暴力と言う名のもとに

2002 12/15 UP


 肌を突くいてついた空気の夕刻、遥かかなたまで連なる山脈。自然の力のは人間の侵入を拒むかのように厳しく、とても文明が入り込む余地はなかった。

 ダークブラウンの長い髪を一つに束ね、ブショウひげで覆われた男が山から降りて来た。黒い皮の服を着ているが所々裂けていて体じゅうが傷におおわれているその男の手には全体が鉄でできている使い古された槍が握られている。
 何度も彼は山の方を振り返りながら、やぶを力強くかき分け前進してくる。転んでは立ち上がり、また振り返る。何者かに追われている様だ。
  タイソン 顔アップです。
 

一方、すでに日も落ちかかり、ここらで野宿を決め込んで食事のしたくをしている男がいた。

 彼は皮の服(モンゴル系のえりが毛皮の奴)を着て丈夫そうな皮のブーツをはいている。袋から羊の皮でできた水筒と何やら肉の干したのを出して食べ始めた。そしてナイフで木の枝をまっすぐに削り、鳥の羽をくくりつけながらにやっと笑みを浮かべる。時より空を見上げてはうなずいている、、、妙なやつだ。
 イシュト タイソンとは仕事仲間で弓の名手。

 すると突然、火を消し始めた。次にかばんと弓を持って身を伏せた。様子を見ている。聞こえてきたのは馬の蹄だった。「一、二、三頭、、、いや四頭だな。」伏せながら妙な男はつぶやいた。
 

 先ほどの傷だらけの男はどうやらその馬に追われていたらしい。とうとう観念したのか槍を両手に持ちかえ、身構えた。馬に乗った連中はそれぞれ武器を手にしている。彼を殺すつもりらしい。

 馬に乗った一人が突撃の合図を出したその時、傷だらけの男は槍を力いっぱい投げた。それは見事に一人の男に突き刺さった。 残りの三頭が突進してくる。

 一人は騎乗弓使いであり距離を取って馬上から弓を打つ。

 先頭の馬に傷だらけの男は突進した。そしてなんと馬を抱え込んだのだ。
 馬の首をへし折るつもりらしいが、そうはいかぬと馬の上から剣を一振り。肩に刃が食い込んだが傷だらけの男はかまわず馬の首をねじりこんだ。馬はねじれながら横倒しとなり乗り手は馬の下敷きとなった。
 すかさず追い討ちとばかりに乗り手(下半身が馬の下敷きになっている)の顔面に拳を見舞う。一撃でさえ顔がつぶれ血しぶきが吹き荒れるのに連打をあびせられ頭部の原型はもはやとどめてはいなかった。
  ←バーバリアンの戦士タイソン。でかい槍を身構える!

 流れるテンポで行きかけたが、騎乗弓使いから放たれた数本の矢がその流れを止めた。放たれた六本のうち三本も命中していた。なかなかの使い手(マスタークラス)だと判断した彼は矢をくらいつつもステップを踏み接近した。
 
 そのとき空中から投網が降り注いだ。
まんまと網の中にとらわれた傷だらけの男はもがきにもがいた。

「ばかめ逃げられると思ったか。死ねい!!」
 
 剣でとどめを刺そうとしたその時、その男の額に矢が突き立っており

「なんだ?」

と言った次の瞬間馬から落ちていた。

 残った騎乗弓使いはその状況にすばやく対応した。自分も弓使いであるがゆえに矢の軌道から打ち手の方向、距離が割り出せた。その先に人影を見つけるが早いか弓を引きしぼっていた(素早い判断力だ)。目標の顔面に的を絞り後は指を離すだけとなり

