武州小庵




 その朝、雪の城址公園を愛犬(キャバリア)といつものやうに散歩。
  だが、本丸跡の小庵に帰るも気持ちが蹲り、また無為なる一日。


左翼ファシズムが日本を滅ぼすのか『渋江抽斎』読む昼下がり

松風も朗月も愛(め)でずそこはかと終の棲家に謡ふ『清経』

官邸からの深夜メールに「某国女スパイの銃殺決定」とよ

あはれ雪、髭剃りしかば老いゆかん幾夜寝覚めの涙の淵瀬

夜の梅に嘯きたるや「愚老無為に馬齢重ね申し候」

笑止の沙汰なるか絵文字顔文字よ言葉は乾き切りたる日暮れ 

「定めなき浮世よ」笑へ幾春の袖振り捨てて嘯く岳父

きさらぎの雪降るあはれ血に翳り銃に撃たるゝ夜明けに哭くか

海鼠を今宵のレシピに乾杯といなせな肩に溶ける粉雪

一匹の鬼を飼ひおり疾駆する闇を背負へば微笑(わら)ひてゆかな


 武州の人形の町ーー終の棲家に今年も椿が散りはてていった。
  私は老いぼれの身を引きずり、あてのない旅に出ようとしていた・・・・。


人形の街の雪洞ゆらめきて花簪を持ちてゆくかな

雛飾る夢見小路に白酒を酌みぬ夕べのかなしかりけり

白梅駅下車北進角の時雨亭、夜半風あり火災延焼

侘介椿(わびすけ)の名に隠れ住む日々なりて武州の里に暮れてかなしも

遠縁のシャンソン歌手の再デビュー「乱れ黒髪」わが西行忌

ケータイの着信拒否にて飛び込みしスーパー温泉掛け流し湯よ

「君の瞳に乾杯」と苦しきをカサブランカの霧深き夜

雪よわが歌の行方のあはれなる証かすことなき武州小庵

遅咲きの御室桜の直行便バス予約して午後のウォーキング

また犬とたわむれゐたる行く春の花めでたまへやよいきさらぎ

歌誌『月光』第15号(2010年05月号)

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