きさらぎ、ゆきのまぼろし

2月01日 晴天。
きさらぎのわれにいかなる雪ふらずせつなくあはきゆきのまぼろし
花などよささめきめぐる日の昏れてほざけかぎりを世阿弥に問ひぬ
陽だまりに転がり睡るすさまじき大和を思ふ何も見へねば
こころざし半ばに雪の降るらむか明けてきさらぎさはれ情(こころ)
櫻川の畔狂女ひとり乱舞、忌明け権現堂にて待つ弱法師(よろぼし)
櫻駅下車北進角の時雨亭、夜半風あり火災延焼

2月03日 節分ーーこの日、連句会があった。
鬼ころし駆けて真昼の野に往けば燃え転がりぬ戦車に乗りぬ
箱根路を超えて怒涛の海なりてあかねさすかな雪の実朝
かなしくば午後の浅草彷徨と寒風吹きし断帳亭日乗
六波羅に軍兵数万騎馳(は)せあつまりきさらぎの雪降りにけらしも
春鹿に酔ひて謡へば満月の夜に「悲劇の誕生」せしと

2月04日 立春、なにごともなき日曜日
春が馬車に乗って来る小夜中にふと北国へ発ちてゆかなや
悪業のはてに祈りてさわだつを春立ちくればわが荒魂(あらだま)よ
愛は恐れとともに通りぬけゆくか拒みし早春(はる)の午後の小唄(シャンソン)

2月05日 穏かな一日。
六波羅の雪にかなしく問ひたるを男は夕べ「物申さう」に
なにごともなく過ぎゆくを出撃すイージス艦の夜の白波
定家、殺せ、裏切り、伝へ、きらめけよ、かひなき歌よみてあらざれば
ダンディ、夕陽、紅(くれない)よ、老いざらめやも夢の浮橋
黒塚の姥と喚ばれしひとありて花をたむけてほほゑみゐたり
きさらぎの雨降るこころ韻文のひびけよ修羅の深きまぶたに
ーー新作能すすまず。
オイディプス王よ運命(いのち)に叫ぶれば翻案せしや新作能に
わが運命(さだめ)、わが運命(ダイモーン)に眩(くら)みたる父を殺して逐はれゆくはや
いや母よ、妻なるひとに抱(いだ)かれておかせし罪に身を裂きゐたる
官邸の中庭に燃える麒麟に届けらる朝の手紙の「ダリを殺せ」と
時雨亭の若女将失踪あはれとよ色留袖の匂ひ櫻よ

2月06日 春の陽気。
逝くものを夕べの酒に語りしをおとこあはれの春の修羅なれ
侘介椿(わびすけ)の名に隠れ住む日々なりて武州の里に風吹きゆきぬ
されば謀叛のあはれともがらゆかしめよ二月きさらぎ蒼き盃
洛北毘沙門町を彷徨ひてさはれ橋姫行方知れずも

2月07日 午後、スーパー銭湯。
無頼なれ髭剃りておりきさらぎに刺し違へむか酒乱の父と
紺青のこころ、くちびる壮年(さかり)すぎ冬の銀河の砂を浚ひぬ
幼帝を弑しきさらぎ往き隠(かく)る闇の大路に零(ふ)る雪あはれ
不粋、もとより覚悟、小夜の時雨に「真っ暗闇ぢゃございませんか」
海鼠を今宵のレシピに乾杯と”パンク右翼”の国のまほろば
内乱の地に叫ぶ朝ひざまづき花簪の夢の蛍よ

2月08日 晴天。人形の町ーー雛の飾られて。
人形の町を彩る雛なりて白酒酌みぬ夕灯かりかな
ゆるさるる愛などなくて群青の五人囃子の歌の熱きよ
放蕩のかぎりをつくし伝へらむ男雛の肩に溶ける粉雪
雛飾る家に遠縁の若後家より「乱れ黒髪」と夜のメール

2月09日 春のような一日。
一日なすこともなくツィゴイネルの舞いに狂ひてまた悔いざるか
もはや逃れることできぬ夜の海に笛吹きてさらば平家清経
このきさらぎの一日もあやしうこそものぐるほしく暮れゆきありぬ
歌など弄ぶ輩よと今朝は不機嫌に老いを苦にして濡るる春秋雨

2月10日 夕べからの雨、朝上がる。
妖精の森駆け抜けて荒海(うみ)に出る朝われ死すか童謡(うた)などうたひ
父はもはや国愛せぬゆゑにその日の朝の山河を眺めるいつまでも
思想としての全共闘、いな春風(かぜ)よ夢にたわむれ日々の過ぎぬ
いまさらに京の夢など打ち捨てよ酒酌む里に月も出(いで)けり
歌壇などと関わりなくおのれ信じよとふ一書の松永伍一
伝へむか春よせつなき夕べにて一期の夢よと裂く閑吟集

2月11日 建国記念の日、寒風吹きさらす。
あしひきの山河(やまかわ)よ 国はいづこに如月みだれ黒きはためき
ノドン二百基日本に向けられたるを出でゆく街に春の木枯
早く亡命せよ売国奴、黒鳥の水に潜りて飛び立ちゆかな
春寒のわがうつし身に憂(う)かりけりかの太秦の弥勒菩薩よ
夜の湖(うみ)に還りうたへば燃やしゐるわれのはるけき「舞踏会の手帖(カルネドパル)」よ

2月12日(月) 晴天。
たまきはる日の夕暮れに誰かきて負ひゆくらむや鶴(たづ)鳴きわたる
かぎろひのわが血のかそくまぎれむも幸(さき)くいまして夢の神庭
古墳(ふるつか)の木々を燃やしていづくにや吟(さまよ)ひゆきぬ仲麻呂愛(かな)
*夜、BSに「カサブランカ」。
「君の瞳に乾杯」と苦しきをカサブランカの霧深き夜
きさらぎに好漢(おとこ)かなしく酔いつぶれかへりて「時の過ぎゆくまま」に
愛するゆゑに苦しきをみつめゐていふな今宵は酒を浴びたる

2月13日(火) 夕刻の東京・銀座を散策。
寂としてわが一身のうたはざる銀座二月の風の立つらむ
しろがねの汗にまみれて奔走す街の灯かりの遠ざかる日に

2月16日(金) 寒風吹く1日。 
何となく疲れ物憂き一日の余寒に中(あた)り埒もなきこかな
2月18日(日) 雨の東京マラソンーー首都を走りぬくランナーたち。
雨の首都を駆けぬけるランナーに

2月25日(日) 東京・入谷で月光歌会
ーーきさらぎ、蕪村を詠む
籠り居の物憂き男ひとりゐて紙子の破れふたぎけるかな
あかねさす町にてあらばうつし身の宿うれしさよ雪降るらむか
何にせよ籠り暮らしてかはらぬをうちなる風よ「愚老無為」なる
路地奥の住まひに揺れる影なりてさだめがたかりわが二夜三夜
きさらぎに老いさらめやも前(さき)の世に夢見小路は吹雪きてありぬ

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