白いコートの女
断絶した愛の存在論的幻想

アンドレ・ブルトン『ナジャ』より



1
深い森の中の小道。
淡い木洩れ日が揺れている。
1人の女が小道の遠くから駆けてくる。
その白い衣が風になびく。
--UP、S・M。
走る女の瞳、頬、唇に陽が撥ねる。

そして、小道の深く積もった落ち葉の上に倒れ込む。

2
舞い上がる落ち葉。
身悶えする哀しみの表情。
赤い唇が蒼く変容してゆく。
地上に仰向く女ーー涙が流れる。


3
粉となって崩れゆく女の石膏像。
それがゆっくり合体され、一つのヴィーナス像となる。
孤独なヴィーナスの微笑。
闇に蠢く光の乱舞。

突然、森の梢の上に煌く太陽。
ヴィーナスの額からどくどくと血が流れる。
その赤い血がヴィーナスのマスクを埋めてゆく。


粉々の石膏の破片。
森がしずかな風のそよぎに揺らぐ。
仰向いた女の目が左右に動く。
疲れ、悲しむ瞳。


掌に血がポタポタ落ちる。

6
わめく森。
立ち上がる愁いの女。
そして、また小道を走り去ってゆく。
ゆっくり、静かに。



映像におけるポエジーの問題。
美が殺人的であるためには、
美そのものが驚異でありつづけなけらばならぬ。


1961年10月、散文的シナリオ。
眠っていた旧稿)


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