雪の巨人 マフガモ

2003 1/21 UP


 マフガモ、その名はブリズド山脈のふもとに住む者なら誰でも知っている。
フロストジャイアント(雪の巨人)は普通大きな集落に集団で生活する。しっかりとした組織が成り立っているのだ。
狩や戦闘に出る時も複数でチームを組んで出るのが普通で有る。しかしマフガモはいつも単独で狩に出るのが好きであった。なぜ単独なのか?詳しいことを知る人間はいないが、うわさでは一緒に戦闘に出た弟が死んでから単独行動するようになったらしい。
 集団行動をしないと言う事は非常に危険なことである。自分の戦いに自信があると言う事だろう。
 
 
 この巨人を倒そうと腕の立つものが年間数十人は訪れるが、未だ成功した者はいない。逃げ帰るか消息不明になるのが常である。

 そんな中、4人パーティ(4人組)の冒険者がそのマフガモを倒し、富と名声を得ようと、ふもとの村を出発した。

 黒いマントの戦士と大柄な弓使い、タフそうな(どんな表現じゃ!)聖職者と・・・後一人も戦士か?一人前に短剣を差している。小柄でホビット族である(シーフじゃねーのか?)。

 戦士と弓使いは戦いにおけるエキスパートでそれをまとめる聖職者、そのホビットも戦う意志はあるらしく装備は整えてあるみたいだ。各々の装備から経験豊かな冒険者と見ることが出来る。もしかりにチームワークが完璧に取れたとするならジャイアントですら簡単に葬り去るであろう。
 

 マフガモの身の丈は6メートルを超える。その大きな体を揺さぶりながら獲物を狙う。杭ほどの太さのスピア(長槍)を稲妻の様に投げ付け一撃のもとにヘラジカをしとめた。鹿の中でも巨大なそれを意とも簡単に持ち上げ歩み去る。フロストジャイアントは家族を養うために獲物が大きくなければならない。ヘラジカともなれば身長は6メートル有り体重は1トンを超える。これでしばらくは食べ物に困らなくてすみそうだ。

  ヘラジカ生きてんじゃん!
 
 
 と、その時、妙な所に煙が上がっているのに気がついた。「人間だな。」嫌気が刺したかのように、吐き気がするかのように彼は険しい表情になり言った。
 この領域に入り込んだ人間は今まで全てが雪の巨人を狙う冒険者だった事から、雪の巨人族の方でも人間に対する警戒心が高まっており、機会があれば先制攻撃をし、無傷でその障害を取り除いてきた(これが冒険者が帰って来ない原因なのだが。)。
 激しい生存競争の中で不意打ちは絶対的効力を発する戦法である。冒険者達もまたジャイアントのねぐらを押さえる事に成功すれば勝ったも同然なのだ。
 
 しかしこの勝負はジャイアントがキャンプをしていた4人の冒険者達を先に発見してしまったのだ。杭ほどの太さのスピア・・・瞬時に人間4人をあの世に送るには十分なウエポンである。さらに接近戦闘専用に両手持ちの剣(トゥーハンデッド・ソード)を背中にさしている。
 戦闘準備の方は万全である。さて・・・まず一番強そうな奴を先に片付けよう。
 
 それはマントの戦士ではなく、弓使いであった。

 確かに4人の中で一番大柄で腕も太いし剣も切れそうなのを装備している。

 ジャイアント族は大きい体の割に気が小さい所がある。鈍器には滅法強気だが刃物は苦手の様だ。鯨の肉には外壁に分厚い油が乗っているがそれと同じで、その脂身のおかげでハンマーなどの打撃からは全くダメージを受けない。
 
 しかし刃物で鯨のにくをさばく様にジャイアントの体も簡単に切りさばかれてしまう。(人間と比べれば象の尻のように硬いけどね。)

