Shangri-La
                      第1話
       セーラ服の暗殺者
                       2008/02/03 UP

 

  平和な毎日を送っている者がほとんどのこの世界。 

 ありふれた幸せ。 

 ありふれた日常。 

 がしかし、そんな平凡な日常の裏の世界を君達は知っているだろうか? 

 秩序を守る人間と、乱す人間。 

 はたまた、それを見てみないふりをする中立な人間も居る。 

 これは平凡な生活を送っていた一人の少年が、終焉を迎えるこの世界を救うべく 

 未知なる世界に存在する『シャングリ・ラ』を目指し勇敢に冒険した物語である。



  路地裏では窃盗事件が多発する今日この頃、その少女の瞳は真紅に染まっていた。

 
深夜の繁華街では害事件が相次ぐ中、その少女はセーラー服を着ていた。

 
様々な事件が起きる、薄汚れたこの街の中、その少女は二本のショートソード(短剣)を
 
 それぞれの手に握り締めて、ビルの屋上から街明かりをぼんやり眺めていた。

 どれくらい時間が過ぎたのだろうか……。

 呼吸を整え、左右の太ももにベルトで固定された鞘(さや)へと両剣を
 
 西部のガンマンが拳銃をスピンさせて、ガンフォルダーに納めるような手さばきで華麗に納める。

 納まった短剣はスカート中ですっと姿を消した。

 少女の名はモラ。(キャラ紹介へGO!

 アサシン(暗殺者)である。

 今夜もまた一人、華麗なる手口で屠った所だ。

 感情の無い真紅の瞳と半開きになった唇は、殺人と言う罪の重さに耐え切れず

 声にならない叫びの表れなのか?

 少しまた時間が過ぎる。

 感情の無い瞳に光が戻ると同時に顔の表情が柔らかくなり

 「ああ、お腹すいちゃった」 モラはボソッとつぶやき

 軽い足取りで振り向き現場を立ち去って行く。

 さっきとは、まるで別人のようである。

 「あっ、そうだ。今夜はハンバーガーにしよっと」

 返り血こそ浴びてはいないが、刃物から伝わってくる人肌の裂ける感触を味わった後に

 ファースト・フードとは言え、肉料理を選択するとは

 いやはや、殺人と言う罪の意識はまったくないようだ。


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  「遅くなったなあ、龍児。帰りに何か食って行かない?」

 「そうだな吉岡。はら減ったしな」

 「宮田も行くか?」

 「いくいく」

 杉村龍児は健全な高校二年生。(キャラ紹介へGO!

