Shangri-La
        第15話
 男の子と女の子
      2008/06/22 UP

 
  フードを深く被り直し直射日光を遮るフレイラは

 マラード・渡辺の手下である中村よりチェルビラの剣の譲渡先である龍児の居場所を聞きだしていた。

 「フレイラ、このまま行くつもりか?」 クリスタルはやばそうな雰囲気で一杯だった。

 「そうだ」 フレイラは早足で目的地へ向かう。

 「今、戦闘したばかりだぞ」 

 「心配するな、偵察だけだ」

 「でも大丈夫か?フレイラ」

 「調べによると、市橋高校だ。そう遠くはない」

 「あの剣を持ってるんだろ?やばいって」

 「タル、お前も、どうやって探知魔法から逃れているかも着き止めたいだろう?」

 「あう、また話をそこへ戻すわけ?」

 「当たり前だ!謎のままにしておけば、いつかそのせいで墓穴を掘るぞ」

 「へいへい。相変わらず勢いづいたら止まらないのね……バーサーカーか?」

 「なんだと?」

 「何でもないっす。行きましょ、行きましょー」

 「二年C組、杉村龍児」

 フレイラの顔に疲れ一つなく、嬉しそうな軽い足取りで、確実に龍児に向かっていた。

 (フレイラ、イメージ画像


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  授業が終わり放課後、龍児はUFO研究会の部室に向かう。

 「あ、杉村君」 不意打ちのような遭遇であった。

 「や、山下さん」

 「これから部活?」
 
 「ええ、まあ」 優等生からするとUFO研究会と言うものはどのように思われているのか?

