偽山家集ーー2005年

■3月29日、時々晴れ。早咲きの桜に今年も巡りあう。
くれなゐの花にてあらば憂きことも多きこの世に忍びてあらむ
吉野の里にすまむとぞ山ざくら苦しき春に心添はずも
心なき身にもあはれの知られけり醒めざらましを春のあけぼの
花の雪いづくともなくゆかざらむわが後の世も散り乱れしを
風に散る花の行方に涙して人とぶらはば春の夕暮れ

■わが春に逝きし娘、明日香よ。
花に舞ふ亡き娘(こ)の唇(くち)のくれないゐの今いくたびの春にあふべき
若髪のなびきゆけるをまぶしくも花簪のゆれて愛(かな)しき
うすべにのはなびらあはれさらさらと夢刺ししかば舞ひてゆくはも

■3月30日、風強し。粛状の1日。
山ざくらあはれ老ひてゆく夕べなれせめてうたへよわが身なりせば
花ゆえにまた苦しかりねがはくは春の盛りにさまよひたるを
花吹雪く光にまみれ世のうきに風の刺客に問ひてゆきたる
うかれきし杯上げてかなしけり花の盛りをいかに過ごさん
花に問ひ花に嘯きちりそむる名残の夢にあはく目覚むる
春の馬車乗り降りかかるゆふべかなあだなる花を殺めきたるを

■夕方、愛犬と散歩。
夕桜散りにしはてに告げざればこころのおくの花明かりかな
春死なん念(おも)ひさやけき山里にうたひかへらむわが山家集

■3月31日、晴。花舞う。
散ればまた世に涙してわが生ける吉野の山の花時雨かな
春は苦しきにまたいのりかぎろひの花にめざめて蒼き夜叉なれ
荘厳(しやうごん)の散る夕まぐれふきあぐる泪のはてのわれの櫻子(さくらこ)

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