霜月の昏き夕べに(11月10日)



●霜月、茫漠と過ぎゆく日々
暁闇に目覚めてかなし霜月の風のたよりに夢を放たむ
老いざらめ花よしずかにほほゑみてわれを殺めて夕べありけり
争乱の国に殺されゆく若き者たちの唇(くち)炎へてさらばと 
こころざし秘めたるあはれ霜月のいまひとたびの蒼き太刀なる
紅葉の散りにし夕べ瞼閉じ彼奴(きやつ)のなれを見送っておる
透明な狂気とうあやふきわれにきらめく愛のしかと見つめられ

●糖尿病予備軍――食事節制、禁酒と。
空腹に苦しき午後を何をせむまぶたおもきをただ窓に寄り
一杯の飯を噛みつつ目をつむり「五キロ減量」とつぶやきておる
酒を断ち酔ひたることもなき夜の茫漠と過ぎ時雨降りける
クラッカーを食みつつさはれ血糖値いかにありける夜の風吹く
みづみづきしき男の果てに告げらるあかときやみを駆けてゆきつも
秋時雨不粋な男となりにけり酒呑まざるに七日となりぬ

●八月、タイに遊ぶ。
暁の寺なればわれ泪ぐむ太刀鞘鳴りてよぎる益荒男
花掲げ少女ほほゑむ夕べかなチャオプラヤーの川の流れに
王宮に祈る詩歌の亡びたれ雨に濡れたるエメラルド仏よ
サマセット・モームゐたればはなやぎの朝のグランドフロアに行きぬ
静かなる瞑想にとぞ紺青の王宮に舞う鳥の影かも
さらば夏 昏きゆふべに湯浴みせり王も王妃もしづかに狂ふ
手を出して物乞ふ女つきまとひ見れば眠れる背の小さき子
一片の埃にまみれ取り出せし版木にくゆる物語あり


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