Shangri-La
特別編VOL-02
セーラー服の暗殺者(EP-03)
2009/05/22 UP



   どこか遠くからパトカーのサイレンが時より耳に飛び込んでくる夕方。  

 涙目の横顔、藤堂めぐみは河川敷で体操座りをしていた。

 「こんなはずじゃなかったのに……」

 あまりにも信じられない出来事に戸惑う藤堂めぐみは、今一度、記憶の整理をするために

 つい先ほどの出来事を思い出していた。

 体育館の片隅で同じ部員の生徒達と口論になったのが始まりであった。

 「私は、そんなつもりじゃありません!」 めぐみは大きな声で反論する。

 「でも、先生はあなたをインターハイの選手に登録するらしいじゃない?」

 「それってひどくない?」

 「そうよ、美咲のことを考えれば辞退するべきよ」 

 「そんな事……言われても……」

 反応が鈍いめぐみに部員たちは苛立ちを覚えた。

 「あんた、辞退しなさいよ!」 一人が藤堂を押し倒した。

 理不尽にも藤堂めぐみは同じ部員の仲間から、いじめを受けていたのだ。

 めぐみも今までずいぶんと我慢して、それが最近の悩みの種でもあった。

 嫉妬から始まったとは言え、大半の部員達を敵に回しては、もう部活どころではなかった。

 「脱がしちゃって」 扉の陰から現れた女子部員は、手にカメラを持っている。

 「美咲……」 唇を震わせながらめぐみは美咲を見つめる。

 「まじめと言うか、頑なと言うか……いや、ゆうずうが利かないと言うべきだわ」

 美咲はカメラを回しながら近づいてくる。

 「再三の申し出を拒否ってくれちゃってさ」

 「優しくしているうちに辞退しなかった貴方が悪いのよ」

 今までの一連のいじめが、美咲にとってはめぐみを排除する穏やかな手段だったと言う事らしい。

 めぐみは信頼していた友人である美咲がこんな形で裏切るとは思ってもいなかった。

 入学当時から親しかった美咲が今、嫉妬から犯罪を犯そうとしているのだ。

 「めぐみ……貴方が辞退しないと言うなら手段を選んでいられないわ」

 めぐみは徐々に体操服を脱がされてゆく。

 「いやぁぁぁっ!」 必死で抵抗するが三人に押さえつけられは、めぐみもどうする事も出来ない。

 こんな事をするとは

 この時点で藤堂めぐみは友人、いや人間を信じられなくなった。

 「いい画像が撮れるわよ」 美咲は笑みを浮かべている。

 部活後なので体操服が汗で湿っていて、なかなか脱げない。

 「場合によってはこの画像をインターネットでばら撒いても良いのよ」

 露出した肌が汗で光る。

 なんと破廉恥な姿であろうか?

 高校生とは言え、すでに体は大人であった。

 こんな画像がインターネットでアップされたら、めぐみは人生自体が狂わされてしまうであろう。

 「いいわよ、もっと脱がして」

 汗でにじんだ純白のブラジャーとショーツが露出する。

 「そうよ、全部脱がして」

 「やめてぇぇっ!」 泣きながらの叫び声はこの状況を救ってくれる誰かに届く事も無かった。

 「うるさいのよっ!」 藤堂めぐみの太股に蹴りを入れる女子の目は何かに取り付かれている様であった。

 蹴られて四つんばいになった藤堂めぐみを見て美咲は嬉しそうに笑い

 「ほら、もっとお尻を突き出しなさい!」

 ハイジャンプを得意とするその脚からお尻にかけた、しなやかな筋肉がなんとも美しいラインを作っており

 背後からお尻を攻められる、この上の無い不安に引きつった藤堂めぐみの顔はとても哀れで愛しくも思える。

 殴られても近寄ってくる子犬のような、そんな表情もカメラに収められてゆく。

 「さあ、そろそろ放映禁止なところもカメラに収めないとね」

 「美咲も鬼ねー」

 どこでこのような訓練をつんだのか?三人は押さえつける係りと、脱がす係りに別れて

 なんとも手際よく作業が推移して行くではないか?

