わが詩歌変ーー塚本邦雄氏を悼む




2005年6月9日、塚本邦雄氏、逝去。
絢爛の詩句の背後を覆う恐るべき呪の響き。

「近くて遠き同志よ」てう紺青のオマージュを、今、再び噛みしめる。




さぶしみの日々に咲きたる花菖蒲うたひくれなむ風の城址に
さらば憂愁禁じがたし一日を沁みゐる雨に何をいふべく
信ずるものなき六月てのひらに雨の慕情の手記
(カイユ)明けゐる
その花の揺らぐひかりに哀しみのゆめ語りこぬわれの水無月
御風雅いかが木枯らしに何告げむいづかたの誰
(た)がための夢はも


上京の岳父老いたるも微笑
(わら)ひて雨夜の一献古唐津絵皿
逆流にうるみ汝
(な)が眸の恍惚と降りかかる夜の蒼き花房
うつくしき暗殺われに誓ひてよ昏れて菖蒲に雨降りしきる
壮年のあはきかがやき水澄める国はつなつに詩歌あざむき
月光
(つきかげ)に密謀す美(は)しき群盗は上洛せむか病みつつもなほ


天籠の詩歌いづこにほほゑみて皇帝ペンギン行方知れづも
液化してゆくピアノ昏昏とわれ何を遂げたる眠りのあとに
夏さりて父は遁れ来し汗の掌
(て)にまた嘉(よみ)しつつ「甲冑を愛す」と
寒梅の紅
(こう)にくしみの一つかみ歌なれつひにうるむあかとき
仇敵にうつくしき国いずこなる
何ぞ憎みて払暁に死す


国歌なき日本にあしたいもうとよ髪あらふ母よりも哀しく
死に至る病にさはれ絢爛とまなじりあはくきざすゆふぐれ
はつなつにわれより先に裂かれたる罪束ねむと花に嘯き
詩歌滅びんとピアノ鳴りつづく夢に月さす夜の火事なれ
漆黒の馬洗ふ払暁ひとり恋ひゆけばまた人をあやむる


水葬物語みなづき永久に謳はぬ遠き近江にまぎれ
歌をおもへばししむらくるしきに木曽殿あはれ落ちゆくゆふべ
彼奴
(きやつ)こそくろがねの朝の憎しみ六腑はるけき風の乾くを
さみだれに言の葉蒼く斬りきざむもはやいふべき人のなければ
はたと絶ゆ隣町からの文なれば再
(ま)たくるめくたとへば詩魂


紺青のわかれずぶ濡れ闇にふる掌
(て)に一巻の風流(ふりゅう)婆娑羅と
椿散りつれなくあはれひとあやめ浦の杜屋の燃えたるゆふべ
きぬぎぬのわかれしろがね生業
(なりはひ)の花と紅葉を切り洗ふべく
われに突然の老いきたるをゆふべ心いさよひ近江に行けば
魯山人写しみなづき酒酌みて詩魂縹渺たりと逝きしを


絢爛のからくれないの歌人
(うたびと)を殺める夜にかざす白百合
われら水無月うつくしき死よいかに新古今紐解きゐるを
たましひの湖
(うみ)に浮かべし蒼穹の空に投げゐし装飾楽句
火夫はひとり火炎くぐり抜け水浴びし墓石持ち立ち去りたるや
葬送のピアノ鳴りたるほほゑみの血噴く膝よ感幻楽よ

【2005年6月30日】

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