 その次はあのマントの戦士。次ぎに・・・この時点で勝ちを悟ったマフガモは作戦を立てる必要性は二人目までで十分だと考えた。

 ホビットはすばしっこいので最後にゆっくりやる。これはジャイアント族の基本的な戦法にあるのだ。すばしっこいのから狙うと、その間に手が空いている敵から集中砲火を浴びる事になる。

 ジャイアントのことわざに”急時小人を後にせよ”と言う言葉あるくらいだ。もっぱらこの小人とはホビットやドワーフの事で若干うざいが苦手と言う事では無いらしい。
 

 さてマフガモは頭で整理すると実行は早かった。

 ブッシュをかき分け突撃した!。

 電光石火のラッシュが弓使いを襲った!!。

 不意打ちをくらった弓使いは全く対処できぬまま3回も突かれた!。

 肩、胸、腹、スタッテッドレザー・アーマーがその直撃をわずかに和らげてはいるが全てが命中している。

 硬い皮に鋲を打っただけの機動性重視型の鎧ではその杭ほどのスピアのダメージはさほど軽減できはしない。

 その場にうずくまった弓使いを見て第1目標突破と悟り第2目標へ進んだ。

 しかしそこで思わぬ事態が起きたのだ。

 黒いマントの戦士はすでに剣を抜いていた。

 鋼の鎧の上に皮がコーティングされている黒いバンデッドメイルを装備しマントをひるがえし飛びかかってきた!!。

 戦士の一撃をマフガモはやっとかわした。

 この戦士までは不意打ちで倒したかったが、あまりの戦士の対応の良さに度肝を抜かれた。

 しかもこの戦士、ジャイアントの背の高さくらいまでジャンプしながら攻撃してくるではないか。

 そう、実はこの戦士、以前からの冒険でジャンピングブーツと言う魔力の掛かったブーツを幸運にも手に入れていたようで、その人並みならぬ跳躍力で戦場を切りぬけてきたのであろう。

 マフガモは目標を変更して聖職者の方をにらみ付けスピアを投げ付けた。

 稲妻の一撃のようにスピアは聖職者の太股に突き刺さった!。

 地面に串刺しになったのだ。

 マフガモはすかさず背中の長剣を抜き接近戦に備えた。

 マフガモの素早い戦略は経験豊かな冒険者達のチームワークを引き裂き、あと一歩で全滅させる所まで来ている。

 
 ホビットは・・・すでに逃亡していた。

 
 聖職者は苦痛のもとに神にまともな祈りをささげる事は出来そうに無い。
 
 やるしかないと決意し戦士は踏み出した!。

 跳躍と同時に剣を振る!。
 
 マフガモは一対一になれば必ず勝てる自信があった。それは今まで幾度と無く強豪と戦ってきた経験が彼に自信をつけさせたのであろう(まあ、タイマンで巨人が人間に負けるはずが無い。)。
  マフガモ:ウインターウルフの毛皮をめしている。
 

長剣が戦士の剣を払い落とした、と言うよりその強烈な一撃で剣を握ったままいられる人間はまず居ないであろう。

 戦士は絶体絶命に陥った。
 

 倒れたままの弓使い。


 串刺しの聖職者。


 逃亡したホビット。


 そして剣をはじかれた戦士。


 勝負はついていた。


 串刺しの聖職者は必死で何とかしたいのだが出血はひどくだんだん気が遠くなって行く。
すうっと力が抜けて地面に倒れ込む・・・。

 その杭の太さのスピアが抜かれる感触を最後に気を失った。

 
 マフガモはゆっくり戦士をしとめようとしたその時、足元に自分のスピアが飛んできて突き立った。

 振りかえるとそこに大柄の(身長2メートルくらい)男が立っていた。

 
 タイソンである。

 
 バスタードソードを肩に担ぎながらゆっくり、にらむ様にして歩いてくるタイソンにマフガモは血が沸き、肉が踊るような感覚を覚えた。

 このシチュエーションで自分に挑戦してくる人間、こいつを倒したときの快感は何物にも代え難くジャイアントの誇りとして自分の部族に自慢できる(ジャイアント族は血気盛んでこういったシチュエーションに弱い。たいがい快く挑戦状を受けてくれる。)。

