Shangri-La
                         第4話
            始まり
                       2008/02/24 UP




  「それは、本当あるか?フレイラよ」 暗い闇の中から声が聞こえる。

 その場所は暗く水滴の音が時より聞こえるだけの空間だった。

 黒い肌の女がその暗闇の空間の中の男と会話をしている。

 「はい、ヤバラン様。マラードの組織は今、血眼になってその剣の行くへを」

 「しかし、我が力で探したところ、詳細はつかめなかったあるよ」

 「フレイラ、お前は物質世界に降りる準備にかかるあるよ!ゲロッ!」

 「その組織に悟られぬように、マラードとマイグレーターの両方の監視をするあるよ」

 「もしかすると剣の在り処が掴めるかもしれないあるよ。ゲロッ」

 「かしこまりました」 女はひざまずき、敬礼をする。

 「やっと探し出した代物ある、マイグレターなぞに食われてたまるあるか!」

 「ロケム様に何としてもチェルビラの剣を手に納めて頂かなければならないあるよ!ゲロッ」

 なにやら、暗黒な者たちの動きが見え始めた。


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  「龍児。わるいけど国語の教科書貸してくれないか?」

 二時間目の放課に宮田純一が現れた。

 「あいよ。落書きすんなよ」 龍児は宮田に教科書を渡すが、宮田の視線は離れたところを見ていた。

 「あああ。山下さんいいなぁ」 宮田はつぶやいた。

 「そうか?」

 「否定するのか?龍児」

 「いや、そんな、否定だなんて」

 「だろ?容姿端麗、頭脳明晰、四面楚歌の色即是空だよな」

 「四文字熟語を並べれば良いってもんじゃないだろう」

 「学級委員だっけ?山下さん」

 「そうだけど」

 「龍児のクラスの男子も情けないよな」

 「ええ?」

 「だって、ほかのクラスどこも学級委員は男子だぜ」

 「あんなかわいい子に学級委員させるなんて」

 「ずるい!ずるすぎる!」

 「なんなんだ?」

 「ああ、山下さんがこっちへ来るぞ」

 宮田も龍児も緊張しているようだ。

 「杉村君」

 「はっ。はい」

 「日直でしょ?黒板消しておいてくださいね」

 「はっ。はい」

 そう言うと山下はニッコリと笑って教室を出て行った。

 「かーっ!よかですたい!」

 「どうして九州弁なんだ?」

 「おいドンも、今日からこのクラスに転籍ばい!」

 「あほか!」

 「そげんこつば、言わんかとよ。同じ仲間ばい」

 「生まれどこ?」

 「大牟田ばい」

 「九州?」

 「福岡どす」

 「どす?なんか言葉が変じゃない?」

 「小二ですぐに引っ越したからね、混ざってるばい。標準語と」

 「どこが標準語なんだ」

 満点な笑みを浮かべる宮田であった。


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  授業も終わり、その日は足早に帰る龍児。

 「そう言えば、ゲーセンのトイレで拾った、あのカバン」

 「やっぱり警察に届けたほうが良いな」

 考え事をしながら、ふと前方を見ると、黒い服を着た幼い女の子がこちらを見ていた。

 フリルのたくさん付いたドレス。子供用で小さくてかわいい。

 指をくわえて、こっちを見つめている。 (女の子のイメージ画像へGO!

 「どうかしたのかい?」 龍児は尋ねた。

 幼い少女は何も答えない。

 大きな瞳は子猫のように、つり上がっていて口元はぶっきらぼうな印象である。

 年のころでは小学生の低学年か?

 しかし、その瞳はまるで何もかもお見通しと言わんばかりの、すかした感じで

 ちょっと小生意気でもあった。

 「何なんだ?」 龍児は進展がないので、あきらめ、歩き出した。

 しかしその少女はついて来る。

 角を曲がってもついて来る。

 公園を過ぎてもついて来る。

 ダッシュしても・・・

 ついて来てる……

 「思ったよりすばしこいな。まくことが出来なかったとは、情けないなぁ」

 「もうすぐ家に着くし……どうしたものか?」 龍児は困り果てた。

 ここは怒る所かと覚悟を決めて龍児は振り返った。

 「ふざけるのはもうやめ……」 

 「あれ?」

 「え?」

 そこには少女の姿はなかった。

 しばらくは狐にだまされたかのごとく、じっとしていた龍児も我に返り帰宅した。
 
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  家に帰ってからも龍児はゲームセンターで拾った長細いカバンをどうすべきか悩みに悩んだ。