 「杉村君、最近、日が長くなってきたよね」

 「そ、そうだね、日が長くなったね」

 これから会話も弾もうかと言う時に
 
 「山下さーん。委員会が始まりますよー」

 「杉村君、またね」

 「ああ、またね」

 手を振る山下を見送る龍児。

 「苦手なのか?」 ポケットからチェルビラが顔を出して言う。

 「いや、ああ」 龍児はあせって答えた。

 「どっちなのよ」

 「よくわからないんだ」 

 「人間は男と女に区別されている。何故だと思う?」 チェルビラは腕組をして質問する。

 「え?」 ここはかっこよく回答しようと考え

 「それは、愛し合うためだ」 胸を張って答える龍児。

 「恥ずかしい事を真顔で言うのね」 チェルビラが赤くなっている。

 「ちがうのか?」 龍児も赤くなる。

 「まあ、間違いではないけど、本来の目的で言うなら少し違うわね」

 「ええ?」

 「この世界の生命体の中にも分離によって子孫を残すものがいる」

 「ああ、それ理科で習った事がある。プラナリヤだっけ?」

 「細胞分裂によって子孫を残すタイプ。また同性同士で子孫を残せるタイプも存在する」

 「同性愛……?」 龍児とチェルビラは顔を見合わせてお互い赤面する。

 「ほ、ほらウミウシとかナメクジのようなタイプよ」

 「そ、そうなんだ」

 「でも、その繁殖の仕方では行動範囲が広がらないのよ」

 「え?行動範囲?」

 「そもそも生命体は、存在した時点ではごく小さな細胞で、この星がどれくらい大きいかは知らない」

 「自分達がどういった進化を遂げれば地球に合った生命体に成れるかと言う事は知らないわけ」

 「そこで色んな種族に分かれて進化していくものなのよ」

 「なんだって?」 あまりにもスケールが大きすぎてチェルビラの話が良く理解できていない龍児。

 「環境の変化は生命体にとっては大問題なのよ」

 「確かに、温暖化現象とか環境破壊とか大問題だね」

 「そのためにも、色々な種族に分かれることで適応していく。適応できない種族は滅びる」

 「人間が、どんどん地球を破壊していくのは大問題だっ!」 龍児は拳を握り締めた。

 「それは大問題でもないのよ」

 「え?」 龍児は目が点になった。

 「どうしてだよ、人間のせいで動物達や植物達が困ってるんだ」

 「生存競争って知ってる?」

 「ああ、知ってるよ」

 「それなのよ。人間が文明を築くに当たって、他の種族が滅びていくのは生存競争に負けた事を意味するのよ」

 「それってあんまりじゃ……」

 「視野が狭いのね。五十億年前からそうなのよ」

 「絶滅した恐竜とかの事か?」

 「そうよ、なにも今に始まった事じゃないのよ。ずっと昔から生存競争中なのよ」

 「生存競争中?……」

 「強い種族が生き残って、他の弱い種族を踏み台にして進化していく」

 「今の時代に牙や爪を進化させても生き残れないのよ」

 「そ、そんな……」

 「ただし、だからと言って人間だけ生き残ってもだめかな?」

 「そうだよ、食物連鎖だっけ?他の動物も必要だよ。植物は酸素を供給するし」

 「今はね。そのうち人間は食物や酸素も原始レベルから作れるような技術を得とくするようになるわ」

 「ええ?」

 「そして宇宙に出る」

 「出るんだ、やっぱり」

 「その時も、男と女に分かれて遺伝子を搬送し、他の環境に適応している遺伝子と組み合わせる事で」

 「あらゆる環境に適応できる生命体を維持するのよ。行動範囲はどんどん広がると言うわけ」

 「はあ」

 「分離タイプでは子孫も同じ遺伝子なのよ。それじゃ、他の環境に適応しきれないで全滅しちゃうのよ」

 「だから、行動範囲は広がらない」

 「人間は地球中に散らばる事に成功した種族の一つなの」

 「白人と黒人がいるでしょ?白人は寒い環境に適応するし、黒人は暑い環境に適応している」

 「同じ種族でも仕様が違うのよ。」

 「それって人種差別じゃないか?」 龍児はあせりながら言った。

 「何を言ってるのよ。黒人、白人、黄色人は適応した結果なのよ」

 「差別し始めたのは人間同士で、後から勝手に始めたことじゃない」

 「もっとも、白人の中でも階級制度ではっきり差別してるし」

 「まあ…でも、もう少しするとこの差もなくなるけどね」

 「なくなるのか?」


  ダーウィンも喜びそうな白熱する討論中、この二人をフレイラたちが発見した。

 「フレイラ、それは何だ?」 クリスタルのタルはフレイラの覗いている双眼鏡に興味を覚えた。

 「これは便利なアイテムだ」

 「遠眼鏡(とおめがね)か?」

 「我々のものより優れている」

 「んで、杉村 龍児ってのは居たか?」

 「あの少年だ」

 フレイラは龍児をしっかりと確認した。

 「あれは!?」 双眼鏡を持つフレイラの手が震える。

 「どうした?何が見える?」

 フレイラは龍児を見たとたん、心臓の鼓動が早まるのを実感した。

 「そんな……」 フレイラは固まっている。

 「どうした!」
 
 「やはり本当だったのか?」 フレイラは麻痺した。

 「なにが?」

 「しかしこんなにも早く……」 フレイラは石化した。

 「おーい」

 「杉村龍児……面影は失ってはいない……」

 固まったフレイラの瞳から涙が次々とこぼれた。

 「聖戦士パリス……」

 「もしもし」 クリスタルが尋ねるがフレイラは無視。

 「おーいっ、大丈夫か?フレイラ?」

 「な、なんでもない」 フレイラはあわてて涙をぬぐう。

 「よく見るとあの少年は何か話をしているようだ」

 「独り言じゃないのか?」

 「あ、あれは?!」 フレイラは龍児が何と話をしているのか気が付いた。

 「ポケットに妖精が隠れている」

 「妖精だって?」

 フレイラはもう少し様子を見る事にした。

  そのダーウィンの喜びそうな激論はまだ続いていた 

 「ともかく、男の子が女の子を好きになるのは、生命体として当然の事なのよ」

 「なるほど……」

 「だから」

 「だから?」

 「そんなに硬くならなくてもいいと思うのよね」

 「ええ?まさか今までの説明は僕を励ますための」

 「そ、そうよ。龍児のために……」 赤くなって、うつむくチェルビラ。

 龍児は複雑な心境になったが、チェルビラの気持を少しは理解した様子だった。

 「所でさ、チェルビラってどれくらい生きてるの?」

 「わたし?……そうね……」

 「覚えてないけど三億年位かな?」

 「えええ!!!」 飛び上がる龍児。

 「そんなに驚く事なの!?」 ちょっぴり怒るチェルビラ。

 「三億歳か……」

 「何よ!」

 「すげえ、おばあちゃんじゃん」

 チェルビラは激怒してポケットサイズではあるが剣に変形して龍児を追い回す。

 と、その時。

 「反応したぞ!フレイラ!あの剣の場所が特定できた!」 

 クリスタルは探査中の魔法に剣の反応が確認された事に歓喜の声を上げずにはいられなかった。

 「なに?!本当か?!」

 「前方、100m?! 近すぎじゃねえか?」

 「杉村 龍児が保持している……いや、あの妖精が今変身した」 フレイラは双眼鏡で確認する。

 「あの小さい剣の事なのか?」 クリスタルは龍児を追いかけてる小さい剣を見ていった。

 「やはり危険だぜ!」 クリスタルは喜びの表情から、あせりの表情へと変化した。

 「なるほど、どうりで探査魔法に引っかからない訳だ……」

 「あの剣が魔法に反応しなかったのは、妖精に化けていたからだ」

 探査魔法のカテゴリーは物品と生命体に分ける必要があった。

 ヤバランもタルも宝剣、すなわち物品で探査していた。

 しかし実際のチェルビラは生命体に姿を変えていたので探査カテゴリーから外れていたと言うわけである。
 
 「そ、そういう事だったのか?」 サイクリスタルも度肝を抜かれた様子であった。

 「撤収するぞっ!」 フレイラは撤退する事にした。

 「装備を整えてから出直そうぜ」 クリスタルもあせってはいるが、血沸き肉踊るようであった。

 破れかけのフードをスッポリとかぶり直し撤退するフレイラ。

 「チェルビラの剣め……」

 「すでに杉村龍児とコンタクトに成功しているとはな……」

 振り向いたフレイラは力強い言葉とは裏腹に何か心配事が残るような目つきで龍児を見つめるのであった。





つづく



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