獄舎から見た国家と高橋和巳


佐藤優著『獄中記』(2006年12月6日刊・岩波書店)は背任・偽装業務妨害の微罪容疑で逮捕され512日間の東京拘置所に勾留された折に綴った国家への復命書にして稀な記録文学である。

ロシアで情報活動を行い、外務省が切り捨てた“異能の外交官”、外務省の「ラスプーチン」などの異名をとる佐藤優氏は、2002年5月、背任などで逮捕。
05年2月に執行猶予付き有罪判決を受けて控訴中だが、「国家の罠」「自壊する帝国」「国家の崩壊」など立て続けに上梓。そこには外交の舞台裏が明かされ、国益や国家の情報戦の重要さなどが指摘されて興味深い。

国策裁判として法務省・検察庁に阿ることなく強靭な神と人間を巡る思索や驚異的な読書量の中で、氏は特に好きな作家としてチェコの亡命作家ミラン・クンデラと並んで高橋和巳を上げ、
「研究、小説、おまけに全共闘運動まで誠実に取り組み、その反動は多量の飲酒となり、肝臓がんで三十九歳で死んでしまいます。しかし、学者よりは、質量ともに業績を残していると思います」という。

さらに、高橋和巳は「大学を辞めると研究の世界から離れてしまうのではないかという不安があり、過激な政治活動への参加と過度のアルコール摂取という形で自己を転換に追い込んでいった」と、ご丁寧にも酒と女のゴシップまで押さえている。

"獄舎から見た国家"のうつろいとともにその内的転換を図ろうとする葛藤のもとに、高橋和巳が静かに語り伝えられている。

【2007年2月25日】

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