みちのく紀行


2003年7月終わり、山形・かみのやま温泉(葉山館)にて、
夫馬基彦南斎宗匠率いる風人連句会。
連衆は冬狸、野住、代志朗。
1日、斎藤茂吉記念館、茂吉生家。
また芭蕉「おくの細道」を辿り、山寺立石寺を散策する。



●山形・かみのやま温泉葉山館。心づくしの宿だった。歌仙は華やかに巻かれていった。

かみのやまの湯の香りたる夏の日の風流(ふりゅう)にさやぐ夕べとなりぬ
含羞の夫馬基彦とみちのくの風に狂ひてさらば酒酌む
歌あざむく夏過ぎぬまさびしくおどろが夢にわれは睡るも
みちのくの風吹くゆふべかりそめの夢に逐はれて蝉は啼かざり
ほほゑみて和みの宿に紅花(べに)咲ける葉山館女将五十嵐美根子

●斎藤茂吉記念館、茂吉生家を訪れる。

たまきはる命となりて赤光の日々にかなしく行方なきかな
あらたまの夜にてあらばふるさとの金瓶村の花散るらむか
画家たらん僧侶たらんと幼き日たぎちどよめく山河恋しや
ありし世にあはれおひろよ別れなば蛍をころす闇に竦みて
しんしんと死に向きたまふぬばたまの夜の喚(おら)びの歌のすさびよ
さびしあな剃刀研人(かみそりとぎ)がよぎりゆく蔵王の山の天明(あめあ)けぬれば
木槿(むくげ)咲く小道に佇ちて慕ふかなおどろがうへの露うちくだき
白桃のゆたけきを食(は)みひなぐもる日を駆けゆけりわれならなくに
よき歌を作らなわれはうつせみの蔵王の山に出でし月かも
夏椿咲きぬ道端(みちは)の小石(いし)掌にし茂吉しのびぬわれにてあるか
一族の生(あ)れつぐかたのはるかなる白き土蔵に夏の陽照りぬ
白萩の揺れる宝泉寺にひとり少年茂吉が遊ぶ日の暮れ
女犯(にょほん)てうおもはざりけり逃れゆく茂吉の若き日を愛(かな)しめる
晩夏(おそなつ)の夕べかなしきをのこなれ国亡びてもまた歌はむか
われ老いて心たひらにつきかげにあらざらむかと告げて眠らず
山深くいたく寂しき時雨降りあたらいのちを死なしむなゆめ

●山寺立石寺ーーその800段の石段をのぼりつつ、芭蕉を慕ふ。
「心すみ行のみおぼゆ」(「奥の細道」)岩上の院々、夏の陽浴びぬ。

啼かぬ山寺なれば人影の怒涛にありぬわがみちのくは
崖めぐり岩這ひゆきて山頂に昏るるゆふべの風の宿坊
閑かさや岩にしみ入る蝉なりてわが断腸のなべてなる闇
さはれ詩歌よみちくればことほぎの遊女と寝たる月に狂へる
いつはりて花の棘身に刺すゆふべ夢なき宿世(すくせ)にさらばといひき
みちのくに佇ちて言問ふこがらしの身にしむ夕べ行方いずこぞ
この国にかつて狂歌の才士ありゆくへ識らざる夢の世の旅
石段を登りてゆけば風孕む死者のかげろふ夜々となりたる
元禄二年夏蝉は啼きいるか この山寺にさらす浮き身よ
(はらわた)を野に捨てあはれながれゆくわが入るときの月に嘯き
よるべなき身となりはててすぎゆくか鄙の風流に花をしずめて
野ざらしの旅にてあらば風に問ふ夢やはらかに老いざらめやも
萩と月、わが一生(ひとよ)研ぎうつろはば還りゆくかな奥のほそみち
漂泊の思いやまずか行程六百里、百五十日、吹けよ風
山上の堂に参りていづかたの風の非命にひとり還らず
うすくれなゐの夢のあと花にほひあはれほそみち死出の山河
往きかふ人もまた旅人か さらば紅花(べに)の里発つ夏の日昏れに

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