安土の秋



■平成十七年十一月、安土城址を訪ねる。
大手道より石段を上がり、天守、本丸跡に立つ。


晩秋に愁い問ひくる風なりて過ぎゆける日をあはれ狂づる
夢幻(ゆめまばろし)のごとくなりこととはば茜さしたる安土霜月
血に咽ぶ本丸跡にたたづめば明日の軍(いくさ)に瞼閉じたり
秋深く戦乱の世を訪ひくれば蒼き城址に炎(ほむら)たちみゆ
なればよ旧大手道ゆきゆけば永遠(とは)にさらばと散る紅葉かな

■天正七年(一五七九)、安土城建てられる。
中央には壮麗な天守閣ーー信長の追う幻想の城であった。

いかならむ下天に叫びかくありて波瀾安土の夜を駆けゆく
桶狭間から本能寺、地吹雪の闇を切り裂き流れゆくはや
焼き討ちも成し遂げえねば急雨(むらさめ)に濡れ荒れにしを怒涛の夜は
天下布武、あはれ夢なるまほろばの国にかなしき漢(おとこ)ありけり
『信長公記』に「すはかゝれ」三百騎伐ち伏せ頚をとりたる夕べ
髑髏盃酌みて宴の乱声(らんじやう)の夜に告げゆく男あはれも
「死のふは一定(いちじやう)」のまた数寄なりて是非におよばず御舞ひ候
勝どきのとどろく兜いづかたに脱ぎて羞しききみをあひ見て
乱世に愛すましぐら駆けゆかな雲母(きらら)うすべに信長われは
(いくさ)なるうぬが知らずもほほゑえみて奔馬(うま)に鞭打つ美濃の朝風

■天正十年(一五八二)六月払暁、本能寺の変。
ーーその直後、安土城炎上。


まこと人間五十年、謡ひ舞ふ汗がしたたるうつけが首よ
さもあらば幻想(ゆめ)の城なれ昏昏とわが絶唱の血噴きの朝(あした)
しののめの天守閣(てんしゆ)よ神よ伴天連よ兵のまぶたよ安土の秋よ
絢爛の旗なびく暁(あけ)語らばやきらめく湖(うみ)に投げたる扇
あかねさす湖(うみ)に忿りて青髭(ひげ)剃れば何ぞこころの城燃へ落ちぬ

歌誌『月光』第2号(2006年1月15日)

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