 「やっと見つけたぞ。その剣を返してもらおうか。」タイソンはニヤリとして言った。

 マフガモは勢いに乗って襲いかかってきた。

 
 ジャイアントの巨大な剣とタイソンの剣が鍔迫り合いになり、二体が硬直するその姿を見て黒いマントの戦士は唖然とした。

 「ジャイアントと互角の腕力だって?」

 戦士は思わず口に出して叫んでしまった。

 そして二体の巨体が唸り声を上げたその瞬間!二本の剣がはじき飛んだ。

 タイソンはすかさずジャイアントの左足を両手で引っこ抜く様にして、ジャイアントを倒した。

 上にのしかかって顔面にこぶしを叩き付ける。

 何ともすさまじい戦いっぷりだ。

 そのすさまじい姿に戦士ははっきり見えたのだ。

 オーラ・・・。

 タイソンのオーラを見た。

 実際ジャイアントは6メートルを越える巨体だが、そのタイソンの体もそれに勝るとも劣らない互角の体つきに見えたのだ。

 まさにマウンテンスタイル状態で(馬乗りになって)顔面を叩き潰す。

 勝負は決まっていた。

 「ま、この辺で勘弁してやろう。」

 気を失ったジャイアントを後にタイソンは探していた長剣を手に満足そうな笑みを浮かべた。

 長剣を奪い取るとついでにジャイアントの装備(身につけている)のウインターウルフの毛皮のマントをはぎ取っている。

 イシュトが駈け付けて言った。

 「タイソン、その剣か?」

 「ああ、そうともよ。」

 野太いタイソンの声に戦士ははっとした。

 「タ、タイソン・・・。」

 その野太い声に聞き覚えがあったのだ。
 
 木の陰から今までずっと隠れていたホビットが出てきて命拾いした感動で声を震わしながら言った。

 「アイス!大丈夫か?あの大きい奴すげーな!」

 アイス・・・黒いマントの戦士の名はアイス・フォルコン。

 アイス・フォルコン。左眼にキズがある。
 

 ドーマの傭兵。ドーマの戦場を1人で最後までかけ抜けた有名な戦士であった。(どうりでマフガモに簡単にやられなかったはずだ。)

 戦後、彼は商隊の護衛につく仕事をしていたが、オーク隊と交戦になり、今日と同じような絶体絶命のピンチにたまたま通りがかった大男に救われた事があった。

 「タイソンだったんだ、、。あの時の大男。」

 タイソンとイシュトを追いかけながらホビットに

 「タンタン、倒れた二人を見といてくれ。」

 と言い走り出した。

 戦いにおけるセンスが違う。確かに腕力、体力に圧倒的な差が有る。

 でもそれよりやはり何と言ってもセンスが違うのだとアイスは心でつぶやいた。

 「タ、タイソンさん!」

 二人は馬にまたがる所だった。

 「ありがとう。」

 アイスは前回救われた時、言い忘れたその一言をやっと言えたのだった。

 タイソンは大きな長剣を空に掲げ背中で返答して去って行った。
 

 自分の戦闘スタイルが極まったと思い込みながら嫌気のさす戦場を駆け巡ったアイスは今日ここに戦士と言うものの奥深さをタイソンから学んだのだ。

 相手が人間ではない時の戦い方。ジャイアントの足を引っこ抜く。生き残るための知恵。まだまだ知らない事ばかりではないか。
 
 果てしなく伸びる1本の道がアイスの前にはっきり見えてきた。心の中で「ありがとう。タイソン・・・。」と、もう一度別の意味でアイスは夕焼けに立ち去るその大きな背中に言った。











 

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