わが実朝忌


二〇〇九年一月、世事混沌。
払暁、鎌倉炎上――心の中に雪が舞い散っていた。

ここ過ぎて駆けつけきたる鎌倉は雪のしぐれに燃へ焼き落ちぬ
国内に自爆テロあり髯剃りぬこころの奥のよしの山かな
思ひかね金塊和歌集紐解きつカフェオレ飲みていかがに候
かの定家欺き断じきらめけよ かひなき歌にひとり寝覚めぬ
されば謀叛 その一閃に昏れなむをきみのことばの蒼き列伝
山は裂け海はあせなむ世に反(む)きてあはれうつつのわが実朝忌

八大龍王知らしめたまへひとふしの詩魂醒めざる雪のあけぼの

私は歩いた、夜空の下を、ミーズよ、私は忠僕でした。
さても私の夢みた愛の、なんと壮麗だったこと!
                    ――ランボオ『わが放浪』 中原中也訳


無頼なるゆふべかなしく酔ひくづれ歌などうたひひとをあやめぬ

放浪のはてに血しぶき呪はれよわれのミーズの黒き憤りよ

何ならむ「殺せ、ランボオ」 行方なきわが敷島の夢のかなしも
深夜(よる)の巴里 檸檬爆破したりけりさはれ男は「物申さう」に
不粋、もとより覚悟なれ流離へば「真つ暗闇ぢゃございませんか」
さても夢みた愛を今切り捨てぬ夜明けの町を逐はれゆくはや

福島泰樹が或る会合の席で、私に促すように言った。
「『夜の銀河鉄道』を、新作能にしてつくれないかな・・・・」

まどろめば銀河鉄道ゆきはてぬサザンクロスに夢の燃へゐる
われら星降る夜に死すひたすらに語り告げざる幻(ゆめ)の童に

風、雲、波の飛沫ーー雁の童子よ妙法蓮華経、スールダックよ

煌きの第四次元のかなしきをうなづきゆけば夜のジョバンニ
さあ、切符をしつかり持つておいで、世界の火や波の中を歩ひてゆく

この夜の銀河の光り浴びゆけば死のひとときの羞しかりけり

カンパネラ 淡き水面にほほゑみし汝が夭き日のゆめのくちびる


歌誌「月光」2009年04月号

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