スカーフェル・パイク〜イングランドで一番高い所
(湖水地方)


Wast Water湖岸から見るScafell方面(雲の中)

 ヨーロッパに来てまもなく、私はドイツ最高峰、オランダ最高地点に行った。そうするとつい各国の最高地点に行きたくなる。馬鹿は高い所が好きなのだ。会社のイングランド人の同僚に聞いてみた。「イングランドで一番高いところはどこだ?」
「ベン・ネヴィス。」「違う、そこはスコットランド。」「イングランドで一番高いとこはど〜こだ?」「・・・・」イングランド人の癖にそれを知っている同僚はいなかった。地図を広げ、片っ端から高いところを探した。イングランドには確かに高い山は無かった。湖水地方が比較的凸凹していて、ここに目的の山はありそうだった。スカーフェル・パイク 978m。この山にまず間違いない。ロンドンの大きな本屋ディロンズでガイドブックを調べてみた。やはりこの山がイングランド最高峰だった。ちょうど日本から山の好きな同僚が出張してきていたので、彼にも声をかけてみた。「そりゃ面白そうだ。」その週末に行ってみることにした。
 土曜の朝まだ暗いうちに宿をたった。高速M1を北へ。途中からM6に乗り継ぎ、ひたすら北へ。Kendalで高速を降りて西北へ進むと湖水地方だ。きれいな湖と牧草地をいくつも通り過ぎたが、時は3月だったため、湖面をさざなみを立てながら越えてくる風は冷たく、あまり観光をする気分にはなれなかった。目的地の湖Wast Waterの近くまで来ると既に夕方で、ちょうどよく小さなホテルがあったのでそこで一泊することにした。そのホテルは老夫婦によって経営され、古き良きイングランドといった風のアンティークな感じを醸し出すすばらしい所だった。ディナーはメインディッシュが鱒で、今でも記憶に残る、それはそれはうまい絶品だった。
 次の朝、スカーフェル・パイクに向かって出発したが、出発前に、この老夫婦から、「登るのはた易いが、頂上付近が雲に隠れていたら登ってはだめだ。道に迷うからね。」と忠告された。
細長い湖Wast Waterの右岸(向かって左)を岸にそって細い道がうねっていた。湖の一番奥に車を停め、登り始めたのだが、頂上はどんよりとした雲の中で晴れる様相は全くなかった。おまけに相棒は出張できた日本のサラリーマンそのものの格好(スーツにネクタイ、コートにビジネス革靴)だったため、登頂はすぐにあきらめ、雲のかかっていない湖左岸の高台に登ることにした。切り立った左岸の高台についてびっくりした。「そうだったのか!この湖はU字谷だったんだ!スカーフェルを発した氷河はこのU字谷を形作り、氷河の末端に氷推石(モレーン)と呼ばれる小山を形成する。このモレーンの向こう側にあのホテルがあった。そしてこの谷はそのまま光輝く海へと向かっていた。