文学に見るファッション
花暦衣装草紙


 「虹を弥生に包む昼酣(たけなわ)なるに、春に抽(ぬき)んずる紫の濃き一点を、天地(あめつち)の眠れるなかに、鮮やかに滴たらしたるが如き女」、その奢れる主人公藤尾は、しばしば紫色の着物をもって描かれる。

 夏目漱石の『虞美人草』は、叡山についで嵐山、さらに保津川下りと、明治末年の京都の風物を鮮やかに展開。これは小杉天外の恋愛小説『魔風恋風』、芝居では泉鏡花の『婦系図』の系譜につらなるもので、典型的な女子学生が登場している。『虞美人草』の連載が予告されると、いちはやく東京のデパートでは”虞美人草浴衣”が売り出されるという評判だった。

 大正時代になって、竹下夢二の描く、夢二式美人は、抒情的な顔立ちで一世を風靡、いわゆる大正ロマンティシズムを彷彿させる。

 関西へ移住した谷崎潤一郎が昭和7年から戦後23年にかけての7年間、『細雪』を執筆。それをらく擱筆したのは京都・南禅寺に構える潺湲亭(せんかんてい)であった。絢爛の谷崎王朝絵巻に登場する三姉妹を中心に、ここには花見や月見、蛍狩をはじめ、料亭での会食などの情景が鮮やかにくりひろげられる。

 中でも、平安神宮や円山公園、嵯峨野を尋ねての花見には、まさに「友禅の袂の模様に散りかかる花の風情までが逝く春を詠嘆」しているのである。ここでは若い娘たちの艶やかな衣装の一つ一つが、作者の深い美意識とともに、京の雅な風物詩そのものとなっている。


(制作中)




『ふあっしょん京都』第3号(1977年1月・京都織物卸商業組合市場振興委員会発行、京都電通制作)

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