新たに脈動する京都学

立命館大学京都文化講座
「京都に学ぶ」ブックレット全四冊(白川書院)


 四季折々の豊かな自然、風土、歴史や文化が常に新たな時代の熱気をはらむ。
 いや、それも夢のまたゆめであったのか。哀しみにみちた伝説が甦り、はんなりとした美の翳に重ね喪われた京都の風姿が絢爛と迫る。

 観光受け入れ年間五千万人構想など積極的な観光振興策が次々と打ち出され、
街も日々賑わう一方では小賢しい京都論の横行など話題いっぱ
い、まさに世は空前の京都ブームに沸き立っているといっていい。

こうした中で、本書は新たな京都学を提唱。 立命館東京キャンパス(JR東京駅・日本橋口サピアタワー内)で一般に広く開講された注目の講義内容がここに纏められた。時を同じくして、京都学研究プロジェクトなどがあちこちで罷り通り話題に上っているのだが、専攻レベルで取り組む先進の立命館大学では「京都プログラム」を新設して脚光を浴び、着々と実績を示してきているようだ。

本講座「京都に学ぶ」は、何より洒落た全四冊のブックレットとなっている。二年間にわたり一つのテーマを六回・四講座、計二四回の講義内容の書き下ろしである。

第一冊「京の色彩」(コーディネーター・木村一信)は、華道・花街・祭り・文学・美術・映像を通した京都空間に、華やかな文化的色彩が熱っぽく論究されている。川端康成著『古都』論で数奇な運命の双子の姉妹のいきさつを辿るなかで、新たな観光と文化について論じ、「様々な展開をみせ、まさに日本文化の源流へと誘う」(木村一信)という京都こそ、思えば千年の歴史に彩られたあえかな人間の一つの拠りどころであり、こよなき質感の艶やかさが伝わる祝祭空間なのであろう。

第二冊「京の乱」(コーディネーター・杉橋隆夫)では千年の都をめぐる争奪の歴史をさまざまな角度から考察。「保元・平治の乱」(杉橋隆夫)を始め、激動の「南北朝内乱」(花田卓司)など大乱の背景を総合的に捉え、「応仁の乱の美の認識の変遷」(川嶋将生)では風流婆娑羅の実態を説き明かして足利室町の痛切な美のありかが鮮烈に浮かび上がる。また「映画に見る京の乱」(冨田美香)は社会状況を色濃く映す投影装置としての多彩な映画作品を紹介。そこに「歴史と記憶の物語りを共有していったプロセス」を独自に解明するなど、まことに蒙を開かれる思いがする。

第三冊は「京の荘厳と雅」(コーディネーター・瀧本和成)をテーマに特に仏教寺院が生み出した文化・芸術・様式・また雅言(みやびごと)が織り成す優美な世界を解明。まず「源氏物語の『雅』」(中西健治)が説かれ、「夏目漱石の<京都>」(瀧本和成)では京都における漱石の底知れぬ淋しさこそ、つきつめれば近代の自我の孤独の位相にほかならないとしていることもたいへん興味深い。

第四冊「京の生活」(コーディネーター・片平博文)ではさまざまな時代の人々のありさまを論及。時代的に枕草紙、徒然草、洛中洛外図屏風、年中行事、名所図会、北山杉を六つのキーワードとして平安建都以来の時代を見据えながら貴族、尼僧、武士、町衆の「連続性と重層性に包み込まれ」たいきいきした生活を考えるなど、いずれもこの新たな京都学においては歴史学的・文学的・地理学的にアプローチ。ともすれば講座というもののもたらす平板なご託宣とちがい、まぎれなく血の通った人文学的考証の気迫にみちている。

ここから読者は襟を糺して、己の内なる京をひたむきに捜し求めるのもよい。ふと王朝の勅願寺の花陰で悲運の物語に涙するのもいい。そして、人肌の温もりの籠る大路小路に哀愁の歩みをすすめてゆくのも一興だ。ことほどさように、本書は気軽に誰でも親しめる出色のブックレットとなっている。

見渡せば世にはびこる学術研究に名を寄せた一人よがりな論旨、観光ガイドもどきの俗悪風体の文化論、はたまた京都惑溺の贅六的な鼻持ち鳴らぬ語り口にはまったく耳ざわりこのうえなく辟易する。本書の論考についても、一読、見方によれば手際よく纏められ過ぎているところが無きにしもあらずというのも否めない。

だが、波瀾の深層を秘め、手に取るや、思わず永遠の京都の魅力が色鮮やかに胸を突く。壮大な京都学の展望を視野に、どこから読んでも一見識が生まれる本書には、何とも開かれた学際の知の光芒が随処に煌いている。

古都の人文万般にかかわる限りない愛着と快い緊張感に満ちながら、京都学必携の一書の栄光に輝いているといえよう。



『図書新聞』2009年11月14日号

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