秋、あやしうこそ

暑い夏が去り、日に日に秋めく日々。
つれづれの日くらし、「あやしうこそものぐるほしけれ」と。


秋の日のヴィヨロンの溜息なれば御口傳に「風情をむねとせよ」
華やぎの悪事を重ねほほゑめば秋暮れゆきて蒼き涅槃図
若き母あゆめる秋の石段に雨降りゐれば髪の黒きを
老いたれどなほ狂ひたれひねもすを回し転びぬわが風車
妖精の森駆け抜けて荒海(うみ)に出る朝われ死すか童謡(うた)などうたひ
歌など弄ぶ輩よと今朝は不機嫌に老いを苦にして濡るる秋雨
父はもはや国愛せぬゆゑにその日の朝の山河を駆けよほほゑみて
未明の内戦伝へられ立ち竦みまだ降り止まぬ夜の雨に濡れ
十二歳の長女殺したる母逮捕、秋の夕べの雨に叫ぶも
いまさらに京の夢など打ち捨てよ酒酌む里に月も出(いで)けり

歌壇などと関わりなくおのれ信じよとふ一書の松永伍一

伝へむか九月の風よ洋館(やど)にきて一期の夢よと裂く閑吟集

思想としての全共闘、いな秋風(かぜ)よ夢にたわむれうつつと住みぬ

ハイヒール投げ捨て女ゆくはての砂漠に恋めざめがたきも

木犀の香りに朝のめざめたれわが敷島の夢のかなしも

この夕べ酒など飲みてあてどなき巷に思ふ老ひし荷風を
この国のつひに何たることもなきひと殺しなき夜にふく笛かな
大いなる生命の循環と共生ーー森の翠のしたたれ夏よ
水底の歌よ流竄の日々なるも暗黒(やみ)にさまよひ叫びて皇子(みこ)は
神々よ飛鳥よ風よ逐はれなば流刑のかたに立ちて眠れよ
<怨念>の黒きエトスに血塗られし古代(とき)の悲劇(ドラマ)のわれの朝焼け
春ゆふべ地獄の思想もて京の大路に裂けし若き詩魂は
隠された十字架なれば前(さき)の世の誰(た)が夢に告ぐ花は散りなむ

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