わが荒魂

まほろばの秋  (2007年11月)
大和し思ふ (2007年05月)
あはれ霜月 2007年11月)
春の修羅 (2006年04月)

【WEB MAGAZIN「プロメテウス」連載】



まほろばの秋

【「プロメテウス」第4号 2007年11月】

●2007年9月26日、仲秋の明月、榛名湖に遊ぶ。
榛名湖の待つとしもなきささなみの名月(つき)のしずくに沁みてゐたるも
ほの侘びて息つぎわれらさやかなる夜にうたはむさらば眉あげ
十五夜の月の煌く榛名湖に泣きぬれたるを舞ひてゆくはや
旅ねする夜のうつし身ひそかなる劇(はげ)しきものをに逐はれたるかな
月光(つきかげ)にさやぐ心ぞまほろばの夢絶ちゆきて愛(かな)しく遊ぶ

●無聊の日々に。
月の夜にダリの画集をひもとけば炎へる麒麟が泪をながす
小しぐれの釘隠町の露地灯りつとさびしきにうたひきたるも
オペラ座の支配人下血する朝 雨(あめ)降りしきり沙汰無之候
もはや信じるものなきに幻の国のはてなる風のささやき
萩揺れて父還る掌(て)に小癪にも血滲むしるし「甲冑を愛す」と
秋蝶の舞ひたる夕べ母と姑(をば)琴弾きあそぶ遠き夢はも
ヴィヨロンの溜息なれば御口傳に「風情をむねとせよ」こころせよ
いづかたの扇打ち投げ酌む酒の武州本丸城址に暮れぬ

●秋時雨の午後、大量の書物を処分。
今さらに読むつぐことの淡くしてさはれ蔵書の黒きつぶやき
叫びしを都市の叛乱日々のデモ共同幻想ゆゑにわれあり
捨てよ書を捨てよ唇 しらざればわが幻の京洛(まち)の嵐よ
老いぼれの日々を哂ひて書庫出でぬたたずむ小庭(にわ)に黄花コスモス
愛書家のはしくれうつつ日の暮れて拠るべくもなく茶をすするかな

●重信房子歌集『ジャスミンを銃口に』読む。
チュニジアよ アルジェ、カスバ、レバノンよ わが紺青のパレスチナかな
銃殺の血潮浴びたる空港に祈りてきみは駆けゆく日昏れ
熱き優しきコマンドに告ぐ薄明にささげよ花よ地上(ここ)に眠らば
ジャスミンを銃口に 口笛に明日の戦闘(たたかい)祈りうたふも

●紅葉、おお、浦の苫屋の夕暮れ。
紅葉の散る夕まぐれ一升をかかへ苫屋に酔ひて候
革命に王宮燃えて手品師は竹笛吹きぬ故国に還り
この国の崩れゆきたるたそがれの湖(うみ)に向へば哭きて髭剃る
ツィゴイネルの舞ひ狂ひてや悔ひざるか絶へぬる風にまた歌はむか
秋雨に濡れにし城下(まち)の乱思(も)へば火炎くぐりていななく黒馬(うま)
木犀の香りに朝のめざめたれわが敷島の夢のかなしも
ここ過ぎて駆けつけきたる鳥羽院はあはれしぐれに燃え焼き落ちぬ
人の世のあそびのごとき雲流れ夜のもみぢのはるかなりしか



大和し思ふ

【「プロメテウス」第3号 2007年5月】

2007年春、大和を思ふ。
陽だまりに転がり睡りすさまじき大和を思ふ花の時雨に
わが偽『山家集』破り花散りし後の戯れの死を嘲笑へ
櫻子よ黄泉比良坂(よもつひらさか)駆けゆきぬ断ちてあえかな春にみゆらむ
「家を出で世を背(そむ)けり」と方丈記 やつがれひとり遂ぐべき夜半よ
紺青のこころ、くちびる壮年(さかり)過ぎ春の銀河の砂を掬ひぬ
櫻駅下車北進角の時雨亭、夜半風あり火災延焼
わび人の老いにけらしなゆくはるは通小町を殺し候
この春は大和の夢にあくがれむわが歌亡ぶものぐるほしく
晩春の喪家燃へつき叫びしを絵葉書売りが街を出でゆく


