第15話
顔無し


2005  3/6 UP

   

 街角を一人吉野は歩いていた。

吉野は立ち止まり煙草に火をつけた。



見渡すと高いビルが建ち並んでいる。行きかう人々も暗く重たい表情で

自分の目的地へ急ぐだけ。

去りゆく人の背中ばかりがやけに目に付く・・・いや背中しか見えないのだ。

吉野は思い出したのか、歌を口ずさんだ。

「顔の無いのはー・・・怖いとー・・・」

その笑顔のない背中ばかり強調される今の人々を皮肉った詩だった。


 街中に小学校があった。

吉野が通りがかると

「そうらしいわよ・・・ウサギ小屋があらされて・・・」

近所の主婦が立ち話をしている。警察も来ている。

「みんな殺されたらしいのよー・・・」

あわてて主婦は出てきたらしく化粧すらしていない。

「怖いわねーーーー」

怖いのはあんたの顔だ・・・

「イヤーーもう奥さんったらー。ひゃひゃひゃ」

結局すぐ世間話になり笑い声が響く。

吉野は去り際に独り言をつぶやいた。

「平和すぎるから・・・ウサギが殺されたくらいでニュースになるこの国・・・」

「彼女達に決して他国の戦争でなげいている悲鳴は聞こえやしない・・・」

その時携帯がなった。

センター長がお呼びだ。

背中を丸めながら、少し肌寒い春の風を切って歩く吉野。

研究所に向かう吉野にも・・・顔は無かった・・・。


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 黒いセダンがおもむろに駐車されている。(前回廃車になったので新車のレジェンド)

村上と田中は令嬢の藤堂麗子を張っていた。

「行動パターンはかなり情報収集できたな」 田中がノートパソコンに入力している。

「しかし覚醒については解ってねえからなー」 村上はぼやいた。

その時、吉野から召集がかかた。

「センター長がお呼びだそうだ」

「まったく振り回してくれるぜセンター長はよ」

黒のセダンは去っていった。

すると、今までごみ袋か何かと思っていたオブジェクトが動き出した。

「あいつら・・・あの時の」 天白エイジであった。

「レジェンドなんか転がしやがって!」 携帯をふところから出したエイジは

「サブ!黒いセダン。レジェンドだ。探し出してちょう」

エイジはにやけた。


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 朝倉朋子はマーピック教授より預かったDVDから情報を引き出していた。

しかしだいたいの事は理解できたが複雑な部分はわからなかった。

「やっぱり私に・・・こんな事が」 今思えば色々心あたりが有った。

「こ・・・これは・・・」

朋子は顔色が変わった。

「マイグレーターに関する情報だわ・・・」

しかしその情報にアクセスするには複雑なパスワードが必要だった。

「何故こんな大切な物を私に・・・教授は間違えたのかもしれない・・・」

「それとも私に守れと言う事なのかしら・・・この力で・・・」

その時夫が帰ってきた。

もう一つの悩みの種が帰ってきた。

夫が何をしているかだいたい想像はつく。だがその想像が夫を許せなくするのだ。

彼女にしてみれば夫の体は不潔な物体に変わってしまったと言う事になる。

他の女性とからんだその体に抱かれる事は許されない。 これは

理性を持つ人間の定めでもある。人間には肉体と精神とが常に共存しているからだ。

夫はムスッとした顔で引き出しから金の入った封筒を持ち出し去っていった。

もうもとには戻れない・・・


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「へえー。ユリさんって料理も出来るんだ」 高志は驚いた表情で言った。

「ええ?って事は、そうは見えないって事?」

「い・・いやそんな事は無いよ」

まあ確かに外見はそう見えないのだが・・・問題は味である。

しかしこれまた驚きだった。うまいのだ。

「これって辛味が聞いてうまいね」

「この肉は?」

「ブタのカクテキよ」

「これキムチかーどうりで辛いと思った」

平和な一時であった・・・


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「吉野!ぬかるなよ!」 センター長はゲキを飛ばした。

吉野、田中、村上の三人組みは今からマーピック教授を捕獲しに行く所だった。

「何、すぐ捕獲して帰還しますよ」 無表情な吉野

この時、吉野には顔はあったのだろうか・・・・・?

ここで止め絵になって

つづく・・・


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