漂流する時代の中で

 『毎日新聞』(2006年1月16日 東京朝刊)のコラム「記者ノート」には、“体中を揺さぶられるような思いで読んだ”という『邪宗門』のことが取り上げられている。
そして、「シュークリームのように甘い流行作家の中編小説もいいが、今は亡き作家が書いた苦くて濃い味のする長編小説もよいものだ。今から思えば、自分自身よりもはるかに過酷な運命に向き合う人々の生き様に圧倒されたのかもしれない」と。

 ――近代文学は、いわゆるバブル、消費社会、ポストモダンなる1980年代に終わったといわれる。
冷戦や社会主義が終結し、「近代」の終焉が語られ、確かに「文学」は先端的な意味を持たなくなり、「近代文学」は文字通り葬られたのであろう。

 とはいえ、現実の文学作品はいろいろジャーナリズムの話題とコマーシャリズムの評判で量産されている。それが、「シュークリームの味」であるかはともかく、インターネット時代のネットやメールの普及が読書時間を奪う方向に働くものの、ブログが即座に本になり、結構売れている。

 激動する社会。
 グローバル化と市場原理主義など、巨大マネーの国家を超える力など、「日本の溶解現象」がつぶさに論じられている。そして、日本は戦後の占領政策の負の遺産を抱え、主権を失った状況下でつくられた憲法の制約要因を払拭できないまま、そのアイデンテティを見出すことができないのである。

 情報の波に翻弄され、ためらいながらも、時に、じっくり『邪宗門』を紐解きたい。


【2006年2月21日】

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