武州暮らしーー2013年夏 




1、うつつ老いぼれ 

夏河を超へし少年いまいづこドアの向うで内戦勃発し 

灯明も花もいらぬにただ老父は北へ旅立ちたかったのだ 

「老後を豊かに」なんてどいついったのか八月盛夏茶粥をすする 

朝のウォーキング5,000歩に汗ふきぬ武州暮らしの夏が過ぎゆく 

世がなだれ時代が分からぬ百日紅咲きみだれたる真昼を歩く 

エンディングノートに遺す謎の文字わからぬままに雨の上洛 

朝顔の一輪二輪もぎとりて朝茶にうつつの老いぼれひとり 

いかなれば銀齢の果て老人は死ねこの惑星にほほえみ残し 

*「銀齢の果て」は筒井康隆の小説 

憲法改定論まくしたてし岳父亡くなりし夜に酌む酒のにがきを 

雨の散骨クルージングから帰りまた海辺を歩く夜明けまで 

2、遠き町の花火よ 

ああかくて偽リベラル派によりくづれゆく朝に聞くモーツァルト 

老舗料亭の若女将疾走 かの夜の襦袢の鮮やかなりしを

スーパ能「世阿弥」に問へばほほゑえみて後ろ姿に降りゆく時雨

一滴の酒も煙草もやらぬ友逝きて蜩の啼く森をさまよふ 

ケータイを落とし切断あたふたといやまう持たぬこの通話機は 

横丁の居酒屋(みせ)も潰れてかなしけれ一合の酒 鰻串焼き 

悪友から夜のメール受信せり「今、北欧の旅、Ipadより」と 

亡き姉のその黒髪のなだるるをイージス艦は昨夜炎上 

夢みてをりし花時雨また夢に追はれゆく身のせつなかりしを 

鱧寿しを食べたくありし日々過ぎて遠き町には花火があがる


綜合サイト「プロメテウス」2013年08月04日に掲載


▲INDEX▲