である。
薬だ。媚薬の類をもられている様である。
「この娘、下のほうは溢れてやがるぜ。」
かわいい顔は無表情だが、下半身はひくついている。
「へへごちになるか。」
男が突き立った物を構えたその時、入り口の扉が蹴破られた。
吸血鬼どもは全員振り向いた。
美男子が無表情で入って来た。
「新しいお客様だ!!やっほーい!」
「美男子じゃねーか!」
吸血鬼どもはこの新たな展開に皆興奮している。
「マ・・マキシマス」
ティナは1人冷静でしかも服を身にまとい始めた。
「お、俺はこの美男子で良い!」
と一人がよろけて近づいたその時、剣が音を立てて空を切り次の瞬間吸血鬼は崩れ落ちた。
見事な切れ味で真っ二つである。
これを見た吸血鬼どもは半数が襲い掛かって半数がパニックになった。
ここからは早かった。
次々に吸血鬼どもは切り刻まれていく。屍がまるで土嚢のようにどんどん積まれ砦の様に築かれていく。
そして大柄の吸血鬼の所まであっという間に片がついた。
「テッシンはどこだ?」
美男子のマキシマスは問いかけた。
「貴様なかなかやるな。最近の若いもんにしては・・」
と言っている途中で剣が音を立てて大柄の男の左腕を吹き飛ばした。
「えええ!!」
「もう一度聞く。テッシンはどこだ?」
「こ、殺さないでくれ!テッシンは月の古城にいる。だけど場所はしらねえんだよ!」
次の瞬間、大柄の男の首が落ちた。
吸血鬼どもは全滅した。
その屍を眺めマキシマスは
「人間は弱い心の生き物だ。お前らがバンパイアになれるはずもない。ゴブリン以下だ・・・」
と言い残し、村長の娘と死にかけのダグを連れ帰った。