「もらった」

と言った次の瞬間、騎乗弓使いの目を貫通して後頭部から矢じりが突き出し脳みその破片か何かが飛び散った。

「もらっってから言え。」

 モンゴル系のえりの妙な男が言いながら弓をおさめ、突き刺さった矢を回収しつつ

「お前が来るのはわかっていたよ、タイソン。」

夕空に輝き始めた星に指をさして言った。

「またお前に助けられたな、イシュト。」

そう言いながら死体から金目のものを頂戴するタイソン。

「こいつは良い剣だな。頂くとするか。」

一般の男が振り回すには両手を要するバスタードソードをタイソンは軽々と片手で振って見せた。

「お前が持つとバスタードソードがショートソードに見えるな。」

二人は声をあげて笑い出した。
 

 二人は荷物をまとめここを立つ事にした。

「この馬を使おう」

タイソンはそう言うと馬にまたがった。

「タイソン。ここから南に街があるそこへ行こう。傷の手当ても必要だしな、、」

「いや待て。」

タイソンは険しい顔つきで言った。

「風の来る方角にオークのキャンプ地を見つけた。そこえ行く。」

 オークとは豚と人間の合いの子で(猪八戒のような感じ)、移住しながら生活を立てている。外見的にそれは恐ろしく、また気性も荒い。人間を見下しており、行者のキャラバンを襲う事は奴等にとってあたりまえなことである。ライオンが狩りをして生計を立てるそれと同じことなのだ。
 商人もまたそのオークに襲われる事を前提に護衛を雇う。オークの集団と護衛の力量がぶつかり合い勝負は決まるが、たいてい人数の多いほうが勝つ。多勢に無勢である。

「タイソン。正気か?あそこにいるオークと言えばグオギガの集団だ。」

イシュトは横目で伺ったがタイソンはすでに馬を走らせていた。

「また面白そうな事になりそうだな。」

そのたくましいタイソンの後姿を見ると矢がまだ背中に刺さっている。
 

二頭の馬の足は軽く、夜営をしているオーク(グオギガ)のキャンプ地に着くのにそう時間は掛からなかった。
 タイソンは馬を降りバスタードソードを片手に陣営に歩き始めた。イシュトはすぐ後ろに着いて行く。

 奴等を見るとどうやら収穫があったらしく、酒盛りをしている。ブーブーキーキーうるさい奴等だ。訳すと

「いや、しかし最近の護衛は戦わねーな。すぐ逃げやがる。」

「ばか、こちらが強すぎるんだよ!」

「そのおかげで美味い酒も飲めるしな。さー飲め、、」

 横からでかい器が割り込んで来てたっぷり酒が注がれ、気持ちが良いほどたくましい飲みっぷりで皆の者が見取れてしまい、、、

 よく見るとそれが知らない奴で、、しかも人間。ドドっとわき上がるオークの陣営。

イシュトがにやける。

「よくやるよ、、。」

「だっ!誰だ!!こいつ」豆鉄砲を食らった鳩のような顔で(しかもオーク)剣に手をやるオークたち。

「なんだこいつー。」

 よく見れば全身血だらけで、一瞬ゾンビと見間違えそうになった自分に腹が立ったオークの一人がその勢いで斬りかかった。

タイソンはすっと避けながら焼き立ての肉をガッツキ始めた。

「ああ!せっかく焼けた皆のぶんをー!」

たいていこういった奴はパシリだね(笑)

珍しいひょろりとしたオークが言った(たいていオークは太っている)。

「おめえ等なんて味覚してやがる。塩かけ過ぎだ。」

と言いながらどんどん食い続けるタイソンにもう一人が斬りかかる。避けられたオークはその勢いに酒樽に突っ込んだ。タイソンは酒樽に顔をうずめているオークをグイっとつかみ上げ

「邪魔だ」

と投げつけて樽の酒をむさぼる。

「塩きいてると酒が美味いから良いけどな。」

 この失態に隊長らしいオークが出てきた。オークチーフである。

「若いの!ふざけるに程があるぜ。」

人間の言葉だった。

「ほおー。あんたじゃべれるのか?」

 オークの中には人間の言葉を話せる奴がたまにいる。敵対していると同時に交流も深いと言うわけだ。

「酒盛りに参加しに来たわけじゃあるまい。答え方次第じゃ生かしちゃおけねーぜ。」
 
 タイソンは知っていた。オークと言う奴等は縦社会が厳しくこのチーフをねじ込めば回りの五十人のオークはびびって手も足も出せないと言う事を。だが驚いたのはその後だった。タイソンはバスタードソードを素早く振り回しズカッと地面に突き刺してチーフの方をにらんだ。

