Shangri-La
特別編VOL-02
セーラー服の暗殺者(EP-01)
2009/02/10 UP



  そう、誰が見たって可愛い普通の女の子なんだ。

 ピンク色のセーラー服を着た、一瞬見た目では小学校の高学年のような幼顔の……。

 幼い顔とセーラー服が微妙に合わないって言うか

 ほら、初めてセーラー服を着た幼なじみの女の子が大人びて見えた

 なんか、セーラー服着た瞬間に気持ちが入れ替わって、大人になるというか

 セーラー服を着る頃の女の子は、幼さを失っているんだよ

 だから、幼顔の女の子がセーラー服を着ること自体が違和感をかもし出すんだ。

 でも……

 その可愛い普通の女の子は……

 無表情で俺たちを……


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  「お兄ちゃん、ほら起きて」

 「んんん」

 「拓巳!いい加減起きないと遅刻するわよ」

 台所から母の呼ぶ声と二段ベッドの上から、妹の朋美の声で起こされた。

 いつもの事だった。

 「お兄ちゃん!はやく」

 朋美はしっかり者だけど、時々それがうっとうしい。

 朋美は、俺の布団をはがしにかかりやがった。
 
 「あっ!」

 「えっ?」

 「お兄ちゃん、いやらしいとこ、おっきくしてるー!」

 小学六年だけに増せていやがる。そろそろ女になる時期か?

 俺の名は西春拓巳(にしはる たくみ)

 現在、中学二年生で来年は受験戦争突入だ。

 まあ、自分で言うのも何だけど、大変な時期ってやつさ。

 「パンが冷めるわよ」

 「父さんは?」

 「まだ寝てるわよ。昨夜は遅かったから」

 「そう……」

 昨夜は夫婦生活の営みで遅かったんだろ?ちゃんと聞こえてるんだから。

 「うわっ!」

 「どうかしたの?拓巳」

 「なにこれ?」

 「ああ、これ?何ってイカじゃない」

 「イカ……だよな、やっぱり」

 「今晩はイカ焼きよ」

 「うっ、俺いいわ、いらない」

 「え?拓巳の好物じゃない?」

 「ああ、もうこんな時間だ」

 あわただしい朝の時間が過ぎるのは早い。

 学校までは毎朝、自転車での登校。

 「受験かあ……」

 俺の通っている中学校へ行く途中に高校がある

 「できれば、あそこの高校に入学したいな」

 その高校は近いからと、表向きにはそういう事にしてるけど

 実は藤堂先輩がいるから……

 なんて言えないよなあ。


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  「ありえなくない?」

 「最近の藤堂さん飛躍的だよね、インターハイも夢じゃないわよね」

 「先生たちもなんか藤堂さんに違う目で見てるじゃん?」

 「そうね、あれってどうよ?」

 突然、教室の扉が開いた

 「誰だ!藤堂のくつに画鋲入れたやつは?」

 体育教師の石川が怒鳴り込んできた。

 「こんないたずらは最低だぞ!」

 体格のいい石川の声はでかい。

 「なにそれ?」

 「しらなーい」

 「俺たちじゃないっすよ先生」

 「そうだ、そうだ」

 教室じゅうざわめき始めた。

 「正直に言わないというなら」

 「先生もういいんです……」

 藤堂が教室の扉の陰から、か細く言う。

 「しかし藤堂、こういう事はだな、はっきりさせないと」

 「いいんです!」

 藤堂はしゃがみこんで両手で顔を覆うようにして泣いた。

 教室は静まり返り、藤堂の鳴き声だけが響き渡った。


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  「拓巳、宿題やってきた?」

 「ああ、結構厳しかったけどな」

 中学生になって気づいた事、それは授業が突然難しくなった事と

 同じクラスの女子との会話が減った事だ。

 授業が難しくなるのは理解できるが、女子との会話が減った事は……。

 どうしても意識してしまう。

 この前までは、こんなんじゃ無かったんだ

 気がつくと女子の胸やお尻に気が散って

 これが、性欲ってやつなんだろうけど

 これをコントロールしなくちゃならないなんて

 男子って大変だよな。

 「なあ、拓巳。これ見て」

 「いっ、井上!こんな雑誌、持ってきちゃやばいって」

 「堅い事言うなって」

 「これ、すげーじゃん」

 「だろ?岩田もそう思うだろ?」

 とんでもなく破廉恥な写真がその雑誌には載っていた。

 これは中二の健康優良児にとってはあまりにも刺激が強すぎる。

 「なんか、ぞくぞくしてきた」

 性行為とは?

 授業で習ったが……

 実際にはどうなってるのか?

 どうすればいいのか?

 正直言って良く解らない。

 この雑誌に載っている女性は全てを知ってるのだろうか?

