わが菊開月ーー二〇〇五年


一日、渋谷BUNKAMURAにてモロー展。
迷宮のサロメに会ひて一期なるゆめ研ぎはてよ夏の終わりに

三日、朝、愛犬と朝の公園散歩。
わが菊開月あからひくおそらくは亡びつつあり国を愛すか

六日、NHK−BSに成瀬巳喜男監督『妻』(上原謙、原節子)見る。
流れゆく日々の哀しき日暮れかな妻にてあらば微笑(ほほゑみ)うかべ

七日、白露。台風が日本海へーー期日前投票に行く。
この国の空飛びゆきて悲しけれまぶた覆へよ蒼きかりがね

八日、成瀬映画『歌行燈』(花柳章太郎、山田五十鈴)。
門付けの男なりてもこの舞ひに打ち込む明日の恋の松原

九日、井上ひさし作『小林一茶』(こまつ座公演)見る。
いづくへか一座に興じつれなくもまたかなしくも黒きてのひら

十日
拒むものなき蒼穹(そら)にたとへ愛の洋傘させよつひに堕ちても

十一日
イージス艦出港せる朝秋来ぬやこころの奥のよしの山かな

十二日、上弦。衆院選挙で小泉自民圧勝。
高らかに刺客マドンナ騒ぎゐるテレビを消して二階に上がる

十三日
秋蝶の舞ひにし夕べ母訪ひて琴弾き遊ぶ遠き夢はも

十六日、十三夜。
物思へば憂しとて浮きぬ一日を過ごしうそぶく十三夜かな

十七日、能『大原御幸』(能楽観世座公演=友枝昭世、梅若六郎)。
大原の里のゆふべにまた誦(よ)みぬ南無とよわれの夢のゆめなる

十八日、中秋の名月。
いかなれば生くるかぎりをしなやかに担はれよわが城下(まち)の月なれ

二十日
秋雨の夕べになりてこととへば般若のことぞ血もて語らな

二十二日、朝、小雨。
歌亡びいな風萎へて謀られし不覚の夜に叫びてゆかな

二十三日
愛と憎しみのアメリカ 戦後六〇年の今朝なる粥のうめぼしよ

二十四日、台風十七号、伊豆に接近と。
血圧のいささか高き憂し午後の雨に濡れ咲く彼岸花かな

二十六日、秋日和の一日。
散り急ぐ花の名残の益荒男の酌みしゆふべの酒のかなしも

三十日、パソコン故障。
国歌なき日本にあしたいもうとよ髪洗ふ母よりも哀しく


【歌誌『月光』11月号通巻1号ーー2005年11月15日号】

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