わが風月夢幻

綜合サイト「プロメテウス」連載中

(2013年5月〜)




北千住哀歌

梅雨の晴れ間の一日、東京・北千住の町をぶらぶらしてきた。
駅ビルはもとより、駅前通りも宿場町通リも人々で賑はっている。
江戸時代から日光・奥州街道の宿場町として発展してきた町。
芭蕉の「奥の細道」の出発点であり、見送りの門人たちとの別れを詠んでいる。


 

T、路地から路地へ。

 

三毛猫の居眠りしたる路地奥に鞠をつきつつほほへむ少女z

飲み屋街抜けたる横丁ふと見れば森鴎外の旧居跡かな

宿場町通リにぎはひ新たなる学園誘致に若者つどふ

この旧き街道筋にいかなるやジャズバーあれば「聖者の行進」

真昼間の路地の植へ込み夾竹桃 曲がりまぎれて下町(まち)にこととふ

ふと見れば黒澤明アカデミー 行け七人の侍たちよ

蔵のある通りにくればさみなしに「槍かけだんご」味はう日暮れ

タカラ湯にひと汗ながし着替へれば中庭に咲く紫陽花揺れぬ

大川を越へてきたるを吹く風の千住新地の白き乳房よ

何ならん散歩冥利にありければ居酒屋永見にジョッキをあげる

名物の千住揚げに牛煮込み下町酒場に酔ひし老いぼれ

昏れ落ちてネオンきらめく一日を夢にくぐりてわれやあるらも

 

2、江戸四宿の一つ、千住宿。

 

「やっちゃ場」の朝の掛け声いさましく荷車きしむ千住葱かな

旅籠屋(はたごや)で飯売女に酔ひたるか捨てたる故郷(くに)に叛きてあれば

北斉の「冨国三十六景 武州千住」、波立つかなた富士山(ふじ)の見へけり

ふぶく夜のこの街道をどりきて宿の灯りに救はれたるを

「千住女郎衆はいかりか綱か・・」船頭たちの江戸の声なれ

などてまた「奥の細道」吟(さまよ)へる矢立初(やたてはじめ)のせつなきものを

惜別の鳥啼き魚の目は泪 帰らやわれの千住大橋

よしさらば北初宿を発ちゆきぬあめのひかりの日光・奥州



この世をば愛しく生れよ

梅原猛『歓喜する円空』を読む
円空の生涯にたどる著書のディオニュソス的考察


 

一片の雲、一陣の風よ

この世をば愛(かな)しく生(あ)れて帰らやと今朝の御山に叫びおりたる

などて母まつばり子ならかなしくも闇に叫びて負ふてゆくはや

美濃を発ち関東東北北海と吉野入りして雪降りしきる

一片の雲、一陣の風、花よ、いのちのかぎりほとけにいのる

われはまた遊行の果てに千体のほとけに告げむ鉈をかざして 

哄笑の交響楽にて

風よ木よこのひと彫りにたまかぎる護法神像 美濃の朝風

わが内にありて円空かなしきを歓喜沙門の遊(すさ)びの夕べ

ディオニュソスの使徒なりて歓喜せむ弾みの日々を生きて候

神仏習合思想、風吹きてかみとみほとけにつかへいのるも

「哄笑の交響楽」軽やかに円空仏ありぬ武州の里よ 

救ひてよ

ひそかなる夢や軋みてはなかげに遊行歓喜の世をばしたひぬ

血を吐きぬ倒れうつぶせ喚く夜も樹霊はわれに語りおりしや

かりの命笑へ浮世妻もなし百之流(もののながれ)に過しぬるかな 

蓑笠にしたたる雨の冷たきを許せよ母よ明日の行方よ

烈風に晒されたるも救ひてよ暗闇(やみ)に向かひて血しぶく鉈は

いつしかも造仏聖といはれしをわれならなくに旅立つ朝(あした)

白ら山の闇のはたての月なりて遍(あまねく)照らせ薬師曼荼羅

遊ふらん世の福(ひもろぎ)の花に笑む小児子(ちごね)の春を歌ふ神々

 
2013年6月4日 総合サイト「プロメテウス」掲載発信


 
京の嵐にきみはうたはむ

ーー高橋和巳挽歌


 

1、その時、橋は黄昏れてあり。

 

糞つたれ、大酒飲みよ敗北の夜明けに目醒め嗚咽しておる

酒暮(きすぐ)れてかなしみつのる夕べにはまた語らむや永遠(とは)なれ阿修羅

わが決起 <黄昏の橋>わたりきて敗れはてなば掌(て)に裂く石榴

友情も思想もかひなきものか嘯き京都(まち)を逐はれゆくかな

「不浄と餓死への欲望・・・・」なる一篇に鐘鳴りひゞけ朝の淡雪

それでも文学に生きる! 銃撃のカルチェラタンに流す涙よ

和巳さん、うつろふ年月(とし)の<悲の器>酌みてかなしき内なる曠野

こゝろざし潰へ遂ぐべき繚乱の残党なりて義に生きなむを

 

2、敗北、滅亡の衝動ーー殉ずべききらめきの季節。

 

明日への葬列なれば愛されし幻野の菖蒲斬りて奏でよ

雑文は書くな、いゝか長編に取り組め高橋塾のさらば言挙げ

<邪宗門>きしみくづれて燃へ落ちぬわれの叛きの京の地吹雪

問ふなかれパルチザンなれいまひとり往きたる明日の修羅の渚に

わが一期の愚かなる泥酔と淫乱 昏れおちゆかむ無頼の荒野

果たさざる不吉な春にすすり泣く<わが心は石にあらず>かな

逃れへねば風の刺客に誓ひてよまた書き急ぐ花の列伝

 

3、孤立の憂愁を甘受せよ、と。


孤立の憂愁のまぶたやはらかくまた狂はんとする咽喉切り裂き

拠るべきは己の思想いかなれば風に無告の黒き激怒(いかり)よ

たたかひの修羅場にて成仏せよ 落花狼藉駆けゆく日暮れ

もはや信ずるものなくもいくたびか孤立無援の未明に絶叫(さけ)び

一世の興亡なりてさやぎたつ<遥かなる美の国>のはつなつ

老残をさらしたくなし論理もて蒼醒めゐたる党派にあらば

早稲田短歌会・福島泰樹(ふくしま)の講演依頼を受けたよ 黒時雨降る

わが京洛(みやこ)に還らざればいひがたきこの憂悶に花の揺れゐる

 

4、あかとき、おゝ覚悟のわが解体なれば・・・・。

 

絶望、壊滅、敗亡の怒涛にゆらぎ死よほゝえみてわれはかくあり

炎やしきし一生(ひとよ)ましぐら殉ぜしをかくありしかば暗黒(くろ)き烈風

いさゝかも慙愧することなきか動乱の夕べ切なく告げむゆめはも

「褐色の憤怒」知らざる貴様なれ 無明に抉る五臓六腑ぞ

姓は高橋 名は和巳、まさびしく京の嵐にきみはうたはむ

きはまりて奪(と)らばいのちのかがよひて<白く塗りたる墓>も哀憐も

同士に告ぐかくて<わが解体>あかときにあはれきらめけ夢よ山河よ 



2013年5月5日 総合サイト「プロメテウス」掲載発信 (2011年3月「季刊月光」3号予定稿) 

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