第九話
逃走


2005  1/16UP

 
  

  その事故は突然起こった。
 
会社帰りのサラリーマンは今日も辛い仕事を終え暖かい我が家へと国道を飛ばしていた。

時速60キロは超えていただろう。空間がひずみ目の前に見えない壁が建ったのだ。

正面衝突。時速60キロ・・・。シートベルトもエアーバッグも役にはたたない。

まるで車はプレスされたように大破してそのサラリーマンの姿は車の破片とコラボレートしてしまったのだ。

 その空間のひずみからナメクジのような物体が半透明ながら現れた。

白い半透明で顔は恨めしいそうにも見えるが、無表情な女の顔をしている。

前方にも空間のひずみがありそこへ入り込んでいった。

そのあとはなにも無かったかのようにひずみも消えた。

何故このサラリーマンが死ななくてはならなかったのか?

特に意味はなく、たまたま人間に踏まれて死んだアリと同じような物であった。


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 路地を曲がりかなり逃げたが、なにしろ幼い兄弟がいるためにオレロフとの距離はちじまるばかりだ。

エイジは辺りを見回して 「あの車に乗れ!」 運良く くろねこブッチの宅急便の配達ミニバンが

ハザードライトを点滅させて停車していた。

乗り込むのは早かった。

最後にエイジが運転手が配達を終えて戻ってきた所へ体当たりを食らわせる。

それはまるで救急隊のスクランブルのように訓練された部隊のようで、オレロフは

「そんなバカな!」 ルパンを逃がした銭形のとっつぁんの様に叫んだ。


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 シーンは変わって

 「センター長・・・そろそろパーティー会場に向かわないと間に合いません」

「うむ。吉野!必ずその女とアンシーンを捕獲しろ!」 携帯電話に怒鳴りつけセンター長は

出かける準備をし始めた。

「まったく簡単にいわっせるわ」 吉野は愚痴りながらスーツ姿三人組で車を飛ばしている。

「で、田中。女の居場所はわかるのか?」 吉野は少し太り気味の田中に聞いた。

「だいたいの位置ですが、港の倉庫です。」 ナビを見ながら田中は答える。

もう一人の痩せ型の身長が高い村上が運転しながら 「発見された場所だから今は動いていると思うが・・・」

「そうだな・・・あれから10分は経っている。オレロフにアクセスしてみるか」 

吉野はオレロフの携帯電話にかけてみる事にした。

「オレロフ・・・どうだ守備の方は?」

「くそ!逃がした!港の展望台のある道から北東に宅急便の車で逃走してやがる!」

息を切らせながらオレロフは言った。 

「まだ天はこちらに味方しているようですね」 田中が言った。 

三人はスーツ姿で眼鏡をかけている共通点があるのだが

画面が3分割されて同じような顔で「ニヤッ!」と三人とも笑みを浮かべた。

 
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 天白エイジの運転技術は見事であった。

石黒晶は 「何でこんなに運転うまいんや?車の免許あるんか?」

「免許は無いが、昔ランクルを運転してたからな」 エイジは自慢げに言う。

「昔ってお前、オレと同い年だろ。中ボウから運転しとったのか?」 高志は苦笑いしながら言った。

「−って・・・和気藹々やな」 石黒晶はふと我に戻った。

「徳重!何で自分、弟達をさらったんや。」 石黒晶の形相が変わった。

「お前、なにわかんねー事言ってんだ。」 高志はまたムカついてきた。

このままではやばいと思ったエイジは 「まあ待てや」 二人の間に運転しながらも、

その空気に割って入った。

「今はそれどころじゃないぜ。問題はこのお姉さんと、さっきの怪しい気功術かなんかをつかってくる外人だぜ。」

晶は目の当たりにしたので 「確かに、なんやあの外人は・・・」 怒り、恐怖、興味がわいてくる。

高志はよく覚えていなかった。

「でもお姉さんが綺麗だから、許しちゃおう!」 エイジは鼻の下を伸ばして言った。

 「で、お姉さん何者なんだ?」

さっと懐から手帳を取り出した。 「警察よ」

全員固まった・・・

「この場でそんなギャグはいいから・・・」 高志は困ったチャンをあしらうように言った。

エイジが手帳を見て 「こ、これほんまモンや・・・」

晶は 「こ、これには色々な訳があるんや・・・オレは弟達を救うために・・・」

悪ガキ三人トリオと言った感じだ。

「ごめんなさい!!!」 三人でハモル悪ガキたち。

「このお兄ちゃんたちを見習っちゃだめよ鉄平」 弟達からも突き放された。

いっぱく置いて中場ユリは言った。 「誤らなくてはいけないのは私のほうなのよ。」

「そもそも一般の人を巻き込んでしまった私のミスなの」 わけを話そうとしたその時!

フロントガラスが真っ白になった。 「何だこれは!!!!」 思わずブレーキを踏み急制動をするエイジ。

三人組が車を止めてこちらに向かってくる。

万事休すか?! 

つづく



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