第六話
覚醒(後編)


2004 11/28 UP

   

  今夜のパーティーで発表する資料を自宅に忘れ、取りに戻った朋子は玄関に鍵がかかっていない事に気づいた。

「えっ?どういうこと?」 恐る恐る扉を開けた。

浴室の電気がついていることに気づいた彼女は 「英明がもどってる」 と思い込んだ。

見た目にはいつもとまったく変わらない。北村は自分の痕跡は追跡されないように消していたのだ。

「あ、そうそう、あなた。となりの飯田さんの奥さんがね・・・」 話しながら風呂場に向かっている。

「薩摩芋をふかしてくれたんだけど、早く食べないと・・・」 返事が無い?

「あなた聞いてるの?」 おかしい・・浴槽で死んでるのではと心配になった朋子は浴室の扉を開けた。

「えっ!!」

じっくり見渡すが、風呂場には誰もいなかった。お風呂のふたが開けられている。今の今まで誰かが

入っていた気配がある。これは危険だと悟った朋子はとっさに逃げようとした。

その時!

「警察に連絡しようと思ってもダメだ!」 北村は洗濯機の陰に隠れていたらしく、そこから姿を現した。

「あなた誰っ?!」 あまりの驚きに心臓がバクバク言っている。

「いや実は・・・お風呂の点検を・・・なんてわけないわな。」 この状況下で説明はつきそうに無いと

北村は開き直った。こうなればもう、行く所まで行くしかない。

北村は朋子に襲い掛かった。 「おとなしくしろい!!」

朋子を縛り上げた北村は 

「俺がいったいどこまで君を知っていると思う?」

「君の父親は消防署の署長、兄弟は三人。

母親は君が17の時死んでいる。」

この男は何者なのか?北村は次々と話し始めた。

それを聞けば聞くほど恐怖が襲ってくる。

何故そこまで知っているのか?

何かの調査員なのか?(ただのストーカーだって)

だが、北村はイニシアティブを取ったと悟った瞬間に

彼女の服を引き裂き始めた。

「辱めを受け、世間に知らしめてやる。」

こんな事が世間に知れたら、仕事もこの街にも

住めなくなる・・・

ここは抵抗しない方が良いと思った。

朋子は甘かった。

こういう事件で許した場合、犯人は付け上がってまた来るに決まっている。

「ああ、そういやいい事を教えてやるよ」 北村は携帯電話を取り出して画像を見せた。

それは夫の英明が若い女と写っている画像であった。

「旦那は女癖が悪いねー。俺が知っているだけで4人の女と寝ているな。」

「そのために金融に多額の借金してるしね。」 朋子もうすうす感ずいていたが、

それを他人の口から聞かされるとは思っても見なかった。

ましてや見ず知らずの男から・・・最悪だった・・・

しかし本当の最悪な事態はこれから起こるのだ。 「さてではごちになるか・・・」 

北村は一物を朋子にすり寄せてきた。

北村の体臭が鼻につく。このむさい男に犯される事になるとは・・・

ところがなんだか様子がおかしい・・・

北村のそれはいつもならビンビンのはずなのだが、この場に限って少しも変化が無いのだ。

あせったのは北村の方だった。「なんでだよー」「しっかりしろよ・・・」「おいってば・・・」 

・・・まったくダメである。(あれあれ)

その北村の自分との戦いは数分続いた。朋子もだんだん腹が立ってきて

言わなくてもいい事を言ってしまった。

「役立たず・・・」

この一言が引き金となった。

「なんだとぉぉー!!!」 北村の「したい」という気持ちは「殺したい」という気持ちに切り替わった!!

「よっ、よく考えたら、生かしちゃ置けないな!!殺さないと、俺がやばい・・・」 

首を絞め怒りに力を込める北村。

早くから母を亡くし、兄弟の面倒を見ながらやっとの思いで研究所のスタッフになれて

恋愛相手と結婚まで出来た。それは苦行の道のりであった。一般の人より客観的に

見ても確かに苦労をしてきているのは事実であった。

そして苦労が実ったというのにここで人生の幕が閉じるなんて

 「そんなのいやよ・・・」 まだこれからなのに・・・

苦しみと思念が渦巻いた。

「しねーーー朝倉朋子!死んだ後に犯してやる!はく製にして俺の部屋に飾ってやるぅーーー!!!!」

とその時!!

暗い影から何やら半透明の物体が現れた。

 「なんだこいつは!!」 半透明の物体は鋭い爪で北村を・・・

一撃だった・・・。

その爪がポロッと床に落ちたと思ったら、なんと北村がいつも所持しているバタフライナイフだった。

いったい何がなんだか解らない・・・「まさか!?」 

朋子は母が死んだとき、母の後ろに立っていた幽霊を思い出した。

病院で母が亡くなる間際に、朋子の目にははっきりと半透明の幽霊が3人が

迎えに来ているのに気がついたのだった。

「その幽霊が今度はわたしに・・・」 震えが止まらない。

「わたしが死ぬというの?・・・」 消えていく幽霊を振り向きつつにらむ朋子。

ここで、止め絵になって、エンディングテーマが流れる。

つづく・・・


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