霧の山中湖

2007年7月、仲宗根宗督先輩に山中湖を案内さる。


ーー小雨に閑散たる湖畔
霧流れ朝のあゆみにふと見つめ路傍の蛍袋摘みたり
鶯のしきりに啼きて夕暮れの湖面(うみ)に向へば夢ほとばしる
くれなゐの雨降るこゝろいかなりてうらがなしきを湖風(かぜ)につたへむ
老いゆくにこのひとときを歌はむか霧に咽びし夜のありしを


ーー三島由紀夫文学館にて

あはれ世の遊
(すさ)びきらめく流血の三島由紀夫(みしま)の睡る湖(うみ)に問ひたる

金閣寺その直筆原稿「幼時から・・・・」たばしる筆の流れかなしも
わくらばに告げてこととふあかときにつひに語らな白き刃よ
中庭のアポロの像に小雨濡れ額(ぬか)もてあはれ遂げてうたはむ
花ざかりの森に六腑みづみづし男にあればほゝゑみゐたる
華やかな鹿鳴館にあらたまの鬱金(うこん)同士の青髭剃れよ

夜、みうら寿司で
女富士やさしき姿見えざるを酌みて更けゆく夜の静けき
うらがなし夏のひととき秘せざれば遊行のはてにうそぶきいたる
さゆる夜の酔ひてさびしき面かげに湖上の花火打ち上げるかも
酔ひゆけばきしみなだるるこの世かは風に問ひたるわがこころざし
国亡ぶゆゑ童謡(おぎうた)のかなしけりこのゆふぐれにうたひさまよふ

仲宗根さんの山間の別荘に泊まる。
夜の湖(うみ)にいかばかりとぞ冴えゆけば誦(よ)みて憂き身のかなしくありぬ
来し方の青春(はる)に叫びて暁(あ)けぬべし語れば明日の富士に向ふを
仲宗根さん、一つの時代の夢抱(いだ)き”赤き血潮”の京の夢かは

翌日も霧が流れ湖面は昏く漂っていた。
(い)にし世に書きたる手紙燃えつきて夜の湖面に夏過ぎゆきぬ
舞踏会の手帖さがしぬみずうみのあはれあやなき夢の扇は

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