 チーフはタイソンの目を見るや一歩下がった。オーラだ。何がしらこの男に死と隣り合わせの”気”のような物を感じてやまない。緊張が走る。

 まわりの部下達はオークチーフが勝つと信じている、がゆえに逃げる事は許されない。しかしこのオーラ、勝てはしないと悟ったチーフの心の中で懐かしく幸せだったあの頃が走馬灯のように流れ始めている。

 できれば穏便に方をつけたい。実際この男は剣を地面に刺してこちらの出方を伺っているではないか?答え方次第では生かしてくれる、、、。

 何時しかあべこべになっていた。

「何が望み、、だ」

 チーフは何とか戦闘を避けようと口を開いた。が、まわりの声が邪魔で聞こえなかったような感じだ。

「やっちまえー!!」

「チーフ!はやいとこやってくださいよー!」

、、だ、だめだ、、ここまでか、、。覚悟を決めたチーフは仕方なく飛びかかったその時である。

「静まれー!!」

 背後から声がした。

「お前等が束になってもその男にはかなわぬぞ。」

 それはこの団の長、グオギガの声であった。隻眼のオークで一回り、いや二回り大きなその体をユッサと揺らしながら民衆をかき分けこちらへ近づいてくる。

チーフは膝をつき、がく然としていた。(俳豚)

「今日は何のようだ?タイソン。」

 グオギガは椅子に沈みながら言った。

「お前に預けておいたあの剣を取りに来たんだ。」

 ”あの剣”と聞いてグオギガの顔色が変わった。

「あ、あの剣か、、、」

片方しかない目が緊張、いや怯えか恐怖の感情を隠せずに瞳孔が開いたように豹変した。

「あの剣って馬鹿でかいあれか?」

オークの中でもそれは有名になっていたらしい。

「あれを使えるのはオグルかジャイアントだ。人間の使えるもんじゃねーぜ。」

オグル、ジャイアント、どちらも図体がでかい化け物で2メートルから大きい物で6メートルを超えるやからもいる。目の前の男も大柄では有るが2メートルはない。(実際この時タイソンは1m98。人間では巨漢かもしれないがあの剣を使うにはまだまだ。それだけあの剣は大きかったのだ。)

 タイソンは地面に突き立てたバスタードソードをぬき仁王立ちになり言った。

「どうやら手放したな?」

 その凄みにグオギガは慌てて言った。

「ちがう!奪われたんだ。」

「どこのどいつにだ!」

「ブリズド山脈のジャイアントにだ」

 にらみながらタイソンは言った。

「ブリズドだな?あそこのジャイアントが持っていなかったらお前の命も無いぞ。」

 ゴクリとうなづくグオギガ。

「約束だったよな命に代えても守って置くって。」

「そうだっけ?、、ああそうだった。」

 タイソンの目を伺いながらグオギガですら合わせるしかなかった。

「騒がせたな。」

タイソン達はすかさずキャンプ地を出る事にした。

「なあタイソン。その剣のためにここへ?」

イシュトが聞いた。

「そうだ。」

馬にまたがりながらイシュトは、オークのボスに剣を預け、それを力で返してもらおうなんて何を考えてるんだこいつは?
 しかも今度はジャイアントに喧嘩を売りに行くってか?今度は俺達やばいんじゃ、、と思った。

 がしかし良く考えればそれほどまで危険をおかし装備を整えるほどタイソンの身に何かが起こっていると言う事なんだろうとも友達であるイシュトは理解していた。

 第二章へ続く、、、

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