 そして、ショーツが太股の辺りまで下げられた、その時。

 「きゃぁーっ」 三人の女子が吹き飛ばされた。

 「なに?どうしたの?」 美咲は何が起きたのか理解できないままシャッターを押し続けた。

 「あれ?めぐみはどこへ?」

 めぐみが目の前に居ない事に気づいた時にはすでに遅かった。

 「あぁぁっ!痛いっ!」 美咲は背後より腕を絡みとられていた。

 熱い吐息が美咲の耳元に吹きかけられる。

 「シャーッ!シャーッ!」 

 唾液の匂いが鼻を付き美咲は後ろに居る藤堂めぐみを何とか確認しようとするが

 腕をとられ押さえられていて、どうしようもない状態であった。

 「何なの!?やめて!めぐみっ!」 何か粘液に濡れた触手のようなものが美咲の耳に侵入する。

 「あぐっ!」 苦痛に顔がゆがむ美咲に間髪いれず、複数の触手が目、鼻、口に進入する。

 カメラは美咲の手を離れゆっくりと地面に落ちた。

 そして……
 
 断末魔の美咲の悲鳴と共に藤堂めぐみの回想はここで終わる。

 平凡に営まれてきた高校生活がこんな形で終わってしまうとは

 人を殺してしまった以上、もうまともな生活は出来ないであろう

 終身刑か最悪は死刑と言う事も十分考えられる。

 現実に意識を取り戻しためぐみは、また涙を流した。

 しかし、何時までもこうしては居られない。

 めぐみは混乱状態で足取りも重く、ゆっくりと河川敷を後にする。

 そんな心に深く傷を負っためぐみに現実社会は容赦なく追い討ちをかける。

 堤防沿いの道で犬の散歩をしていた中年女性と警察官がめぐみの方を見て

 「女子高生ならあそこに」指を差す中年女性。

 警察官は早足になり、めぐみに近づいて来る。

 「やはり聞き込みをした甲斐があったか」 西村は汗をぬぐいながら走り始めた。

 「こちら西村、藤堂めぐみと思われる女子高生を発見」 無線で連絡する西村。

 「どこだ?」

 「河川敷を下りて路地に入る模様、東区三丁目辺りです」

 「解った、すぐ行く」

 女課長の白鳥はすぐさま田中に無線連絡する。

 「田中、聞こえるか?自宅での張り込みは中止だ東区の三丁目へ向かえ」

 「了解!」

 西村は路地まで走り藤堂めぐみを確保しようと思いきや、突然右から走ってきたバイクに引かれそうになった。

 「あっ!危ない!」 間一髪、西村は避けた。

 見るからに早そうなバイクでヘルメットもかぶらずに暴走している。

 「暴走族か?交機も、もう少しまじめに取り締まったらどうだ!」

 西村は振り返り再び藤堂めぐみを追いかけようとするが、目標を見失った。

 「ちっ!どっちへ行った?」 辺りを見渡すが藤堂めぐみの姿は無い。

 「課長っ!目標を見失いました」

 「西村、後1分でそちらに付く」

 「まだ三丁目付近からは出ていないと思います」

 「西村は引き続きその辺りを調査しろ。片桐っ!聞こえるか?片桐は大通りを封鎖しろっ!」

 「了解っ!」
 
 路地の陰からハンターが姿を現す。

 「ターゲットは間違いなく女子高生だそうです。熊田さん、今回は私が捕獲します」

 「解った。わしも陽動に回るわい」

 「聞こえますか?藤岡君、女子高生ですよ。解ってますよね?」 ハンターは携帯電話で藤岡へ連絡する。

 「なんやほんまにぃ?しゃあないな。了解や」 なんだか嬉しそうな藤岡、いや悲しそうなのか?

 見るからに早そうなバイクに乗っているのは中西堅夫だ 「乗れっ藤岡っ!察の前では本気で飛ばすから落ちるなよ」

 「中西さん、ちょっと待ってや」 藤岡はボストンバッグを脇に抱え路地裏へ隠れる。

 「はやくしろよ」 バイクのアクセルを回し、エンジンを吹かす中西堅夫。

 GSX1300『隼』外見だけで早いと思わせるそのデザイン。

 リッターバイクの中でもこれほどピーキーなバイクは他に無い。

 「陽動は任せたわよ」 ハンターは携帯を切った。

 「芳子さんターゲットはどちらへ向かっていますか?」

 「三丁目を北へ……」 岩井芳子は人形をなでながらつぶやく。

 ハンターは藤堂めぐみの行き先を、岩田芳子から逐一報告をもらっていた。

 しかしそれは携帯電話ではなくテレパシーのようなもので、ハンターの頭の中へ

 直接、送り込まれてくるのだ。

 これがアウェイキンの力なのか?

