Shangri-La
                        第3話
      指輪に封じ込めしゴーレム
                       2008/02/16 UP



  中学二年生の頃からだろうか?

 地球が太陽系の惑星で、銀河系の中ではほんのちっぽけな存在である事に失望して

 人間の生きる意味を理解できなくなったのは……

 昆虫たちにいたっては一年間で生まれ変わり、存在の意味すら考える暇も与えられてはいない。

 でもそれは、期間が長いだけであって、人間も同じ事である。

 人生の中で自分の存在の意味は結局わからない。

 一体、何を目的として存在するんだろうか?人間は……

 でもぼくは最近、生きる意味かどうかは分からないけど、ちっぽけだろうと

 がんばって、一生懸命に生きて行こうと

 そんな気持ちにしてくれる少女を見つけた。

 モラ……

 猫だけ残して去っていった、不思議な女の子。

 「また会いたいなぁ……」

 いや、きっと会えるような気がする。

 「あ……」

 「ま・た・だ……」

 風景がスローモーションになっていく。

 と言うか、時間が止まったような感覚で

 たまに起きる変な現象だ。

 何なのだろうか? この現象は。

 でも、という事はあの少女にまた会えるかもしれない。

 なぜなら、この現象がおきた時は、たいてい願いがかなうんだ。

 不思議な現象……

 
  その時、携帯電話の着信音がなり、龍児は確認する。

 「あ、メールだ」

 龍児は携帯電話を操作し始めた。

 《その後はどう?彼女に会えた?》

 「その後って言われてもなあ」 ちょっと苦い顔付きで返信する龍児。

 龍児は偶然にこのメールの送信者と知り合いになった。

 初めは間違いのメールが送られてきて、文句を言ってやろうと返信をしたのが

 切っ掛けであった。

 いやあ、そんな偶然がある所にはあるものだ。

 どうやら、このメールの送り先の相手は龍児とモラの経緯(いきさつ)を知っているようだ。

 「なんというか、会える予感がします」 メール内容を思わず口走る龍児。

 「よっと、送信、っと」

 龍児はベッドに寝転んで天井を眺めた。

 しばらくすると、またメールの着信音がなった。

 「キャンさんはやっ!」 携帯を取り出す龍児。

 《予感かー(笑)会えたら告れよ!》

 「人事だと思って」 すねる龍児。

 「告白か……」
 
 口にして、ふと我に返った龍児は赤面した。

 「ちょっと無理かな……」


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  「ああ、もう夕方よ。思ったよりこの街は広いね」 モラは疲れきった表情でつぶやいた。

 「まさか、おみゃさま、自力であの猫を探す気か?」 姿はないが声だけ聞こえる。

 「え?自力じゃなくて他力なら探せるの?」 不思議そうな顔つきで尋ねるモラ。

 「え?って、ネノに探させればええがや」

 「あ、その手があったか」 モラはぽんと手をたたき

 モラは姿の見えない何者かと、昨晩、龍児に預けた猫を探しているようだった。

 そして、右手の薬指の指輪をこすり始めた。

 モラの薬指にはめられているその指輪には何か魔法がかかっているようだ。

 「えーっと。ネノトォコパイエェー」 呪文を唱えるモラ。

 「えーっとは、いらんがや」

 「コマンドワードはしっかり唱えんと成功にならんがや」

 「ネノトォコパイエェー」 照れながら、もう一度やり直すモラ。

 すると、指輪から煙が上がり人型にトランスレートし始めた。 (ネノの画像へGO!

