京の花嵐ーー梅原猛先生に

  

  ●百二五歳まで生きむ、地獄の思想もて若き詩魂よ

水底の歌よ流竄の日々なるも暗黒(やみ)にさまよひ叫びて皇子(みこ)は

神々よ飛鳥よ風よ逐はれなば流刑のかたに立ちて眠れよ

春ゆふべ地獄の思想 <怨念>の黒きエトスに血塗られし朝

大いなる生命の循環と共生ーー森の翠のしたたれ永遠(とは)に

隠された十字架なれば前(さき)の世の誰(た)が夢に告ぐ花は散りなむ

「人類の哲学」に取り組む師ほゝゑえみしかば京に吹く花嵐


  ●『歓喜する円空』(新潮社・2006年)、円空の生涯にたどる著者のディオニュソス的考察。

この世をば愛(かな)しく生(あ)れて帰らやと今朝の御山に叫びおりたる

などて母まつばり子ならかなしくも闇に叫びて負ふてゆくはや

美濃を発ち関東東北北海と吉野入りして雪降りしきる

一片の雲、一陣の風、花よ、いのちのかぎりほとけにいのる

われはまた遊行の果てに千体のほとけに告げむ鉈をかざして

風よ木よこのひと彫りにたまかぎる護法神像 美濃の朝風

わが内にありて円空かなしきを歓喜沙門の遊(すさ)びの夕べ

ディオニュソスの使徒なりて歓喜せむ弾みの日々を生きて候

神仏習合思想、風吹きてかみとみほとけにつかへいのるも

「哄笑の交響楽」軽やかに円空仏ありぬ武州の里よ

ひそかなる夢や軋みてはなかげに遊行歓喜の世をばしたひぬ

血を吐きぬ倒れうつぶせ喚く夜も樹霊はわれに語りおりしや

かりの命笑へ浮世妻もなし百之流(もののながれ)に過しぬるかな

蓑笠にしたたる雨の冷たきを許せよ母よ明日の行方よ

烈風に晒されたるも救ひてよ暗闇(やみ)に向かひて血しぶく鉈は

いつしかも造仏聖といはれしをわれならなくに旅立つ朝は

白山の闇のはたての月なりて遍(あまねく)照らせ薬師曼荼羅

遊ふらん世の福(ひもろぎ)の花に笑む小児子(ちごね)の春を歌ふ神々

歌誌『月光』2010年02月号

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