 熊田は電動車椅子でゆっくりと警察のほうへ向かった。

 しばらく探したハンターは、とうとうターゲットの藤堂めぐみを発見した。

 ハンターはめぐみの前に立ちふさがった。

 「だっ……誰?」 おびえるめぐみ。

 「あなたは警察に追われています」 ハンターは優しい顔つきで話す。

 「はっ!」 あまりにも心当たりがあるめぐみは体に電気が走ったようになり動けなくなった。

 「一緒に来てください」

 めぐみは混乱しているので判断力が鈍っている。

 「やめて……近寄らないで……」

 「もう大丈夫だよ」

 「いやあぁぁっ!」 めぐみの目が光を放ち常人ならぬ動きに変わった。

 防衛本能からの戦闘行為だ。

 「大丈夫、私にはあなたの攻撃は効きませんよ」 ハンターは微笑みかける。

 両者、次の瞬間より戦闘開始という場面である。

 ちょうどその頃、電動車椅子の熊田は警官西村に呼び止められていた。

 「すみません!ここら辺で女子高生を見ませんでしたか?」 肩で息をする西村。

 「ああ、そう言えばさっきバイクに乗せてもらってたなあ…向こうへ…」 指を指す熊田。

 「そうですか」 西村は苦虫を噛み潰したような表情になった。

 「なにかありましたか?」 熊田はいい芝居をする。

 「いや、ありがとうございました」 西村はそういい残すと

 「藤堂と思われる女子高生が二人乗りのバイクにて逃走した模様、繰り返す」

 無線で連絡した。
 
 片桐率いる警官隊は、各々配置に付き次の指令を待っていた。

 「白鳥課長!大通り検問により封鎖完了です」

 「そうか、二人乗りのバイクだ」

 「任せてくださ……」

 「あっ!!!」

 片桐が言う矢先、二人乗りのバイクが突っ込んでくる。

 「かっ!課長!現れました!」

 「男女の二人乗りのバイクです。後部座席に征服を着した……」
 
 一瞬で二人乗りのバイクは検問を突破した。

 「車種はGSX1300……はやぶさ……」

 「押さえられそうか?」

 「…突破されました…」

 「はやっ!」 白鳥もあっけに取られてつぶやいてしまった。

 警官たちはその場で全員固まった。

 「何をしている!おえ!追えー!」 パトカーがすかさず追いかけるが、さすがに隼は早かった。
 
 おそらく、時速200kmは出ているのでないか?

 「むちゃくちゃしやがる!」 片桐は信じられないと言った表情で言った。

 まるで街道を低空飛行するように隼は快走する。

 「加速で女の子が落ちるぞ!とまれっ!」 パトカーはぐんぐん離されて行く。

 「女の子やないんやでー」 タンデムしていた後ろのセーラー服を着ているのは藤岡であった。

 「セーラー服着る必要があったのか?」 中西堅夫が言う。

 「なに言うとんねん!陽動作戦ゼロワンやろ?着なあかんやろ?」

 「そ、そうだな……俺じゃなくて良かった……」

 
  一方、ハンターは

 「かなり力を使いましたね?」

 藤堂めぐみはふらつき、立っているのがやっとであった。

 「あなたは一体……」 

 「信じてください。敵ではありません」

 膝から地面に倒れこむめぐみをすばやく抱きかかえるハンター。

 「安心して……」 ハンターは優しく頬をなでる。

 「……」 藤堂めぐみはゆっくり眠りに付くようにまぶたを閉じ気を失った。 

 ハンターはニヤリと笑い

 「また一人、アウェイキンを捕獲完了しました」 

 低い声で誰かに報告している。

 「そのまま、任務を遂行するあるゲロ」

 「了解」

 淀んだ都会の空気のように、犯罪の陰も街中に浸透してゆく。





つづく

 



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