銃撃の街に仏を訪ねゆく南無とやわれは瞑らざるかな
かつて革命を夢見しことありて好物の鯖寿司を食べおりぬ
遂に勃発せし内乱 よもすがら城址の風の吹きゆく夜よ
妖精の森駆け抜けて荒海(うみ)に出る朝われ死すか童謡(うた)などうたひ
父はもはや国愛せぬゆゑその日の朝の山河をほゝえみ駆けよ

オイディプスーー新作能すすまず。
オィデプス王よ運命(いのち)に叫ぶれば翻案せしや新作能に
わが運命(さだめ)、わが運命(ダイモーン)に眩みたる父を殺して逐はれゆくはや
うぐいすの鳴きてその日のかなしきに老いたる母を湖(うみ)に沈めぬ
いや母よ、妻なるひとにいだかれておかせし罪に身を裂きゐたる

花散りて夢乱れ。
官邸の中庭に燃へる麒麟に届けらる朝の手紙の「ダリを殺せ」と
時雨亭の若女将失踪あはれとよ花簪の夢の蛍よ
こころざし昏れてさみしき日々なれば武州の里に風吹きゆきぬ
されば謀叛のあかときにまみふかくきみのことばの蒼き盃
洛北毘沙門町を彷徨ひてさはれ橋姫行方知れずも
無頼なる髭剃りておりゆふべには歌などうたひひとをあやめぬ
不粋、もとより覚悟、小夜の時雨に「真っ暗闇じゃございませんか」
未明の夢の羞しかりかへりみむ去りにし春の旗かかげしを

こころせよはつなつ。
吹きぬけてゆく風に死のささやきの心ゆくみむわれの初夏
いまさらに京の夢など打ち捨てよ酒酌む里に叛き果てむを
“美しき田園”いづこ口笛を吹きて吟(うた)ひぬわれの一日
はつなつのヴェネツィアあはれこゝろせよ歌はざりけり水の底より


あはれ霜月

【「プロメテウス」第2号 2006年11月】



11月7日、立冬。わが小庭、侘助椿の蕾膨らむ。
(ね)も一節(ひとふし)を歌ひてよなにゆへにあはれ時雨のわが敦盛よ
陋屋に侘助椿咲き乱れ国家危機存亡に関はり知らず
紅葉の散る夕まぐれ青髭を剃りて苫屋に酔ひて候
霜月よわれの死すべき歌園に揺れゐる影を殺め舞ひたる

●梅原猛著『歓喜する円空』を読む。
円空の生涯にたどる著者のディオニュソス的考察。


この世をば愛(かな)しく生(あ)れて帰らやと今朝の御山に叫びおりたる
などて母まつばり子ならかなしくも闇に叫びて負ふてゆくはや
美濃を発ち関東東北北海と吉野入りして雪降りしきる
一片の雲、一陣の風、花よ、いのちのかぎりほとけにいのる
われはまた遊行の果てに千体のほとけに告げむ鉈をかざして
風よ木よこのひと彫りにたまかぎる護法神像 美濃の朝風
わが内にありて円空かなしきを歓喜沙門の遊(すさ)びの夕べ
ディオニュソスの使徒なりて歓喜せむ弾みの日々を生きて候
神仏習合思想、風吹きてかみとみほとけにつかへいのるも
「哄笑の交響楽」軽やかに円空仏ありぬ武州の里よ
ひそかなる夢や軋みてはなかげに遊行歓喜の世をばしたひぬ
血を吐きぬ倒れうつぶせ喚く夜も樹霊はわれに語りおりしや
かりの命笑へ浮世妻もなし百之流(もののながれ)に過しぬるかな
蓑笠にしたたる雨の冷たきを許せよ母よ明日の行方よ
烈風に晒されたるも救ひてよ暗闇(やみ)に向かひて血しぶく鉈は
いつしかも造仏聖といはれしをわれならなくに旅立つ朝は
白ら山の闇のはたての月なりて遍(あまねく)照らせ薬師曼荼羅
遊ふらん世の福(ひもろぎ)の花に笑む小児子(ちごね)の春を歌ふ神々