 煙は形状完了すると表情のない人形になり「マスター。コマンドを…」 と間髪いれずに尋ねた。

 「相変わらずセッティングしてにゃーなモラ」

 「だってめんどくさいし」

 「そんな事だで、いざという時いつも苦戦するんだて」

 「命取り…」 人形のネノがつぶやく。

 「ああっ!もうっ!ネノまで」 モラはネノに怒るがその様はかわいい。

 このネノはゴーレムという人形に魔力を封じ込めてある代物で

 通常は上半身が戦闘的な鎧をまとった人型と下半身は力強い鳥の脚型をしている。

 しかし脚部は用途に応じて四本足、車輪などに変形が可能で、もちろん人型にも変形できる。

 「ここは、目立つで、人型にせないかんがや」

 「ネノ、人型にへんけーい!」 元気の良い命令だ。

 「マスター。前回の戦闘データをアップロードしますか?」 ネノは変形し終わると質問した。

 「えーと、えーと」 考え込むモラ。

 「ネノの前回の戦闘は完了しとるでロードなしでもええがや」

 「じゃあ、ロードなしで」

 「了解」

 「では本題に入りまぁ〜す!」 モラは気を取り直した顔付きで言う。

 「えーっと、ネノ。コマンド、ロケートオブジェクトでターゲットは猫っ!」

 モラは龍児に預けた猫を探索するように命令した。

 「ロケートオブジェクトは物体のみの探査魔法だで生命体はさがせーへんて」

 「えー、そうなの?いいじゃん、いっしょで」

 「用途別にコマンドを使い分けれんからって、その言い方はないがや」

 「めんどくさい、じゃあこれでどう?」 

 モラはおでこをネノのおでこにくっつけて思考を送り込んだ。

 二人がおでこをくっつけてる様はかわいく感じる。

 「どう?これで分かったでしょ?」 得意げなモラ。

 「おみゃあ、そんなことが出来るのか?」

 「モラの気持ち伝わった?」

 「マスター、私には感情がありません。なので、精神的なことがらは伝達されません」

 「そうだがや、ネノはゴーレムだから精神魔法は効かなにゃあがや」

 「お人形さんにだって、心が通じるって言うじゃない!」

 「知らんがや、そんなこと」

 猫を探す前工程でたっぷり時間を浪費している。

 まるでコントのようなモラたちの後方から声が聞こえた。

 「こらっー!」

 誰かがこちらに向かって怒っている?

 「ごっ、ごめんなさい!」 思わず謝ってしまうモラ。

 「まてよぉー!」

 モラたちがよく見るとあの猫がこっちに向かってきている。

 その猫を必死に追いかけている龍児。

 「ああ!このまえの!」 

 猫がモラの足元に飛びつく。

 しゃがんで手を差し伸べるモラ。

 「そっちから来てくれたんだ〜」 猫を抱き頬擦りをする。

 「や、やっぱり会えた」 龍児は嬉しくなって思わず声にした。

 「私も会いたかったぁ〜」

 「会いたかった?」 龍児の瞳は潤んでいるが、のどはつまりそうな感覚が襲う。

 高ぶる緊張。今、目の前にモラがいることで龍児は心臓が飛び出しそうであった。

 どうしたら良いんだ?何を話そうか?

 夕暮れ時、猫を抱く少女に偶然的な再会。これ以上のシュチュエーションは無いだろう。

 「私、好きなのよね」

 「えっ?!」 一瞬、時間が止まったと錯覚するほど衝撃的な発言。

 龍児の頭の中で『好きなの……』言葉が何度もリピートされる。

 告白された!こんなかわいい子から告白された!

 この地域では見たこともないピンクのセーラー服に身を包んだ小柄で幼顔の少女に告白された!

 「実はぼくも……」 
 
 「犬より猫なんだ、私」 モラは近づいてきて微笑みながら言う。 

 「猫?」 

 「猫、だーい好きなの」

 「え?」

 「ん?どうしたの?」 きょとんと首をかしげるかわいいモラ。

 龍児は心の中でいろんな感情が渦巻いた。

 ねこかぁー、猫のこと……なんだ……

 そうだよね。

 いきなり告白なんて有り得ないよな。

 おかしいと思った。

 「さかな、さかな」 モラは小魚を取り出して猫に与える。

 でも、また会えたんだ。

 それだけでも……

 龍児は微笑みながら猫にえさを与えるモラに

 また心を癒されていた。





つづく



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