 「こんな美人と……」

 俺はどんな女性と結ばれるんだろう……

 ドラマだとこの後、美人な先生が来て

 『こーら、不健全だぞ』 なんて言って雑誌を没収されて

 『先生!ごめんなさーい』 ってなるんだろうけど

 結局この後、女子の誰かが先生に密告して、井上は呼び出され指導室で説教された。
 

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  晩御飯にイカ焼とは、我が家も変わってるけど

 まあ、好物だから許される。

 妙なことに大好物だったイカ焼きに抵抗を感じた。

 拒否反応みたいな

 今更ながら、あのグロテスクな生物を食す毎に気分が悪くなった。

 そして体に異変が起きたのは夜中だった。

 「うう……イカにあたったのか?」

 なんか熱っぽくて気だるい

 腹痛と吐き気がする。

 「こんな夜中に……うっ」

 両親の寝室から夫婦の営みの声が聞こえてくる。

 「まったく……お盛んなこって……うっ!」

 それどころではない。

 トイレにかけこみ俺は嘔吐した。

 吐き気は多少おさまったが、何かが収まらない。

 なんだろうか?

 「吐いたら、腹減った……」

 いたって健康じゃないか、我ながらにして

 「お兄ちゃん…何やってるの…?」

 寝ぼけた朋美がトイレに起きたらしい。

 「トイレか朋美」

 と言いながら、またもや吐き気が襲ってくる

 「うっ!まだおさまってないのか?」

 俺はこの時、今まで味わったことの無い欲情に襲われた。

 強烈な吐き気と食欲。お互いが矛盾したこの現象はいったい?

 体が思考より素早く行動を開始していた。

 「きゃあ!お兄ちゃん!何するの!」

 俺は力いっぱい朋美を押し倒して羽交い絞めにした。

 喉から何かがこみ上げる……なんだ?

 「いたいよ、お兄ちゃん!」

 痛がる知美の顔が欲情をさらにかき立てる。

 「いやぁーっ!」

 その喉からこみ上げる何かを妹へ口移しで吐き出した。

 「あっ!うぐっ!」

 俺は何をやっているんだ?!

 意識とは別に何かが体に取り付いたような感覚で

 いや、そんな大げさなものではなく

 悪いものを食べた時に吐き出すような、気管支に飲み物が入ったときに咳き込むような

 そんな自律神経の一環に近い感覚だった。

 喉から吐き出したのは、内臓のような?、ナマコのような?触手だった。

 それが妹の口の中にグイグイと進入して行く。

 「あぐっ!」

 かなり奥まで入り込んでいるような感じだった。

 妹の体は喉に進入する異物を、必死で吐き出そうとする。

 「ごふっ!ごほっ!おえぇ!」

 大量の唾液と胃液を吐き出すが

 進入物はそれを潤滑油にしてどんどん進入して行く。

 時より何かを砕くような鈍い音が聞こえてくる。

 「ああぁっ!!」

 激痛が走り妹の飛び出しそうな目が天井を見上げる。

 必死に暴れる小学生の女の子がこんなに力が強いとは知らなかった。

 押さえている俺の腕の筋肉が痛みを感じる。

 そして、体はできる限りの抵抗をする

 目からは涙、鼻と口からは粘液

 全身からにじみ出る汗

 この汗はいつもよりも臭う

 最後に失禁。

 暴れる朋美がしだいに力を失い、ピクピクと痙攣をし始め

 それと同時に妹の鼻から大量の血が流れ出した

 朋美は白目になり意識を失って行く。

 次の瞬間、取り留めの無い感覚が襲ってきた。

 自分でも何をしたのか?良く解らない。

 とにかく、満たされない強烈な欲情がこの行為によって満たされていく。

 快感……

 「拓巳?起きてるの?」

 「はっ!!」

 「た、拓巳!何をやってるの?!」

 振り返ると母が、すごい顔で俺を見ている。

 「お、お、俺にもわけが解らないんだ」

 朋美は目、鼻、耳から血を流して床にぐったりしている。

 俺の口元は血だらけだ

 押さえきれない強烈な欲情が徐々に収まると、しだいに自分のしたことに恐怖を感じはじめた。

 怖くなった

 恐ろしく怖くなって逃げ出した

 口からさっきの触手がもう一度飛び出すんじゃないかと思うくらい

 必死で走った。

 ここ最近こんなに必死で走ったことがあっただろうか?

 ずいぶん走った

 追っ手はこない

 逃げ切ったという満足感が先にたち、妹に対しての罪悪感は薄かったのは何故だろうか?

 息が整う前に偏頭痛が襲ってきた。

 「何だ?この痛みは?」

 キーンと言う耳鳴りが……

 危険だ

 危険だと何かが訴えていたのだろうか?

 「痛い……」

 頭を押さえても、その痛みは消えない。

 全身に鳥肌が立つ

 「何だ?!」

 何が起きようとしているんだ?俺の体は?

 「はっ!」

 前方より人影を察知した。

 外灯の光に包まれたシルエットがこちらに近づいてくる。

 「あれは!?」

 そのシルエットの目が怒りの炎に輝きを放っている。

 風に髪をなびかせて

 両手に刃物を握り締めて

 「お、女か?」

 この世の者とは思えない恐ろしい形相で女は近づいてくる。

  誰がどう見ても俺を狙っている

 「なんだ?何者なんだ?」

 女は無言で刃物をすばやく振りかざす

 「や、やめろ!」

 間一髪よけた俺は、この女には問答無用である事を悟った。

 「こ、殺される……」





つづく




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