●武州、落城の町に住みて25年。

遥かなる武州白鶴城址とよ昏れて霜月淡き夢かな
なにゆへに寂しき町に相寄りて老ひざらめやも雨降るこころ
ゆふぐれて酒一合のかなしみに「風塵甚だ紛憂」たりと
その風骨をばまなべと『徹書記』にあり夕べさすらひ椿に問ひぬ

●NHK―TV新日曜美術館に浦上玉堂

脱藩す浦上玉堂恋しかり会津にあれば急ぎゆきしを
七絃琴抱へさすらふしぐれなる旅にしあらばあはれもののふ
その画集求め玉堂文人の生きしを燃へて裂きにけるかな
こころざし秘めしを問へばかなしもよ狂ひて舞ひぬ蒼き絵筆よ


春の修羅

【「プロメテウス」第1号 2006年4月】



●この春もまた花を訪ね、花に暮れる。
恋の苦しみ花の雪あかときにわれら歌ひて汨羅に向ふ
何ならむ「山家集」など一献の酒の座興に舞ひ破りしを
老いてなほ狂ひこととふもどかしき謀反の便りに夢削ぐ朝(あした)
老連歌師刺殺さる雲林院の稚児愛したるゆえ春の雨降る
こころざし秘めてたそがれ目を瞑るわれを死海に埋めて花散る

●亡国の山河――終日、小庵に籠る。
亡国の朝の山河に雨降りてイージス艦は行方知れずも
中世歌壇史に花月夢想百韻と近江出陣の夜の名残の歌会
アレキサンドリアの海に死す朝の鐘ひびくわが復讐のため
彼奴(きやつ)の歌のあはれ四季草花下絵和歌色紙帖 春の嵐よ
花ふぶく風の刺客にあらざればその夕光(ゆふかげ)に問ひてかなしも

●花ふぶきて歌へ、修羅はどこへ行ったのか。
みごもれる夜の廃娼祈りゐて如是我聞なる紅(あか)きくちびる
いましばし瞼重たき幻(おもかげ)を断ちてゆきたる修羅になりてや
何せうぞ一期の夢にゆき昏れて赦せしずかに遊(すさ)び果てねば
つひに革命も維新もなく過ぎぬ友一人去りまた晩(く)れなんとし
憂国の士にあらざるもこの恋の苦しきわれに花の雪降る

●WEBマガジン『プロメテウス』とよ。
禿鷹よわれを蝕めこの夜も身を裂きゆけよ流刑のかなた
あはれ夢めぐりて果てよいかなるもプロメテウスよ春の地獄よ
コーカサスの山の巌にほほゑみて腹引き裂かれわれはおりたる
照る月に火を与えしがつれなくも神の怒りにふれしといふか
この春を傷(いた)み左手(ゆんで)に持ちゐたる花にさらばと告げてかなしも

●春なれば悲しき夢の明り、夜遅く小雨降る。
その花の行方を追ひて比良坂の夢の睡りに血しぶく闇夜(よる)
さもあらばエチカに告ぎて紺青のあはれこの世にわれはまたある
串割きの詩歌くれなゐつゆけきを落花の舞ひに重ね絶えなむ
いざ湖(うみ)に向ひて青髭(ひげ)を剃りゐれば春に告げたるわれの荒魂
鳥羽殿にさはれ駆けゆく五、六騎の花吹雪せよ夢の夜半なる


▲INDEX▲