 市橋高校のUFO研究会部員たちは、今日も部活が終わったあとは食い歩きとゲーセンツアーだ。

 いつかきっと…… いや、近い将来に宇宙から異星人が現れ

 侵略されるのではと心配している部員たちは

 そのストレスより食い歩き、TVゲームをすることで心をまぎらわしていると言う。

 
  ツアー常連である三名は駅付近のゲーセンとファースト・フードの店が立ち並ぶスポットに到着。

 「おおっ。龍児、吉岡、見て見て」

 「何だよ宮田」

 UFOキャッチャーのガラス越しに宮田純一は嬉しそうに景品に釘付け。

 「ケロケロ軍曹の新しいバージョンだ」

 「どれどれ?」 吉岡も覗き込む。

 「止めた方がいいよ。」 龍児は警告した。

 「UFO研究会がUFOキャッチャーして何が悪い!」

 「そうだそうだ!」

 「違うって、ゲロゲロ軍曹だよ。よく見てみな」

 「ああぁ。本当だ」

 「類似品にもほどがあるなぁ」

 「そう言えば虫キングの時も虫将軍ってのがあったな」

 「そうそう懐かしいなそれ」

 二人が会話が盛り上がる中、ピンク色のセーラ服を着た少女が杉村龍児の視界に飛び込んで来た。

 「まだカード持ってるぞ。小六の頃集めた奴」

 「リッキーブルーのヘラクレス何枚ある?」

 目を奪われる龍児と少女に気がつかない宮田と吉岡。

 「あの少女は……」

 まだ、幼さが残る顔立ちとセーラー服が微妙にアンマッチで、それが龍児の心を鷲掴みにしたのか

 どうかは解からないが、ビルの陰で見えなくなるまで、ずっと龍児は彼女を見つめていた。

 「おい、龍児?ケバブでいいか?」

 「あ、ああ」

 その日のツアーの食べ歩きはトルコ料理のケバブサンドに決定。

 屋外のテーブルに三人は陣取り、ケバブサンドを食べる。
 
 「なあ、あの店員さ、バルドフェルトににてない?」 宮田は嬉しそうに言う。

 「だれそれ?」

 「ヨーグルトソースを勧めてくるところなんて、そっくりだよ」

 「聞いたこと無いな、そんな名前は」 知らない単語に吉岡はちょっと苛立ちながら答えた。

 「そう言えばさ」 龍児は二人の会話に割って入った。

 「ピンク色のセーラー服ってどこの制服?」

 「何を言い出すんだよ急に」 吉岡はまだちょっと怒ってる。

 「ピンクって言ったらアニメ界ではありがちだけど、実際にはなかなか存在しないねぇ」

 宮田は得意げに話し始めた。

 「ここら辺には確か無かったと思うけど」

 「でも何で?」

 「いや、さっき見かけてさ」 龍児はケバブをほおばりながら言う。

 「まじっ?どげんして早く言ってくれないとよー」 宮田はこぶしを握り締めながら立ち上がった。

 「見たかったなー」

 「それきっとコスプレじゃないか?」 吉岡はさめた目で見る。

 「コスプレでもきちんとした作りの制服なら問題ないけど」 また宮田が嬉しそうに言う。

 「問題ないのかっ!?」 吉岡が突っ込む

 龍児にとってはコスプレであろうと、なかろうと、それこそ問題ではなかった。

 ただ、何故かもう一度見たい、会ってみたいという衝動でいっぱいだったのだ。

 「そろそろ行くか?」

 「ちょっと、トイレ行ってくる」 龍児は少女を探しながらトイレに向かった。

 トイレは一つしかなく、ちょうどタイミング悪くほかの客とバッティングした。

 「あ、お先にどうぞ」 龍児はトイレを先に譲った。

 「ありがとう」 中年の男性は笑顔で会釈をする。

 足が不自由でステッキを使用していたその男性は、少し時間がかかったが

 無事に用を達したみたいで、出てくると

 「おかげで助かったよ。おしっこをするにも時間がかかってね」 

 足が不自由であるばかりに、あらゆる場面で大変な思いをする。

 その事実は当の本人にしかわからない。

 この現実社会ではそう言った人々に適応した環境はまだまだ作られていないのだ。

 「ごめんね、これあげるよ」 男性は感謝の意を込めて、ぬいぐるみをくれた。

 「安っぽい景品だけどね」

 「はあ。どうも」 龍児はぬいぐるみを受け取り軽く会釈をした。

 少しだけ他人の苦労というものを理解しつつ、次は龍児が用を達する。

 「ん?なんだこれ?」 龍児はトイレの物置台に長細いカバンを見つけた。

 「忘れ物か?」 さっきの男性が忘れていったのか?

 そのカバンは100cm以上あるが、中身は一体何だろうか?

 龍児はあわてて飛び出して、男性を探した。

 あたりを見渡すが、すでにその姿はなかった。

 龍児は仕方なくみんなのところへ戻る事にした。

 「遅かったな龍児」

 「ああ!龍児おまえ」

 二人は龍児の手にしているぬいぐるみに注目している。

 「自分だけゲットしてるじゃん」

 「しかも類似品な」

 「いや、これは、その」 

 今日はどうもタイミングの悪い日みたいだ。



 「またあしたなー」

 「おつかれー」

 「じゃあなー」

 その日のツアーは無事終了した。

 龍児にとっては色々あったが、最後にもう一つイベントがあった。

 それは

 猫の鳴き声に気がつき振り返った時

 「ニャー」

 そこにはピンク色のセーラー服を着た、あの少女が再び目に飛び込んできて

 「お腹がすいてるニャ?」 ハンバーガーのかけらを猫に与える少女を見て龍児は

 もう一度見たい、会ってみたい感情から

 可愛い、いや、愛しいと言う感情に変わった。

 しかしこれが、モラ・カンモと杉村龍児の運命的な出会いであるとは

 この時の二人は知る余地も無かった。


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  「いやあ。落し物は届いていませんね」

 「そうですか……」

 足を引きずりながら中年の男性は落し物を探していた。

 「あの少年、落し物として届けなかったという事は中身を見たかも知れんな……」

 ステッキで足をかばいながら歩くその男性はまだ諦められない表情で

 ほかの場所を探しに出て行った。



 つづく



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