第1話
ダガーオブシルバームーン
2005 04/17UP
アサシン・・・すなわち暗殺者の事である。
そもそもアサシンという者が発生したのは組織の対立において、公に相手を葬る事が出来ず
影で殺すというのが始まりだったようだ。
この世界でも人間は組織をつくり自分達を守って生活していた。
表立って殺し合いをすることは法律的に難しく、少なくとも住民登録されている一般人は
殺人なんて事はしない。
しかし、ここバッカス王国の下町ではその住民登録の無い、ならず者ドモが日々殺しをしている。
スラム街とも成ると手がつけら無い状況で警備兵達もスラムを調査する場合は大きな事件に
限られていた。
←クバード
ギル・クバード・・・彼は幼い頃にメキアのシーフギルドで育ち、その素質から他の連中に恐れられ
結果、一匹狼となってしまった。組織を追われた彼は刺客が送り込まれ悲惨な物だった。
だがその刺客共が彼をとんでもない暗殺者に育てていったのだ・・・
「ぐへ!!」 倒れこむ男。ダガーの血のりを吹き飛ばすクバード。
クバードは今夜もターゲットをアサシネイトした。
完璧な暗殺だった。
ところが・・・
満月の光を浴びながら怪しい奴が少し伸びたその髪をダガーで切り落としていた。
なんのまねか・・・?クバードは不思議に思った。しかしそれ所ではない。
現場を見られた以上、こいつを始末せねばならない。
クバードはショートソードを抜いた。こいつ、明らかに様子がおかしい。
暗殺には場所をとらないダガーを使うが、どう見ても一戦交える形だと悟ったクバードの選択が
ダガーより一回り長いショートソードを構えさせた。
「ふふふ・・・」 そいつは突然暗闇に逃げ出した。
冗談ではない。クバードにはその行動は理解できなかった。
必死に追いかけたが、結局のところ逃げられた。
「ばかな・・・」 長年この家業を続けてきたベテランの暗殺者から逃げ延びた・・・
「いったい何者なんだ?」
←ギランドウ(いつも林檎をかじっている)
次の日、酒場でクバードは古い友であるギランドウにその話をした。
「で、そいつの顔は見たのかい?」 ギランドウもその怪しい奴に興味を持った。
「いや、ちょうど月明かりで影になってたからな・・・」 クバードは渋い顔をした。
「じゃあ、俺はギルドの連中から何か探ってみるか・・・」 ギランドウはバッカスの盗賊ギルドと言う
組織につながりが有った。クバードは組織にはつながりはなかった。
「ああ・・・そうしてくれると助かる・・・」 クバードは何か引っかかる・・・
「満月・・・髪の毛を切り落とす・・・」
「はっ!!」 何かを思い出したのか?
クバードは最近使われなくなった地下室に入り込む。この地下室は昔、エルフの魔法使いが
使っていたもので、ちょっとした細工がしてあるために他の者は進入できなかった。
普段読む事の無い難しそうな書物をひっかきまわすクバード。
「だめだ・・・本が多すぎる・・・長丁場になるな・・・」 食料と水、寝袋とランタンの油を
持ち込み、クバードは検索を続けた。
暗殺者は相手の情報を細かく入手する必要がある。そのため、情報集めは頻繁に行われる
言ってみれば探偵や捜査課の刑事とやる事は同じなのだ。クバードもまた調べる事にいたっては
他の暗殺者より長けていた。それに加えて彼は記憶力とヒラメキが、ずば抜けていた。
1週間とちょっとが過ぎたある夜の事である。月も満月から三日月になっていた。
人通りの無い路地にターゲットを誘い込んだ暗殺者は勝ち誇った笑みを浮かべた。
ターゲットはどこかの貴族らしい格好をしている。
「ほう・・・先日、手紙を送り付けた愚かな暗殺者は貴様だな?」 ターゲットがそう言うがいなや
暗殺者は素早い動きでふところに飛び込んだ。
三日月のかすかな光をダガーが反射する。
「うっ!目が・・・!!」 月の光で視界を奪われるとはターゲットも驚いた。
がその時はすでに遅く、首筋に刃物が食い込んでいた。
首の血管はパックリ切り裂かれている。
暗殺者はハンカチーフを首にあてがい返り血が噴出さないように押えつつバックステップで後退した。
一連の動作は綺麗な技である。そう・・・プロの仕事であった。
「あがあが!!!」 声が出せない。
ハンカチーフがとれて血が噴出す。
ターゲットは大量の出血で脳に酸素が供給されなくなり地面に倒れこんだ。
暗殺者は大きな深呼吸をした。そしてダガーは月の光を浴びて銀色に輝いていた。
次の日の夜、いつもの酒場で、ギランドウは
「昨夜、セルキアの男爵が暗殺されたらしいぜ・・・」
「先月も商人ギルドのお偉いさんがやられたな」 ギランドウはテンポ良く話す。
「・・・」 クバードはだんまりを決め込んでいる。
「俺たちでも簡単にやれないような連中がやられてるって事は」
「・・・」 チラッとギランドウを見るクバード。
「かなりの凄腕の奴が流れ込んできたと見たほうがいいな・・・」
「俺たちも、うかうかしてっと仕事取られちまうな・・・」 ギランドウは苦虫をかんだような顔で言った。
「そうだな・・・」 クバードは焦点が定まっていない。
「お前から逃げのびた奴に何か接点があるかもなー」
「そうだな・・・」 クバードは酒場の窓から入り込んだ三日月の光を眺めていた。
つづく・・・