 普段であれば警察に届ける龍児なのだが、なぜか躊躇(ちゅうちょ)している。

 龍児はそのカバンをゆっくり開ける。

 「よく考えてみればこんな物騒なものどうして持ち帰ってしまったのだろうか?」

 カバンの中から光が放たれる。

 龍児はそれを取り出す。

 「こんな物騒な・・・もの・・・」 龍児の目がうっとりと、それを眺める。

 それは、この世のものでは無いような美しさの剣であった。

 その全体は七色の光に包まれており、透き通った刃は全てを凍りつかせる様な冷たさを持っている。

 また剣身の絶妙な湾曲は、まるで美しい女性の腰のくびれにも似ていて、男性の野生に火を放たんばかりか

 一度これを握ってしまったら最後、有機物を切り付けねばその欲情は収まることは無いであろう。
 
 はたして名刀なのか?それとも妖刀なのか?

 龍児もまた例外ではなかったようで、あの時、中身を見ていなかったら、おそらくは警察に

 間違いなく届けていただろう。

 ところが、あの時すでに、中身を見てしまっていたのだ。

 龍児の心はそれ以来、この欲望とひたすら戦っていたに違いない。

 「モラの事でこの剣のことを忘れていた」

 「でもやっぱり、警察に届けるべきなんだ」

 龍児の決心は固かった。その欲望に打ち勝ったのだ。

 おそらく通常の人間であれば、この欲望に押しつぶされて

 小動物に向かって試し切りを、いや、最悪は試し切りと称して殺人をしていたに違いない。

 だがここで明らかになったのは、龍児は人並みならぬ忍耐力と正義感を持っていたと言う事だ。

 がしかし、これがここからの物語の始まりだったのだ。

 「ほう、私を見ても欲望に押しつぶされないとはな……」

 「えっ!?剣がしゃべったっ!」

 とんでもない事が起きた。

 「並ならぬ忍耐力だな……感心したぞ」

 剣が龍児に話しかけてきたのだ。

 「怪奇現象か?」

 「私を手にすれば、いかなる者にも屈することなく……」

 「わかった!宇宙からの侵略軍だ!」

 試し切りどころではなかった。

 「とうとう来た!来たんだ!」

 「特別な存在になれる。忘れていたものが手中に収められる。こんな機会は二度とないであろう……」

 「落ち着け、龍児、落ち着け」

 「おい!聞いているのか!」 その剣はちょっとご立腹になった。

 「これは夢だ、そうに決まっている」

 「これは夢ではない。お前は私によって選ばれた存在で、これからの大任を任されるべき……」

 「つねると痛い……夢じゃない」

 「だからこれは夢じゃない!お前は私によって選ばれた存在で……」

 「やっぱ、警察に届けなきゃ」

 「だから、聞けってっ!!!」


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  「光ったある。反応を確認したあるよゲコッ」

 水の滴る音がする暗闇の中から声が聞こえた。

 「しかしどうやって今まで、反応を消していたあるか?ゲロッ!」

 「まあよいある。剣の場所を確定するある」

 「んっ!?また反応が消えたあるか?」

 「ええい、どうやってこの私のから姿をくらましているあるか?」

 その自信に満ちた口調から察するにこの男はかなりの力の持ち主なのか?

 離れた場所からその居場所を特定する力を持っているようだ。

 「マラードが所持していた時は、場所が確実に断定できたある」

 「なぜ?急に探知出来なくなったあるか?」

 「仕方ないある。範囲が広すぎるが……」

 「フレイラよ!」 ヤバランは暗闇から呼ぶ。

 「ヤバラン様、お呼びでしょうか?」

 「準備は出来たあるか?」

 「既に出発の手はずは整っております」

 「次のイシュリッドはもうすぐ3回目の脱皮をする」

 「その前にフレイラは単独で剣を物理的に探索するあるよ」

 「かしこまりました」 黒い肌のフレイラは膝まづき敬礼をする。

 「後ほど仲間向かわせる。ゆくある!」

 「ははっ!」

 全ては運命なのかもしれない。

 しかしこの時点では誰もそれが運命だと断定できる者はいなかったのだ。

 だから、ただの始まりでしかなかった。
 



つづく



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