第一章
ワインシルバーの指輪
その四

2005 08/28 UP

 少年ジミーは、少女メルクをどさくさにまぎれてその場から連れ去り

隠れ家(アジト)に身を隠す事に成功した。

「ワインシルバーの指輪だって?」

こんな少女から、その名を聞くとは思っていなかったジミーは正直驚いた。

と言うのも、その代物は泥棒業界で最近よく聞く名前ではあるが、一般の人間、いや・・・

こんな可愛い少女が知っている様な物では無いからである。

がしかし・・・

「ワインシルバーの指輪と言えば、ゼルガンのシーフギルドが血眼になって探している代物・・・」

この少女メルクは確かに覆面のアサシン達にからまれていた様では有るし・・・

しかし、バッカスの重装兵が狙われていた事からすると国同士の争いが起きている・・・

考えれば考えるほど良く解らない展開であった。

 するとその時!

天窓から何者かが侵入・・・いや強襲してきた。

     

 クバードはメルクを強引に引き寄せ連れ去ろうとする!

「いやっ!はなしてぇ!」 メルクは叫ぶがクバードの腕力にはかなわない。

「くっ、クバード!」 ジミーは短剣に手を伸ばした。

             
 ジミーは短剣を振り回す!なかなか素早い攻撃ではあるが

クバードはメルクを脇に抱えながら余裕でそれをかわしまくる。

反撃に出たクバードの一撃を何とか避けるジミー。

クバードはすかさず足払いをするが、この連携攻撃を見事にかわしたジミー。

        続いてクバードのラッシュ!

 ジミーは必死でかわし続ける!

 横っ飛びでかわした!

 しゃがんでかわした!

 ジャンプしてかわした!

 「ほう・・・」 これにはさすがのクバードも

 感心した顔つきである。

 そして、ジミーがかわすのが心地よいみたいだ。

 避けてばかりもいられないジミーは何とか反撃に転じたのだが・・・

ジミーの攻撃をかわしつつクバードの剣がジミーの喉元を捕らえた。

キラリと光る刃(やいば)は、なんと剣の柄から飛び出したものだった。

「仕込み刃か!ちくしょう!」 ジミーは悔しさのあまり声にした。

「ディフェンスは完璧だが攻撃は、とうしろうだな」 渋い声でクバードは言う。

「どうだ?俺の弟子になれ」

「いやだと言ったら?」 

クバードはジミーの喉元を少しだけ切り裂き、血が首すじをつたった。

「殺す・・・」 そのたった一言は重く、この業界の厳しさの証でもあった。

「だめぇ!やめてぇ!」 クバードの脇に抱えられたメルクは、もがきながら言う。

「こっ!殺せ!!」 ジミーは ”絶望” と ”あきらめ” から開き直る態度を取った。

この言葉にクバードの目つきは変わった。

「小僧が・・・」 怒りに満ちた目つきである。

「おめえが望むんじゃあ、仕方がねえな・・・」 

人の命を幾度となく、ほふって来た彼にとって命の重さとはどれ位なものだろうか?

その目つきからすると、人の命の重さを一番よく知っているような、そんな感じがして止まなかった。

が、この時の少年ジミーに、それを理解しろと言うには少しばかり経験値が足りないようだ。

クバードの仕込み刃がジミーの喉元を・・・かっさばく・・・

 その時である!

クバードの肩に一本の

投げナイフが突き立った!

常夏の象徴である綺麗なオームの柄・・・

少し小さめの投げナイフ・・・

「ちぃーっ!」 クバードはメルクを放しバックステップで窓際まで後退した。

ジミーとメルクが振り返ると一人の女性が短剣と投げナイフを構えていた。
          ←女盗賊”ヴァレリア

 その黒髪を、うなじの辺りで一つに束ねている彼女のスレンダーなボディーから刃物を扱うとは

誰が想像できようか?

     

 ヴァレリアの助太刀にクバードは一旦退却する形となった。

クバードの去った後、開いた窓から冷たい風だけが入り込んでくる・・・

助かったのか・・・?

     



     

「メルクちゃん、ラジアンの場所は知ってるよね?」 ジミーは聞いた。

「ぜんぜん 知らなぁ〜い」 無邪気な表情ではあるが・・・彼等の展開はここまでであった・・・


「なるほど・・・ラジアンか・・・」

「あそこはエルフ族以外は進入できねえ・・・」

「お前らが知るはずもねえぜ・・・」

暗闇から聞き耳を立てるクバード。

結局は指輪のありかを盗み出す事に成功。

 すると、屋根の上から声が聞こえた。

「女子供を手にかけたくねえからって、盗み聞きは良くねえぜ」

この聞き覚えのある声の方向を見上げるクバード。

     
 
 クバードの古き友であるギランドウはリンゴをかじりながらクバードを見つめていた。

     



     

   ギランドウはクバードの背中が暗闇に消えるまで見送った。

     




 
     

このグゥイントと言う男・・・・

指輪に対する執着心が他の者とは桁外れのようだ。

はたして、グゥイントが既に打った手とは?

つづく・・・・・
             

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